Come back Home! (にんぎょひめの娘たち-3)


真琴系SS

実感ほのコメと呼んでください(苦笑)
でも、今回はあんまりコメディじゃないです…

シリーズ:にんぎょひめの娘たち

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前置き

この物語はフィクションです。
Kanonの登場人物以外の名前、および物語内の出来事に関して
現実の何かに似ていると思われる事物があったとしても
それは偶然の一致です。
ええ、そうですともっ(涙)

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Come back Home! (にんぎょひめの娘たち-3)
 

「…何か、寂しいよな…」
オレは真琴を見ながら言った。
真琴はベッドに横になって、オレの差し入れの肉まんをかじっていた。
「…そうだよね。」
オレの言葉に、真琴はオレを見ながら
「真美の時は、もっと…」
「…だよな。」
オレたちが見ていたのは、ベッドサイド。
正確に言うと…そこにある、お見舞い、お祝いの品。
「真美の時はさぁ…何か、そこにいっぱいになってて…」
「置くとこなくて、オレ、毎日持って帰ったよな…」
「なのに…」
…まあ、二人目だとしょうがないのかな…
「お見舞いも、あんまり来ないしな。」
「…でも、あたしはその方がよかったけどね。」
「…?」
オレは真琴の顔を見た。
真琴はまた肉まんを頬張ると
「なんかさ、真美の時は、もう毎日毎日、入れ代わり立ち代わりお客さん、来てて…」
「…だろうな。」
「お客さんが来ると、一応、お話するじゃない。あっちも気を使ってるけどさ、一応、こっちも気を使うの。」
「…お前でも、気、使うのか?」
「…祐一ぃ。」
真琴はオレをにらむと、
「…お父さん、お母さんも、3日続けて来てたのよ?」
「うっ…」
…初孫だってんで、あの親でも出張先から水瀬家に泊まって、3日間、ほとんど入り浸りだったよな…
「気を使うなっていうけど、そんなわけにいかないじゃない…」
「…そういやあ、あいつら、今回は顔も見せなかったよなぁ…」
…我が親ながら、二人目の紗梨の時には顔も見にきやしない…
…まあ、オレを置いて海外に何年も行っちまうような親だから、期待してなかったけど…
「そうじゃなくてもさぁ、授乳が3時間おきにあるのに、その間に次々に人が来て…なんか、休めなかった…」
「…オレ、帰ろうか?」
オレは腰をあげた。
「…祐一はいいのっ」
真琴はにっこり笑うと、頭を枕に落とした。
「…まあ、それ考えたらさ、人、来なくて楽は楽なんだけどねっ」
「じゃあ…」
「…でもねっ、何か…寂しいのっ。真美の時はさ、ビデオ、誰か持ってきてて、真美、取っててくれたじゃない。写真もいっぱいさぁ…」
「…えっと…」
…かくいうオレも、真美の時は、人から借りてまでビデオ、取ってたよな…
「あ、明日は持ってくるから。」
「…ホントに?」
「おう。病院を出てくるとこ、しっかり取るからさ…」
「…お願いね。」
真琴の声に、オレは頷いた。
何か、北川も言ってたっけ。そういう写真があるとかないとか、そういうのって子供を傷つけるって…
…あれ?あいつって、次男だったっけ?うんと…
…まあ、そんなのどうでもいいか。
「…でも、寝坊、しないでよ。」
「お、おう。名雪じゃあるまいし。」
「…ホントに?」
「…えっと…」
オレは思わず、真琴の目を避けた。
…まあ、休みの日は、結構、昼まで寝てたりするし…
「…大丈夫?」
「……多分。」
オレが答えると、真琴は息をついて
「そんなこともあるんじゃないかって、名雪が持ってきてくれたから。」
「…なにを?」
「そこの、テーブルの横の紙袋、見てみて」
「……?」
オレは真琴が指差す紙袋を取った。
そして、覗きこんで…
「…これ?」
「うん。」
「…これ、何に使うんだ?」
「だから、祐一が朝、起きられるように…」
「…これで、オレ、朝、起きるのか?」
「うん。昔、使ってたじゃない?」
「…オレが?」
「うん。」
「…これを?」
「うん。」
「…これを…」
オレは言いながら、紙袋の中から、それを取り出した。
真琴は、オレの持っているものを見た。
そして…
「…真美っ!返しなさいっ!」
「ば、ばかっ!病院で叫ぶなっ!」
…それは、バナナの皮だった。
まあ…これで起きる奴はいないわなあ…
「…呼んだ?」
ぱたぱた、真美が掛けてくる音がして、その顔が病室を覗きこんだ。
「…真美?」
真琴はにっこり笑うと、病室に入ってきた。
…その手には、懐かしい物が。
「…返しなさい、真美。」
「…はぁい」
真琴の声に、真美は珍しく手にしたそれ、目覚まし時計を素直に真琴に渡した。
…例の目覚まし時計。
『あさ〜、朝だよ〜…』の、あの起きる気をなくす時計…
「…それで起きろってか?」
オレは真琴の顔を見た。
真琴はオレを見ると、にっこり笑って
「そう。中の言葉は、あたしが入れ直しておいたから。」
「…なんて?」
「…秘密。」
いうと、真琴はますます微笑んだ。
「…聞いてやる。」
「あ、ダメっ!明日、起きる時に聞いて。ね?」
「………」
真琴がオレを見上げていた。
懐かしい、オレの好きな上目遣いの目だった。
「…おっけー。」
「うん。」
頷くと、真琴はオレに目覚ましを渡した。
オレはそれを受け取ると、持ち帰りの紙袋に入れた。
「じゃ、そろそろ授乳だから。」
「おう。紗梨によろしく。」
オレは真琴が起きるのに手を貸すと、真美の腕を持った。
「じゃ、真美。ママにバイバイしろ。」
「うん。バイバイ!」
「うん。また明日ね。」
そして、オレと真美は真琴を送ると、病室を後にした。

オレは真美を水瀬家に預けて家に帰ると、目覚まし時計を枕元に置いて、セットした。
そして、早めに眠りについた。

「だあああああ、遅れた〜〜〜〜」
オレは車を出ると、病院の出口に急いだ。
空は晴れて、退院日和…って、そんなの言ってられるかぁ!
必死で駐車場を出て、そして…
「…遅刻だな。」
「…へ?」
そこに北川が立っていた。
「…どうしようもない父親ねえ…」
「…香里…」
「ほんとだよね…」
「…名雪。」
名雪の隣に、秋子さんがニコニコしながら立っていた。
そして…
「なに遅れてるんだ、祐一。」
「…親父…に…」
「…馬鹿。」
「…おふくろも…来てたのか?」
「当たり前だ。孫のことだぞ。」
「………」
…入院中は来なかったくせに…
そして…
「…祐一の…バカぁ。」
…真琴が口をとがらせて、オレを見ていた。
腕には白い産着を着た紗梨がオレを見ていた。
…何か、紗梨までオレを責めてるような…
「目覚ましが…」
「目覚ましのせいにするのっ!真琴が用意したのにっ!」
「…いや…」
「もう…」
「…いや、ごめん。」
オレは真琴に頭を下げた。
真琴はオレを見ていたが、すぐににっこり笑うと、
「…いいから、紗梨、持って。」
「…おう。」
こうして、オレは始めて自分の娘を腕に抱えた。
生まれたばかりの赤ちゃんって、首が座ってなくて、やっぱり持ちにくい…
「…気をつけてね。わたしもさっき、持ったんだけど…」
「…名雪?」
オレは名雪の顔を見た。
…なんで親のオレが持ってないのに…
「…あ、あたしも抱かせてもらったわよ。」
「…香里…」
「ちなみに、オレも…」
「…北川。何でお前まで…」
「当然、わたしたちも、抱いたぞ。」
「……親父…おふくろ…」
「…ねっねっねっ!」
呆然としているオレのズボンの裾を引っ張る…真美。
オレは真美を見下ろした。
真美はオレを見上げて、満面の笑みを浮かべた。
そして…
「真美も抱いたよっ!真美、お姉ちゃんだもん!」
…オレは…真美よりも…後なのか?
はぅ…

6月25日
相沢祐一
自分の親よりも
叔母よりも
従兄弟よりも
友達よりも
娘よりも後に
最後の最後に自分の娘を初めて抱いた父親。

…しくしくしく
 

「…何で寝坊なんてしたのよっ!」
「こんなので…起きれるかよ…」
「なんですってっ?」
「…聞いてみろ。」
ぽちっ
「さる〜〜〜〜さる〜〜〜〜〜さ〜〜〜る〜〜〜〜〜」
ぷつっ
「………」
「………」
「…真美のやつぅ…持っていってる間に、録音したのね…」
「何でも真似するからな…」
「叱ってやる…」
「…もういいよ…でも、本当は、なんて録音したんだ?」
「…え?えっと…」
「……?」
「…言わなきゃダメ?」
「…言ってほしいけど…」
「………うん。その…」

『パパ〜、あたしと紗梨が、あたしたちのうちに帰る日だよっ!
早く起きて、迎えに来てねっ!』

「…って。」
「……真琴…」
「………えへへへ。」

<to be continued>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…なんて言うか…フィクションです。
「…聞き飽きましたね。」
…いや…これは実感ほのコメであって、実話ほのコメじゃないってことで…
「…みんな、信じてないですよ。」
…ホントなのにぃ(涙)でも、今回はほのぼのだけだったような。
「…まあ、こういう回もあっていいでしょう。」
…なんか、こういうのを書きたくて、元々『風・鈴』書いたんだって思いだしたよ。だから…受けてるようだったら、本掲示板が復活しても書くかな…
「まあ、それは読んで下さる方々の希望によりますね。」
…うん。さあ、次回のネタ、思い出そう…じゃなくて、考えよう(苦笑)

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