ChangeきゃすてぃんぐKANON-1月9日


違和感コメディChangeのバリエーション。

注1:キャラは全体に壊れぎみです。各キャラに属性のある方は大いなる寛容の心でお読みくださるようお願いいたします。
注2:基本的に役名で進んでいますので、時折、本来が誰だったかを確認しないとよくわからなくなることがあると思いますが、それは作者の意図ですので、申し訳ありませんが頑張ってお読みください。(ほんとは本来の名前でやってもよかったんだけど…Changeの名前を冠してしまったのでしょうがないっす <をい)

現在まで判明しているキャスティング
・名雪役---香里
・秋子さん役---天野
・あゆ役---秋子さん
・香里役---佐祐理さん
・栞役---舞

では、どうぞ。

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ChangeきゃすてぃんぐKANON-1月9日
 

1月 9日 土曜日
 

…目が覚めた。
カーテンのすき間から、朝のまぶしい光がさしていた。
オレは傷む頭を抱えながら、ベッドに起き上がった。
…なんで頭が痛いんだ?
だいたい、いつの間にオレはベッドに?
オレは昨日のことを思い出して…
…やめとけばよかった。朝から気分が最低だ…もういやだ、こんな世界は…
さっさと永遠にでもなんでも…
チクタクチクタク…
…その前に、あの世に行くのは…嫌だ!
オレはあわててあたりを見回した。
今日は目覚まし時計は…ない。
じゃあ、どこから…
オレはもう一度、見回して…
…なんだ、このけろぴーは。こんなところになぜぬいぐるみが…
……ココからしてるよな、音。
ということは…
オレはあわてて窓を開けると、けろぴーを振り上げて、そして…
バキッ
…痛い…
「痛いってばよ!」
オレはダブルで痛む頭を抱えて、後ろを振り返った。
「…けろぴー、なんで捨てるのよ!」
…そこにはやっぱり、名雪(香里)が立っていた。例によって、すっかり制服を着込み、腰に手を当ててオレをにらんでした。
「なんでって…お前がこんなところに時限爆弾仕掛けるからだろっ!」
「…時限爆弾って何のこと?」
名雪は全く動じない。
「これに仕掛けたんだろ?」
「何のことかしら。あたしは…知らないわ。」
…しらを切らせたら日本一な奴だからな、名雪は…
「…なら、いいけど。」
オレは自分の時計を見た。もうすぐ…7時30分。
「…じゃあ、あたしは行くわね…」
足早に出ていこうとした名雪に、オレはけろぴーを持ったまま、立ちふさがってドアを閉めた。
「…何をしているの?」
「…いや、名雪とちょっと、ゆっくり話したいと思ってさ。」
「…そう…」
名雪の目がけろぴーを見る。
「…いや…名雪って、朝、強いよな。」
「…そうでもないわよ。」
チクタクチクタク…
名雪が部屋の時計を見る。あと…30秒。
「でもさ、いつも目覚ましがなる前に起きてくるじゃないか。」
「…それは…」
チクタクチクタク…
あと20秒。
「やっぱり、血圧が高いのか?」
「誰が…」
チクタクチクタク…
あと15秒。
「秋子さんも早いみたいだし…」
チクタクチクタク…
あと10秒。
「…多分、水瀬家の…」
チクタクチクタク…
あと5秒…
「…貸しなさいっ!」
名雪が急いでオレの手からけろぴーを取ると、そのまま窓から放り投げた。
けろぴーは放物線を描いて…
ドッカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン
…今日の水瀬家の損害:窓ガラス1枚。
「…これで勝ったと思わないことねっ!」
名雪がオレをきっとにらむと、オレをどけて出ていった。
…お前は真琴かっ!
…て、真琴が登場するのは今日じゃないか…キャスティング誰だろうな…
…って、オレも毒されてきてるよ…
オレはその場にしゃがみこんだ。
…とりあえず、今朝は、命は、無事、だった。

「おはようございます」
「…おはようございます。」
オレがダイニングに入ると、既に名雪がテーブルに座っていた。でも、もちろん、朝の挨拶に答えたのは、秋子さん(天野)だ。
「…昨日はよく眠れましたか?」
「…はあ。」
…というか、夕方からず〜〜〜〜〜っと寝てたんですけど…
「…っていうか、オレ、昨日、どうやって帰ったんでしょうか?」
オレの言葉に、秋子さんがオレを見た。
「…覚えておられないのですか?」
「…はあ。」
「…昨日、祐一さんは、病院に運ばれて…」
「…はあ…」
「…そして…」
「………」
「………」
秋子さんはオレをじーっと見た。
そして…
「…今朝は和食でいいでしょうか。」
…そんなに言いたくないような状態だった…のか?
………
「…はい。」
「分かりました。」
…聞かない方が幸せな気がした。多分。
「…いいから、早く食べなさいよ。」
名雪がオレを横目でにらんだ。
「…おう。」
…この目にも、ずいぶん慣れたよな。そんな自分が嫌だけど…
「…で、名雪。お前、何食べてるんだ?」
「…あ、これ?」
名雪はさっきからつまんでいる、小鉢に入っている物をオレに見せた。
「蜂の子よ」
…おいおい。
「ちなみに、こっちのはイナゴね。」
…待てい!
「こっちはゴキ…」
「それ以上…言わないでくれ。」
…本気で朝から、胃液吐きそうになるぞ…
「…おいしいのに。」
名雪は本当に不思議そうな顔をした。
「…いらない。」
「あたしなんか、これがあったらご飯3杯は食べられるわよ。」
…どっかの先輩でも食べられないかもしれんぞ。これは…
「いや…オレ、食欲ないから。」
オレは椅子から立ちあがった。
「…そうですか?」
秋子さんがキッチンから顔を出すと、
「他にも、おかずはあるのですが。」
「…どんな?」
「フナ虫の…」
「…行ってきます!」
…オレにはそれ以上聞く勇気がなかった。
オレはあわてて廊下へ飛びだした。
「…待ちなさいよっ!」
ご飯をかき込んだ名雪が、あわててオレの後を追って、一緒に家を飛び出した。
「…行ってらっしゃい。」
そんなオレたちを無表情に手を振って、秋子さんが見送った。
「…なんで名雪まで一緒に来るんだよ。」
オレが振り返ると、名雪は肩をすくめながら
「あんたがいなくなると、あたしが全部食べなきゃならないじゃない。あたし…フナ虫だけはダメなの。」
…他はいいのかよ…
オレは名雪の顔を見た。
「…水瀬家って、朝、和食はいつもこうか?」
「もちろん。昼と夜は、まあ普通の料理だけど、朝は決まってこれよ。嫌ね、祐一。あんたも7年前には、おいしそうに食べて…」
「…さっさと行こうぜ。」
振り向いて走り出そうとしたオレに、名雪はにっこり微笑むと、
「…大丈夫よ。祐一もきっと、昔を思いだすわ。」
…嫌だ。絶対に、嫌だ。絶対に思い出すもんか!
オレは心に誓いながら、学校への道を駆けだした。

今日は途中で猫に会うこともなく、オレたちは校門にたどり着いた。
「…やっぱり、あの時、あの猫を沈めとくんだったわ…」
「…しつこいっての。」
「…あはははーっ、やっぱり仲いいですよねーっ」
オレたちが校舎に入って廊下まで行くと、ちょうどそこに香里(佐祐理さん)が立っていた。
「…おはよう、香里。」
「おはようございまーす。」
香里がオレに抱きついてきた。
「…香里、オレは名雪じゃないぞ。」
「あははははーっ、そうですねー」
「…そうですね、じゃないわよ、香里…」
香里が渋い顔で
「そういえば、あんた、クラスのみんなにあたしと祐一が一緒に住んでるって言いふらしたそうね。」
「え〜、そんなことありませんよーっ」
香里さんはにっこり笑って
「聞かれたから答えただけですからーっ」
「…それが言いふらすっていう事なのよ…」
「そうなんですかーっ、香里、ちっとも知りませんでしたー」
…何か、30メートルくらいズレた会話…
「…あたしの野望が…」
…まだ言ってるのか、名雪…
「…もう、先生、来たぞ。」
「…しょうがないわね。」
「あははははーっ、座りましょう。」
オレが言うと、二人があわてて教室に入る。他の生徒も同様だった。
バタバタと席に駆け寄る生徒に混じって、俺たちも自分の机に戻る。
こんな時、窓際組は不利だった。
「あー、全員席に着け」
担任の先生が教室のドアを開け、そして朝のHRが始まって、そして終了。
どうやら、今日から普通に授業…
…教科書とか、ないぞ。
オレは名雪の顔を見た。
「…オレ、教科書ないんだけど。」
「…そう。よかったわね。」
…こいつに頼ろうとしたのが最初から間違いだな。
「あははははーっ、香里の教科書見せましょうか?」
後ろで香里が笑って言った。
…できるかい。
オレは後ろの男子生徒を突っついた。
「教科書見せろ。」
「やなこった。」
そいつは首を振って言った。
「あははははーっ、北川くん、見せてあげてくださいねーっ」
香里がニコニコ笑いながら言うと、急にそいつは愛想笑いを浮かべ
「…喜んで見せてあげよう。相沢くん。」
「…お前、久瀬?」
「…いや、ここでは北川だ。」
…立ち絵もないのにキャスティング変えるな…
「…いや、遠慮する。」
「そう遠慮するな。なんならお茶菓子を付けようか。」
「毒が入ってるんだろ?」
「そんなもの、このわたしが入れるわけが…」
「…あ、香里。北川がお前に…」
オレが香里に話し掛けると、いきなり北川(久瀬)は愛想笑いを浮かべて
「…相沢くん。ついでにコーヒーも付けよう。」
「いらん。」
「………」
顔色が変わる北川。
オレはすかさず
「…なあ、香里。」
「はいっ!」
「…相沢くん。仲良くしような。」
北川が引きつった笑いを浮かべながら、オレの手を握った。
オレは思いきり北川の手を握ってやった。
北川も思い切りオレの手を握っていた。
「…男の友情っていいですねーっ」
「………」
「………」
…なんか、授業中、退屈しないかもしれないな…
思ったところにチャイムが鳴った。

授業は退屈だった。
学校が変わっても、それは変わらないものだ。
「…眠いな。」
とはいえ、さすがに転校早々寝るわけにもいかず、シャーペンを指の中でくるくると回しながら時間が過ぎるのを待っていた。
そしてそれにも飽きた頃、授業は2時間目も後半戦…
オレはあまりの退屈さに、窓の外をぼーっと見ていた。
そして…
「…おい、北川。」
「なんだね、相沢くん。」
「…なあ、香里…」
「何でしょうか、相沢くん?」
…よっぽど香里に弱いらしいな。
「…人がいる。」
「…そりゃあ、学校なんだから人ぐらいはいるさ。」
「…窓の外にいるんだが…お前、あいつ知ってる?」
「ふっ」
北川は鼻で笑うと
「おれがこの学校で知らない生徒など…」
と言いながら窓の外を見て…
「………」
そのまま、表情を凍らせた。
「…どうした?」
オレが聞くと、北川はゆっくりと振り返ると、そのまま教科書に向き直った。
「…知らん!」
「…いや…」
「俺は知らないぞ!絶対…知らないぞ!」
…まあ、予想された反応だった。トラウマになっただろうからなあ…
オレはもう一度窓の外を見た。
そこは、ちょうど校舎の裏に当たる場所だった。
一面を真新しい雪に覆われた、どこかもの悲しい場所。
人が足を踏み入れた跡さえ、その場所には残っていなかった…。
一組の、小さな足跡を除いて…。
その足跡の辿り着く先には、女の子がひとり立っていた。
手を腰にあて、ほとんど身動きひとつせず…
…あれは昨日の…
ガラッ
「…おい、君、授業中…」
先生の声がしたかと思うと、オレの横に誰かが立った。
と、いきなりオレの襟を掴むと、
「…来て。」
「…あれ?」
今、こいつ、あの庭にいなかったか?あれ?
「…お前、あそこに…」
オレが聞くと、少女はオレをじっと見た。
「…変わり身の術。」
…そんな技が使えたのかっ?
などと考えている間も、オレは引きずられていた。
「…おい、どこへ…」
「…来るの。」
オレは逆らうこともできずに、そのまま中庭まで引きずられていった。
少女は中庭までオレを引きずってくると、そのまん中で立ち止まった。
「…ここでいい。」
「…はあ?」
そして、オレに振り返ると、
「…どうしたの、こんなところで」
「…おい。」
…お前が連れてきたんだろうがっ!
「なんなんだよ、お前はっ!」
「…生徒。」
…それは制服着てるから、見れば分かるって…
「じゃあ、何でオレのところに来たんだ!」
「………」
「なんでオレをここまで引きずってきたんだ?」
「………」
少女は何も言わなくなってしまった。うーむ、これは…
「…あははははーっ、栞、ダメじゃないですかーっ」
いきなり、明るい声がして、振り返るとそこに香里が立っていた。
「もう、ちゃんと昼休みまで待たないとダメじゃないですかーっ」
いいながら、香里は栞(舞)のそばまで来た。
「…寒いから。」
「それは分かりますけどねー、それくらい、我慢しないといけませんよー」
「…めんどくさい。」
「これだから栞は…」
「…えっと…」
オレは香里の肩を叩くと
「…こいつ、香里の知り合い?」
「えーっと…」
香里はちょっと考えると、
「あははははーっ、そんなことないですよー。香里に妹なんていないですからーっ」
…誰もそんなこと聞いてないって。
「あ、でも、この子、美坂栞って言うんですよー」
「…美坂栞?」
…美坂栞…美坂香里…
「…香里。こいつ、お前の妹なんじゃないの?」
「あはははーっ。香里に妹なんていないんですってば。ねー、栞?」
こくり
栞はうなずいた。
「あははははーっ。ね、相沢くん。」
…頭、痛い…
「それでですね、栞はこの高校の1年なんです。」
「…やっぱり、知り合いなんでしょ?」
オレは香里の顔を見た。
香里はニコニコ笑いながら、ぶんぶんと首を横に振って
「全然知らないんですーっ。で、栞は風邪で休んでるんですよ。ね、栞?」
こくり
「で、誰かさんに会いに来たんですよねー」
こくり
「…誰かさんって、誰?」
オレが聞くと、香里はオレの背中をどんっと叩いて
「あははははーっ、相沢くんに決まってるじゃないですかー。あ、でも、秘密なんですよー」
…どこが秘密なんだよ…
「それからですね…えっと…あと、何かあったっけ、栞?」
栞は無表情のまま、ちょっと首をかしげると、首をわずかに横に振った。
「あははははーっ、じゃあ、これで終りですねー。じゃあね、栞。」
「…じゃあ。」
栞は無表情のまま、歩いてその場を去っていった。
「あははははーっ、じゃ、香里も帰りますねー」
香里も校舎に入ろうとした。
「…香里。」
オレは香里を呼び止めた。
「はい?」
「…やっぱり、お前、栞の姉なんだろ?」
「あははははーっ」
香里はにっこり笑うと
「だから言ってるじゃないですかー。香里は栞なんて知りませんよ。香里に妹なんていないんですからー。あ、でも、明日はちゃんと昼休みまで待つように言っておきますからねー。じゃあ、香里は戻りますね…」
そして、香里は去っていった。
オレは中庭に立ちつくして…
…何だったんだ、今の時間は?

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オレが教室に帰ったのは、2時間目の後の休み時間だった。
オレは廊下から教室に入ろうとすると、
「…貴様、何してたんだ、美坂と!」
と叫びながら、北川(久瀬)がオレにすごい勢いで駆け寄ってくるのが見えた。
とりあえず、オレは北川を避けてみる。
「…うわ〜〜〜」
…北川はそのまま廊下を横切って、開いた窓から落ちていった。
…まあ、下は雪だから死ぬことはあるまい。
オレはとりあえず無視して席に座った。
香里はどこかに行ったのか、席に座っていなかった。
「…ご苦労様ね。」
隣の席で眠っていたらしい名雪が、オレを見て退屈そうに言った。
「…確かに。」
何がなんだか分からないが、取りあえず今日の半分は終った気がした。
ぐー
…そういえば、今朝は朝ご飯を食べてなかったな…
…というか、昨日の晩も…昼も…食べてないじゃん。
思い出すと、途端にもっとお腹が減ってくる。
しかし…まだ学食があくまで時間があるな。どうするかな…
「…相沢…貴様…」
ちょうどその時、北川が教室に入ってきた。若干、頭から血が出ているが、取りあえず命に別状はないらしい。
「あ、ちょうどいいところに来た、北川。」
「ちょうどいいところって何なんだ…」
言いながら近寄ってきた北川に、オレはにっこり笑って言った。
「香里がな…」
「え?美坂がなんだって?」
途端に北川の顔が輝く。
「香里がな…何か、パンが食べたいって言ってたぞ。」
「パン?」
北川が怪訝な顔になったので、オレは言いそえて
「どうやら、今日は朝ご飯を食べてこなかったらしくてな。今、売店にパンを見に行ってるんだが…知ってのとおり、あそこも昼休みまではパンを売ってないだろ?だから、香里、困ってたぞ。『あー、誰か香里にパンを買ってくれる人、いないですかねー』って…」
「香里!不承、この北川が買って参ります!」
北川が叫んで駆け出そうとする。
と、名雪が顔を上げ、
「あ、それからね、北川くん。」
「なんだ、水瀬さん。」
「香里…『午○の紅茶』が好きだって言ってたわよ。きっと、一緒に買ったら…」
「もちろん、買って来ないでか!待っててください、美坂!」
叫ぶと、今度こそ北川は教室を飛びだしていった。
入れ代わりに、もう一つの入り口から香里が戻ってきた。
「…何か、北川くん、すごい勢いで廊下、走っていきましたよー」
「ああ、香里。」
オレは香里の顔を見た。
…もともとの香里と北川でも…あれだけど…
…このキャストじゃ、絶対に…報われないな、北川…
「…何か、急に走りたいって言って、飛び出して行ったよ、北川なら。」
オレが適当なことを言うと、香里はにっこり笑って
「そうなんですかー。元気でいいですねーっ」
「…そうね。」
さすがに名雪があきれたように答えた。

北川が帰ってきたのは、その5分後。
確か、一番近いパンを売ってる場所までは、片道、どんなに走っても5分かかるはずだが…これも愛の力(笑)?
「…はあはあはあ…み、美坂!」
北川は息を切らしながら、香里の席の前に立った。
「…はい?」
香里がにっこり笑って顔を上げる。
北川はとっておきの顔を作ると、
「…お嬢様、不承、この北川がお食事を買って参りました。」
大仰な動作で、手にした袋からパンと缶の紅茶を出した。
香里はポケッと北川の顔を見た。
「…これ、なんですかー」
「…へ?」
北川が驚いた顔でオレを見た。
オレは北川に近寄ると、その手のパンを一つとって
「…悪い、北川。あれ、オレの勘違いだった。」
「…勘違い?」
北川は呆然としている。
「おう。それ言ってたの、香里じゃなかったわ。すまん。」
「…すまんって…」
「ま、そういうこともあるさ。あ、せっかくだからこのパンはオレがもらっておいてやるよ。」
「紅茶は、あたしがもらっておいてあげるから。」
名雪が缶を取り上げた。
北川はしばらく呆然としていたが、やがてその顔色がだんだん赤くなってきて
「…お前ら…」
「…あ、そうそう、香里。」
と、名雪が紅茶を飲みながら
「せっかく北川くんが、勘違いとはいえ香里のためにこんなに頑張ったんだから、あんた、感謝の言葉、掛けてあげたほうがよくないかしら?」
「ああ、そうだな、香里。」
オレもすかさず同調する。
香里はちょっとぽかんとしたが、すぐににっこり笑うと
「そうですねー、なんだか分かりませんけど…北川くん、香里のために、どうもありがとうございますねーっ」
「あ、いや、こんなことくらい…」
すぐに北川の顔がほころぶと、香里に微笑んでみせる。
キーンコーン
ちょうどその時、予鈴が鳴った。
北川はそのままの笑顔で、自分の席に戻っていった。
…北川…お前って…ひょっとしたら、一番不幸なキャスティングかもな…
一瞬、そんな同情もわいたが、しかし…
…ま、いいか。しょせんは北川だから。
これからもこの手でこき使おう。
そう誓うオレだった。

4時間の授業が終って、オレはさっさと家に帰った。
この2日、出歩くとろくなことがない。今日は一日家にいよう。
そう思いながら、ぼんやりベッドに転がっていた。
そしてうとうとしているうちに、ようやく日が傾きかけて…
コンコン
「はい。」
オレが言うと、秋子さん(天野)が部屋に入ってきた。
「…よろしいですか?」
「あ、はい。」
オレはベッドに起き上がった。
「どうかしたんですか?」
「いえ…」
秋子さんはあいかわらずの無表情でオレを見ると、
「ちょっと困ったことがありまして。」
「はあ。」
「…冷蔵庫が空なのです。」
「…はあ。」
「ですから…」
秋子さんがオレを見つめた。
…これは、オレに買い物に行けということだな。
…買い物に行く…
…商店街に行く…
…嫌だ。この2日、あそこでろくなことがなかったぞ。それもみんな、だいたいあのあゆ(秋子さん)が絡んでのことだが…
「…そうですか。オレ、一寝入りしますので…」
オレは寝たふりをしようとした。
秋子さんはオレをじっと見ていたが、ふと横を向いて、
「…祐一さん。人間の肉って…アルミスタン・ラム肉のように美味だそうですが…知っていましたか?」
「…は?」
「それなのに…残念ですね。祐一さん本人はそれを味わえないなんて…」
「…買い物に行かせていただきます!」
オレはあわてて立ち上がった。
秋子さんはオレの方に向き直ると、
「…では、お願いします。」
「何を買ってくればいいですか?」
「食べたいものでいいです…」
「…はあ…」
「…わたしの。」
…あんたの食べたいものなんか、知らんわ…
「…じゃあ、タヌキ汁…」
「………」
秋子さんはオレをじっと見つめた。
「…猿の脳味噌って、珍味なんだそうですが…人間だったら、きっと、もっと…」
「…急いで買ってまいります!」
オレはあわてて部屋を飛びだした。

とりあえず、家を飛び出したオレは、ともかくそのまま商店街へ行くことにした。何も買ってこなかった場合、このシチュエーションコメディが、昔、流行った食人SSとして終る…
(…そういうエンディングは、却下)
…えっと…なんだ、今のは。
ともかく、オレはあゆがいないのを確かめながら、とりあえずさっさと買い物をすませようと…
ぱたぱたぱた
「…はあ…足、速いですぅ…」
…何か、後ろで声がする。
とりあえず、あゆの声ではないようなので、オレは無視して先を急ぐ。
さっさっさっさ
ぱたぱたぱたぱた
「…はぁ…ちょっと速すぎですぅ…」
…誰だか知らないが、オレを追ってきてないか?
なんだか知らないが、また関り合いになって問題が複雑になるのが嫌なので、オレはやっぱり無視してスーパーの自動ドアをくぐった。
そして
バン!
「…痛ったぁ〜いです…」
自動ドアに挟まれて、そいつは困っているようだった。
仕方がないので、オレは相手をすることにした。
「…何やってるんだ、お前。」
「…すいません、挟まれちゃいました…」
…普通はまた開くもんだが、背が小さいうえに、胸も小さいもんだから…
「…そんなこという人嫌いです…」
…また口に出してたか?
「…何してるんだ、栞。」
「いえ、ここでは…えっと、記憶喪失の少女です。」
…いや、声でうすうすは分かってたんだけど…そういうキャスティングかい…
「…えっと、やっと見つけました…」
…いや、見つけてたけど、追いつかなかっただけだろ?
オレがぼんやり見ていると、少女がまとっていた…ストールをふわりとまた肩に掛け直した。
「…なぜストール?」
「もちろん、返してもらいましたから。」
…まあ、トレードマークだからな…
「あなただけは…許しませんから、です。」
「あ、そう。で、だからどうしたんだ?」
「え、えっと…」
少女はあわててポケットに手を入れると、
「か、覚悟ですぅ!」
ピコッ
…ピコピコハンマー?
一昔前に流行ったようなおもちゃのハンマーが、オレの頭に載っていた。
「…遊んでるのか?」
「…いえ、痛いのは嫌いですから…」
「…あ、そう。で、もういい?オレ、買い物があるから。」
「え?」
少女は驚いた顔で
「え、あの…それじゃあ、困るんですぅ…」
「…そうなの。でも、オレも買い物していかないと、食べられちゃうからさ。」
「…大変ですね。」
「ああ。これがマジだから恐いよ。ま、そういうわけだから…」
オレは買い物を続けようと、店の中に入ろうとした。
「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」
少女はオレの服の裾に必死に繋がってきた。
「…服、伸びる。」
「あ…ごめんなさい。」
少女はあわてて手を離すと、
「でも、わたしも一応、話を進めないといけないことになってるんですけど。」
「…じゃあ、いいよ。さっさとやろう。」
オレは可哀想になったので、相手をしてやることにした。
「で、どうしたいんだ?」
「はい!えっと…」
うれしそうに答えると、少女はまたポケットに手を入れると、
パンパカパ〜ン
「…高○切りバサミ・デラックス〜」
…著作権、大丈夫かな…
「…で、これ、どうするの?」
「えっと…」
少女は指を口にあてると、
「これで高いところの枝もきれいに切れるんです。ストッパー付きですから、枝が落ちて汚れることもないんです!」
「…そう、よかったね。」
…どうしてこの世界のやつらは、こんなのばっかりなんだ…
オレは本気で永遠の世界を望みたくなった。
「で、これをどうするの?」
「…あれ?」
少女はぽかんとした顔になり、あわててそれをポケットに戻すと、もう一度ごそごそしていたと思うと、
パンパカパ〜ン
「ムー○ウオーカー・スペシャル〜」
…本気で著作権、大丈夫かな…
「…で?」
「えっと、ですね、これは部屋の中で歩行運動ができる、画期的な…」
「…ごめん。せっかくの所悪いけど、オレ、急いでるんだよね。さっきも言ったように、オレの命が…」
「…でも…」
少女は必死にオレの服を掴んで、離そうとしない。
うーん、どうしたものか…
…待てよ。
オレは少女の顔を見た。
…こいつを連れて帰ったら、いざという時にオレの代わりに…
「…お前、家に来る?」
「え?」
少女はオレの顔を見た。
「何か、記憶ないんだろ?」
「…えっと、それはまだ話してないはずなんですけど…」
「…さっき、自分で記憶喪失って言ったじゃないか。行くとこ、ないんだろ?」
「…そうなんですけど…」
「じゃあ、決定。とりあえず、オレ、買い物してくるから、お前も来い。」
「…はい。」
少女は素直にうなずいた。
「…でも、一応、言っとくけど。」
一応…PL法もあることだし、言っておいたほうがいいだろう。
「はい。」
「…もしも家の連中が置いておけないって言った場合、お前…おでん種だぞ。」
「え?」
少女はオレの顔を見た。
「…まさか、おでん種なんて…冗談ですよね?」

「…大きなおでん種ね」
オレが少女を連れて帰ると、リビングにいた名雪が言った。
「…え?」
「ああ、本当に大きなおでん種を買ってきたんですね。」
キッチンから出てきた秋子さんが、やはり少女を見ながら言った。
「…ええ?」
いきなり、後ろに下がる少女。
「…ばかね。」
「冗談ですよ。」
…だったら二人とも…そのよだれはなんなんだ…
「とりあえず、こいつ、記憶喪失らしいから。」
オレは二人に説明した。
「だから、とりあえず拾ってきた。さ、煮て食うなり焼いて食うなり好きにしろ。」
「…えええ?」
少女は本気で壁に背中をひっつけて
「…帰ります。」
「…どこへ?」
「………」
少女は肩をがっくり落とした。
「…はあ。」
「…可哀想なこと言ってるんじゃないわよ。」
驚いたことに、名雪がまともなことを言って、少女のところへ歩み寄った。
「さ、顔を上げなさい。お姉さんが守ってあげるからね…」
「…え?」
見上げた少女の顔を見つめ、香里は舌なめずりをした。
「…あなた、可愛いわ…」
…マジか?昨日、秋子さんが言っていたのは…マジなのか?
そりゃあ、こいつは登場キャラの中で、一番儚げで被虐心もそそるだろうし、第一、胸も小さくてロリコンにはもってこい…
「…そんなこという人嫌いですぅ!」
ピコッ
「そうよ、そんな図星を…いいえ、酷いこと言うなんて!」
ドカッ!
…名雪、その…急所を足蹴はやめろ…
「お婿に行けなくなったらどうするんだよっ!」
「その時は、お母さんがもらってくれるわよ!」
「…ぜっっっっっったいに嫌です。」
秋子さんが吐き捨てるように言った。
…そこまで言わなくても…しくしく
「…でも、記憶喪失というのは本当なのかしらね。」
オレの様子など目に入っていない名雪が、少女を見ながらつぶやいた。目には怪しげな光が篭っている。
「…というと?」
秋子さんが言うと、名雪は舌なめずりをして
「…身体検査して、身元が分かるものがないか、調べるのよ。」
「…それはたしかに、必要かもしれませんね。」
秋子さんがうなずいた。
「でしょう?」
名雪はにやりと笑うと、
「…というわけで、小猫ちゃん…ちょっといらっしゃい…」
…名雪…お前…妖しいすぎ…
「…いやですぅ!」
少女は壁を背に、じりじりと逃げる。
「…小猫ちゃん…大丈夫、何にも痛くなんてしないから…きっと、気持ちよ〜くしてあげるわよ…」
「嫌です、お姉ちゃん!目、覚まして!」
「うるさいわね、栞。お姉ちゃんの言うことを聞きなさい!」
…おいおい、地に戻ってるぞ、お前ら…
「いやあああ!」
少女は脅えながらポケットを探ると、
パンパカパ〜ン
「…もしも○ックス〜」
…絶対、それは著作権上の問題があるぞっ!
「…あ、今さら間に合わないです…」
…出す前に分からないか?
じりじりと迫る名雪。
少女は絶望に染まった瞳で、名雪の顔を見ていた。
名雪が手を伸ばす。
少女はその手を振り切って、最後の力でポケットを探り…
パンパカパ〜ン
「…高○切りバサミ・デラックス〜」
…だから…
「えいっ!」
ガン!
…その長ーいハサミの柄は名雪を越えて、過たず、オレの頭を直撃。
オレは…
「…いや〜〜〜〜〜」
…少女の悲鳴を聞きながら、気を失った。

どうでもいいけど、今日もまともに夕ご飯を食えなかったぞ…

<to be continued>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…1月8日よりもまた長くなったぞ…夜のシーンは無しにしたのに…
「…何か、栞さん、一番まともですね。」
…これは真琴だって。でも…1月10日にはどうなっているかな?(ニヤリ)
「…可哀想に…」
…美汐だって壊れてるんだし。まあ…適度に壊れてもらうと。で、明日はいよいよ…引っ越しだから、投稿できないかもね…
「でも、PC立ち上がりしだい、書きはするのでしょう?」
…おう。ま、次回を楽しみにっ!次回は…新しいキャラは出ないのか。残念…
「…何を楽しみにしているんだか。」

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