言わなくて・言えなくて

(夢の降り積もる街で-5)


あゆSS。

シリーズ:夢の降り積もる街で

では、どうぞ。

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言わなくて・言えなくて (夢の降り積もる街で-5)
 

1月10日 日曜日
 

目が覚めると、もうお昼だった。
まあ、別に珍しい頃ではないけれど…まだ寝足りない感じがする。
というのも…思えば、昨日の夜、夕ご飯を食べた後、少しは片づけをしようと部屋に積み上がったままの段ボール箱を開けはじめて…
…最初の箱が、取っておいたマンガだったのがまずかった。思わず、読みはじめてしまって…
結局、夜中まで。全然片づけが進まないまま、寝てしまった。
「…どうするかな。」
オレはベッドで起き上がって、まだ積み上がったままの段ボールと、昨日、広げてしまったマンガを見た。
…片付けるどころか、ますますひどくなっている気がした。
これは気合を入れて片付けるしかないか…
オレはため息をついて、ともかく着替えて階段を降りた。
「…おはようございます。」
「あ、おはようございます。」
ダイニングに入ると、ちょうど立っていた秋子さんが、振り向いて
「ご飯、食べますか?」
「あ、お願いします。」
「はい。」
秋子さんはキッチンに入っていった。
オレはいつもの席に座ると…
「…気のせいかな。」
「…何が?」
「…今日は日曜だと思ったが。」
「そうだよ。」
「…じゃあ、名雪。お前、また寝ぼけてるぞ。」
「…違うよ〜」
名雪は言うと、イチゴジャムで真っ赤なパンをおいしそうに口に運んだ。
別に名雪が食卓にいる、それが変だと思ったわけじゃない。
もう、昼なんだから。
ただ…
「…じゃあ、何で制服着てるんだ?」
「…これから部に行くんだよ。」
名雪はゆっくりと味わっていたパンを一口、やっと飲み込むと
「部活だから。」
「…お前の部は、日曜日もあるのか?」
「普通はないんだけどね。1年の子で、自主トレしてる子がいて…」
「…付き合う気か?」
「…うん。わたしも、練習したかったしね。」
名雪はにっこり微笑んだ。
「…つくづく、お前ってお人好しだな。」
「違うよ。だから、わたしも練習したかっただけだよ。」
「……そうか。」
オレは力説する名雪の顔をじっと見た。
「…うん。」
名雪は微笑むと、また一口、パンをかじる。
とてもおいしそうだった。それしか考えてないように見える顔。
でも…
「…そうか。」
オレはもう一度つぶやくと、窓から外を見た。
外は快晴のようだった。
屋根に積もっていた雪が散る様子を見ると、風は少しあるらしい。
「…どうぞ、祐一さん。」
秋子さんがオレの前に、ご飯とおかずを置いて
「…お味噌汁、もうすぐあったまりますから」
「あ、すいません。」
焼けた塩鮭のいい匂い。
ひょっとしたら、この鮭も秋子さんが自分で塩漬けにした…
…まさか、さすがにそれはないか。
「…で、祐一さんはこれからどうしますか?」
秋子さんが味噌汁を持ってくると、オレの前に置いて
「…そうですね…」
オレはとりあえず、鮭を一切れ、口に入れると
「今日は部屋を片付けようと思ったんですが…」
「うんうん。その方がいいよ。」
パンを食べ終わった名雪が、立ち上がってオレを見ていた。
「祐一の部屋、全然片付いてないものね。」
「…本当は、お前に手伝ってもらおうかと思ってたんだがな。」
「…帰ってからだったら、いいよ。」
「…練習終わるの、何時だ?」
「…5時かな。」
「家に帰って、ご飯を食べて、お風呂に入ると何時だ?」
「…8時かな。」
「で、名雪。何時に寝るんだ?」
「……ちょっと無理かな?」
「に決まってるだろうが。」
オレの言葉に、名雪は顔をしかめると、
「…じゃあ、どうするの?」
「……そうだな…」
オレはもう一度、窓の外を見た。
外は変わらずいい天気で、雪がまぶしく輝いていた。
「…とりあえず、ちょっと休んで…それから、一人で片付ける。」
「…大丈夫?」
「…多分。」
…名雪を戦力に予定していたのだが…
でも、名雪ではもとより戦力にならない気も…
「…じゃあ、わたし、行くね。」
「おう。」
「…ふぁいと、だよ。」
名雪は言うと、廊下に出ていった。
オレは名雪を見送ると、もう一度、窓の外を見た。
「…まあ、やるしかないか…」
 

「…やるしかない、んだけどな…」
オレはつぶやきながら、思わず息を吐いた。
息は凍って白かった。
陽は暖かく感じるが、やっぱり風が冷たい。
オレはポケットに手を入れたまま、またあたりを見回した。
朝ご飯兼昼ご飯を食べた後、オレはとりあえず部屋に戻って、いくつかの箱を開けた。箱を開けはしたのだが…
…片付けるのは好きじゃないんだよな。
「…さて。」
オレはまたため息をつくと、商店街を見回した。
とりあえず、気分転換のつもりで外に出たのだが…
他に行くあてもなく…気がつくと商店街にいた。
さて、これからどうしたものか。
とりあえず、どこか暖かいところに入って…
とその時、オレの目に、最近見慣れた看板が。
…今日は日曜だし…暇つぶしになるしな…
オレは思わず笑いながら、看板の方に歩いていった。

カランカラン

「いらっしゃいませ。」
店員の声が響く。
…でも、元気いっぱいという声じゃない。
オレは店内に入ると、出てきた店員の顔を見た。
「何人…あら?」
ちょっとすらっとした店員が、オレの顔を見て
「…まだ、あゆちゃん、来てませんよ。」
「…いや…」
「もうちょっとしたら来ると思うんですけど…」
「…そうじゃなくて…オレは単に…」
オレがあわてて手を振ると、店員はオレの顔を見て
「…単に?」
「…単に…」
「………」
「………」
「………」
店員は黙ったオレの顔を見ると、ニコニコしながら
「…とりあえず、席へどうぞ。」
「……はあ。」
見透かされたようなその笑いに、オレは思わず苦笑いすると
「…じゃあ…」
見回すと、店内は割に空いていた。
この手の甘い物屋のたぐいは、平日の夕方や土曜の昼の方が込んでいるものなのかもしれない。
…逆に、そうなると、男一人というのは…
「…じゃあ、ここ、いいですか?」
オレはカウンターのそばの二人がけの席を指差した。
…そこが一番奥になっていて、外からも見えにくそうだった。
「…そうですね。」
店員はクスッと笑うと、座ったオレの前にメニューを置いた。
オレはそのメニューも開かずに
「コーヒーを。」
「…はい。」
店員はくすくす笑ったまま、カウンターの影に消える。
…いればいるで居心地悪い感じだったが、そうなればそうなったで、手持ちぶさただった。
オレは店内をもう一度、見回した。
見たところ、客は2組で、もう注文は食べ終わって、おしゃべりの最中。
窓の外は快晴で、明るい光が店内まで射し込んでいる…
「…お待たせしました。」
声に見上げると、ちょうど店員がコーヒーをもって立っていた。
「…どうも。」
「………」
店員はカップの載ったトレーを持ったまま、にっこりと微笑んだ
「…一緒に休憩していいかしら?」
「…は?」
まじまじと見たオレに、店員は微笑んだまま、コーヒーをオレの前に置くと、向かいの席に座った。
オレは否応もなく、店員の顔を見ていた。
店員は椅子に座ると、長いストレートの髪を右手で後ろにやると
「…ねえ…ここ、知ってる?」
「…はあ?」
いきなりのタメ口に、オレはコーヒーを持ったまま
「…何を…」
「…ここはね…」
と、店員はオレの方にふいに顔を寄せ
「…店員の恋人専用の場所なのよ。」
「…ブッ」
思わず、口のコーヒーを吹きそうになる。
店員はさっと椅子の背もたれに寄りかかるように逃げた。
そして、いかにもおかしそうに口に手をやると
「…あははは。」
「す、すいません。」
オレはカップをあわてて置くと、
「コーヒー、掛からなかったですか?」
「大丈夫、大丈夫。予想してたから。あはは。」
店員はいかにもおかしそうに、オレを見て笑っていた。
どうやら、思い切り気さくな人らしかった。
多分、オレよりも年上だろう。
長いストレートの髪と、ちょっといたずらっぽい目が印象的な女性だった。
「…あはは。ごめんなさい。ちょっと笑いすぎね。」
店員は笑いすぎて出ていた涙を指で拭くと
「ごめんなさい、祐一くん。」
「…え?」
オレは店員の顔を見た。
「…オレの名前…」
「…あゆちゃんから聞いてるわ。」
ビックリしているオレの顔を見て、また店員はくすっと笑って
「初めまして。わたし、中瀬香奈美。あゆちゃんとはバイト始めたのが同じくらいなんで、仲良くしてるの。」
「…そうですか。オレは相沢祐一です。」
「ふうん…相沢…」
店員、中瀬香奈美さんはまた髪を右手で撫でると
「…わたしも祐一くんと呼んでいいかしら?」
「…いいですけど。中瀬さん。」
「わたし…名前で呼ばれる方が好き。」
「じゃあ…香奈美さん。」
「ええ。」
香奈美さんはにっこり笑うと、足を組み替えた。
「で、祐一くん。」
「…はい。」
「あなた…あゆちゃんとは、どこまで?」
「…へ?」
オレは香奈美さんの顔を見た。
香奈美さんのいたずらっぽい目が、薄暗い店内の灯に微かに動いていた。
「…いや、オレとあゆは、そんな関係じゃないです。」
「…そうなの?」
「はあ。」
「ふうん…」
香奈美さんはオレの顔をまじまじと見た。
「…じゃあ、この間の娘が本命?」
「…はあ?」
オレは香奈美さんの顔をまじまじと見返した。
「…何の話ですか?」
「ほら、昨日、一緒に店に来てた、髪の長い娘。ちょっと落ち着いた感じの…」
「…ああ、名雪のことですか。」
オレはあわてて首を振って
「名雪は、いとこですよ。オレが居候してる家の。」
「…あの子と同じ家に住んでるの?」
香奈美さんは言うと、ちょっと眉をしかめてオレの顔を見つめた。
「…それは…まずいわね。」
「は?」
「あゆちゃん、それ、知ってるの?」
「…はい?」
…何やら、香奈美さんは、ものすごく誤解しているようだった…
「あのですね、香奈美さん。オレ、両親が海外出張で、それで仕方なく、親戚の名雪のとこに居候してるわけで…」
「あら、そうなの。」
「はい。」
「じゃあ、あゆちゃんもちょっとは安心ね…」
「だから…」
…そういえば、あゆにこの辺の事情、詳しく言ったこと、なかったな。
あいつ、名雪とオレのこと、どういうふうに考えてるんだ?
…って、何考えてるんだ、オレ…
「…ねえ、祐一くん。」
声にハッとして見ると、香奈美さんがオレを見ていた。
ちょっと真剣な眼差しだった。
「…はい?」
「…あゆちゃん、いい子でしょう?」
いきなりの言葉。
まあ…確かに、あゆは元気はいいし…ちょっと抜けたところはあるけど…
「…はい。そう思いますけど。」
「だから…弄ぶようなことになるような、そんなのはやめてね。」
「…はい?…だから…」
オレは説明しかけたが、香奈美さんは聞いてないように
「祐一くん、そんな人じゃないって、わたしも思うけど…でも…ほら、あゆちゃんって、ああいう境遇じゃない?そういうの気にして、付き合いやめるとか…」
「…香奈美さん?ああいう境遇って?」
香奈美さんの言葉に、オレは思わず聞き返した。
何だか、引っかかる言葉だった。
…境遇って?
香奈美さんはオレを見た。じっとオレの顔を見ていた。
「…あっ」
と、香奈美さんは自分の口を押さえると、椅子に座り込んだ。
そしてオレの目を避けるように、目線をそらした。
そのまま、香奈美さんは目をそらしたまま、黙り込んでしまった。
オレは香奈美さんの顔を見た。
…明らかに、失敗したという顔。
オレは…
「…香奈美さん。あゆ…」
その瞬間

カランカラン

「遅れましたっ!」
ドアベルの音と共に、元気な声が飛び込んできた。
黄色いダッフルコートに、頭の白いリボン。
見るまでもなく、あゆだった。
「…あ、あゆちゃん。」
香奈美さんは振り返ると、ほっとしたようにあゆを呼んだ。
「こっちこっち。」
「あ、香奈美さん。」
あゆはニコニコしながら、近寄ってきて…
「…あっ」
「…よう。」
「…祐一くん…」
あゆはちょっと身構えるようにして、オレを見た。
「…何でいるの?」
「客に向かって、なんだ、その口は?」
「…うぐぅ」
悔しそうなあゆ。
香奈美さんはスッと立ち上がると、あゆの肩を叩いて
「…このお客さんの相手、しばらくお願いね。」
言うと、にっこり笑ってカウンターの奥へ。
「か、香奈美さんっ!」
あゆはあわてて香奈美さんを、それからオレを見た。
走ってきたのだろう、ちょっと顔が赤かった。
どこで付けてきたのか、雪がわずかにコートの肩と頭に載っている。
「…お前、雪合戦でもしてたのか?」
「…え?」
オレの言葉に、あゆはビックリした顔で
「何で分かったのっ?」
「…まじか?」
オレはあゆの顔を見た。
「お前…一応、高校生だろうが?雪合戦なんかするなよ…」
「…うぐぅ」
あゆは目を伏せると、小さな声で
「…だって、あの子たちが…」
「…子供と遊んでたのか?」
オレはあゆの顔を見た。
「…遊ばれてたんだろ?」
「…うぐぅ」
…図星のようだった。
「お前なあ…」
オレは思わず笑ってしまった。
子供たちと遊んでいるあゆの姿が見えるようだった。
「…まあ、ガキは元気でいいよな。」
「ボク、子供じゃないもん!」
「雪合戦してるようじゃ、子供だ。」
「…うぐぅ」
「ははは。」
オレは笑いながら、時計を見た。
…もうすぐ2時。
そろそろ…帰って片づけを再開しないと、今夜は眠れないかもしれない。
オレはレシートを取ると、椅子から立ち上がった。
「じゃ、オレ、帰るわ。」
「…え?」
あゆはビックリしたように顔を上げた。
「帰るの?」
「おう。」
オレはコートの袖に手を通しながら
「帰って荷物を片付けないと…今日、寝られないかもしれないからな。」
「…荷物?」
「ああ。部屋に引っ越した時からの荷物が積みっぱなしでな。」
「…名雪さん、片付けてくれないの?」
あゆが不思議そうにオレの顔を見た。
オレは思わず、苦笑いをして
「…あいつは部活、部活で、手伝いにもならない。」
「でも…」
あゆはますます不思議そうな顔をした。
…そういえば、さっきも思ったけど…
「…なあ、あゆ。」
「…うん?」
「お前…どう考えてるか知らないけど、オレは両親の転勤でいとこの名雪の家に居候させてもらってる、ただそれだけなんだぞ。部屋一つもらって。」
「そ、そうなんだ…」
あゆはちょっと目をぱちぱちすると
「…そうなんだ…」
「…まさか、あゆ…お前、変なこと、想像してなかっただろうな?」
オレがにやにやしながら言うと、あゆの顔がパッと赤らんで
「そ、そんなこと、思わないよっ!」
「…そんなことって、どんなことだよ?」
「え?」
「だから、どういうことだって聞いてるんだよ。」
「え…その…」
「…その?」
「……うぐぅ」
顔を赤くして口ごもるあゆ。
オレは思わず笑ってしまった。
そして笑いながら、レジに向かった。
レジには香奈美さんが立っていた。
オレはニコニコしている香奈美さんにレシートを渡して清算すると、あゆに手を振った。
「じゃ、またな。」
そして、出口のドアを開けて…
「…もう来るなっ!」
元気のいい声。
振り返ると、あゆが頬を膨らませてオレを見ていた。
「…おう。」
オレは思わずにやにやしながら、手を振って外へ出た。
外は晴れたままだった。
風はあいかわらず冷たかった。
でも…
「…さ、片付けるかっ」
オレは何となく、そんな元気が、気合いがわいてくるのを感じながら、家へと歩きだした。
 

「…もう…」
祐一くんが出ていったドアを見ながら、ボクはため息。
なんか…いつもからかわれてるみたい。
もう…あんなやつ…
「…あゆちゃん?」
「え?」
香奈美さんの声。
ボクは振り返った。
「えっと…」
香奈美さんはボクを見ていた。
…ちょっと困ったような顔で。
「…どうか…したのかな?」
「あのね、あゆちゃん…」
香奈美さんは言いながら、祐一くんのカップに手を伸ばした。
「あ、ボク、ついでに持ってくから。」
ボクは急いで香奈美さんより前にカップを取って
「じゃ、ボク、着替えてくるから…」
「あ、あゆちゃん」
香奈美さんはボクの後から来て、カウンターの後ろで
「あゆちゃん、ひょっとしたら…ごめんね。」
「…え?」
急に頭を下げた香奈美さん。
すまなそうな顔して…
「ど、どうかしたの?」
「…うん。あのね…」
香奈美さんは顔を上げると、ボクの顔を見た。
「…あゆちゃん…」
「…うん?」
「…わたし…余計なこと、言っちゃったかもしれないわ。」
「え?」
余計なこと?
ボクはちょっとビックリして香奈美さんの顔を見た。
香奈美さんはボクを見ながら、ちょっと首を振って
「…あゆちゃん、祐一くんに…施設のこと、言ってないんでしょ?」
「…え?」
「わたし…知らないで、口、滑らせちゃったかも…」
「………」
すまなそうな香奈美さんの顔。
ボクは香奈美さんの顔を見ていた。
本当にすまなそうな、香奈美さんの顔…
「…ううん、いいんです。」
ボクは笑ってみせた。
「別に…秘密ってわけじゃないから。」
「あゆちゃん…」
「別に…気にしないで下さいね。ちょっと、話すタイミングがなかっただけだから。それだけだから。ね、香奈美さん。」
「あゆちゃん…」
「…それだけっ。」
ボクは言って、カップを流しに置いた。
「だから…気にしないで。ボク、施設にいること、恥ずかしく思ってるわけじゃないですから。」
「………」
「秘密にしなきゃならないなんて、全然思ってないですから。施設のみんな、大好きだし。お世話してくれる皆さんにも、感謝してるし。だから…」
「…うん。」
香奈美さんは頷くと、にっこり笑った。
「そうだね。変な気、まわしちゃった。ごめんね、あゆちゃん。」
「ううん。いいんです。」
「ううん。わたしが悪い。わたしもそんなこと…ごめん、あゆちゃん。」
「もう、いいですってば…」
ボクが言うと、香奈美さんはもう一度、頭を下げた。
そして、振り返って
「じゃあ…あゆちゃん、早く着替えてきてね。そしたら、交代。」
「はいっ!」
ボクは答えて、カウンターの奥へ…
「…あゆちゃん。」
「…はい?」
入ろうとしたボクに、香奈美さん。
振り返ると、香奈美さんはちょっと微笑んでいた。
「…でも…あゆちゃんが言うまで、わたし、祐一くんには…言わないようにするね。」
「………」
ボクは…
頷いて、奥に入った。
そして、ロッカーにコートを掛けて、着替えを出して…
…別に、タイミングがなかっただけ…
祐一くんに…言うタイミング。
うん。
それだけだから。
別に、両親がいないこととか…
施設にいること…
恥ずかしいなんて思ってないしね…
だから、単に…

……でも。
どうして…言わなかったのかな…
言いたくなかったのかな…
…ボクは…

着替える手を止めて、ボクはロッカーの鏡に映るボクの顔を見ていた。

<to be continued>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…ちょっと…進んだかな?
「まあ、あゆさんの境遇が、ちょっとは見えてきた感じですね。」
…メモどおりにね(笑)結局、それが一番書きたいことになりました(爆)
「…気分屋ですからね、あなたは。」
…あはは。さ、この辺から、ちょっと加速するぞ!…ちょっとだけだけど。
「…本当ですか?」
…多分ね。少なくとも、日にちは飛び飛びになる予定。さすがに20数回も連載したくないぞ(苦笑)

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