思い出はダイアモンド

(夢の降り積もる街で-11)


あゆSS。

シリーズ:夢の降り積もる街で

では、どうぞ。

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思い出はダイアモンド (夢の降り積もる街で-11)
 

1月19日 火曜日
 

「…結局、こうなるわけだ…」
「…うー」
「…昨日のあれは、奇跡だったんだな、やっぱり。」
「うー…その言い方、ちょっと失礼だと思うよ、祐一。」
名雪は走りながら、口をとがらせてオレを見た
空は今朝も晴れ渡り、雲一つない。
でも、そんな空をゆっくり眺めている余裕は、オレたちにはなかった。
今朝もいつものように、6つの目覚まし時計は何の役にも立たず…いや、オレの目覚めの役には立ったが、名雪の役には立たず…
「…名雪、今何時だ?」
「えっと…」
名雪は腕の時計を見ると、ふいに首を傾げて
「あれ?」
「…どうした、名雪。」
「…時計、止まってる。」
「なに?」
オレは名雪の顔を見た。
「…マジか?」
「こんなことで冗談言わないよ…」
「いや、そうだと思うが…一応な。」
「何が一応なのよー」
「…気にするな。」
いいながら、オレは出がけに見た時計を思い出す。
確か…出る時に見たダイニングの時計は、8時5分を越えたところ。
「…まあ、ここまで走ってくれば、大丈夫だとは思うがな。」
「…多分ね。」
「…でも、とりあえず続けて走るぞ!」
「うん」
オレたちは、そのままペースを落とさずに走り続ける。
そして、学校の校門のところにたどり着いた。
「…まだ、大丈夫のようだな。」
「そうだね。」
校門のところには、まだ多くの生徒たちが歩いていた。
その中の一人の男子生徒が、オレたちに気がついて声をかけてきた。
「…よお、おはよう、相沢、水瀬さん。」
「おはよう、北川くん。」
「…おはよう。北川、今何時だ?」
「あと3分で予鈴ってとこだな。」
時間を聞かれて残り時間を答えるあたり、北川もわきまえている。
「じゃあ、何とかなったな。」
「…でも、時計がないと不便だよ…」
名雪は腕の時計を見ながら、ちょっと困ったようにつぶやく。
「だな。」
オレが頷いた時、背中の方から声がした。
「じゃあ、帰りに商店街で直してもらってくる?」
「あ、うん。」
名雪はそっちを見ながら大きく頷いた。
オレも振り返って声の主を見る。
「…遅刻ぎりぎりだな、香里。」
「あなたたちみたいに走ってきたわけじゃないけどね。」
「…何で走ってきたと分かる?」
「…まあ、この寒いのに汗かいてる人を見たら、普通はそう思うわね。」
「なるほど…」
「あ、おはよう、香里。」
いつものように、ズレた名雪の声。
「おはよう、名雪…相沢くん。」
でも、心得た感じで香里は頷くと
「で、行く?名雪。今日は例の準備で半日で終わりだし…」
「行く、行く。」
名雪は言うと、オレを見た。
「…祐一も行く?」
「オレ?」
「うん。一緒に、商店街。」
オレは名雪の顔、そして…香里の顔を見た。
このメンツ…きっと、時計屋の外に行く先は…
「…やめとくよ。今日は…用事があるから。」
ちらっと香里を見る。
香里は…ちょっと肩をすくめた。
「あ、そう…」
名雪はちょっと残念そうな顔をしたが、すぐに微笑むと
「じゃあ、今日も百花屋に行こう、香里。」
「…そうね。」
少しだけ苦笑いに見える顔で、香里は頷く。
名雪は満面の笑みでうんうんとうなずいた。
と、その時、昇降口の方から声。
「…おーい、あんまり余裕ないぞ〜」
見ると、さっきまでそこにいた北川が、もう昇降口のところで手を振っていた。
反射的に時計を見る香里…そして、名雪。
「…やっぱり不便だよ…」
「そうね。ちなみに、あと一分ってとこね。」
「わっ、急ごう。
あわてたように駆け出す名雪。
オレも後を追って昇降口へと駆け出す。
前を駆けていく名雪…気がつくと、香里が横を走っていた。
今なら…
「…香里。」
「何よ。」
香里は走りながらオレをちらっと見た
「…例の…頼むわ。」
「…そう。」
「え?何を頼むの?」
気がつくと、もう昇降口のそば。
名雪が立ち止まって、オレたちを見ていた。
「…え?」
「例のもの、頼むとかなんとかいってたけど…」
名雪が首を傾げてオレを見た。
オレは名雪の顔を見ながら…
…やっぱり、猫の件はまずいよな…
「…いや、香里にな、今度からパンティの色は黒でもいいけど、レースのスケスケにしてくれて頼んでおいたんだけど、今日はどうだって…」
「うわっ、なんてこと…香里、どうしてそんなのOKしたの?」
「な、何の話よっ」
さすがに顔を赤らめて、オレの方を抗議の目で見つめる香里。
一方、名雪は目を丸くしながらオレを、香里を見つめている。
「…さ、早く行かないと。」
「ちょ、ちょっと相沢くんっ!いったい、何の話…」
「香里…それは校則違反かも。」
「だから、知らないってばっ」

キーンコーン

ちょうどその時、予鈴が鳴った。
「さ、急いで教室行くぞっ」
「こら、相沢くん!」
「…香里ぃ…」

オレは思わずニヤニヤしながら教室へと駆け出した。
 
 

キンコーン
4時間め終了のチャイムが鳴る。
教師が出て行くのを待って、オレは座ったまま大きく伸びをした。
「…はあ。眠かった…」
「まだ眠ってる子もいるけどね。」
オレが声に振り返ると、香里があきれたように席を立って、名雪を見下ろしていた。
名雪は…机に突っ伏して、まだ眠りの中にいた。
しかし…本気でこの眠り娘、いったい日に何時間寝れば気が済むんだ…
「…いつもの事だけどな。」
オレが肩をすくめると、香里は
「…そうね。」
と言いながら、同じく肩をすくめて
「でも、よく先生に気づかれないもんだって、いつも思うわよ。」
「いや…いつもこういうやつだと思ってるんじゃないか?ほら、名雪の場合、寝てても起きてても変わらないからな。」
「…そうかもね。」
オレの言葉に、香里はクスッと笑うとオレの方に向き直って
「…で、今日…やっぱり来るの?」
「おう。多分…3時すぎになると思うが。」
「…そう。」
香里は一つ息をつくと、また名雪を見下ろした。
名雪は起きる気配もなく、同級生たちが帰っていく騒音の中ですやすや寝息をたてていた。
いつの間にか、教室に残っている同級生たちの数も少なくなっている。
香里は少しの間、名雪の寝顔を見ていたが、ふいにオレの顔を見つめて
「…相沢くん。」
「…ああ。」
「…昨日、あたしが言ったこと…」
「…分かってる。」
オレは頷いた。
昨日、香里が言ったこと…オレの気持ち。そして、名雪の…
「…でも…」
「……?」
つぶやいたオレに、香里は不思議そうにオレを見た。
「…今すぐ、はっきりさせなきゃ…いけないのか?」
「…え?」
「オレ自身…オレの気持ちは…」
オレは香里の顔をじっと見つめた。
…ハッキリしない言い方なのは分かっている。
だけど、本当に…何か、オレの中で、それを…何か、はっきりさせたくない…
「…うにゅ」
その時、名雪が声をあげると、わずかに頭を動かした。
そして、机のそばに立っているオレたちの方をぼんやりとした目で見あげると
「…ふぁ…おはよう…」
「…おはようじゃないぞ、名雪。」
オレは香里から名雪の顔に目をやると、ちょっと肩をすくめてみせて
「もう、放課後だ。」
「…そうなんだ。じゃあ、学校に行かないと。」
…見事な寝ぼけ方。
オレは思わず、名雪の頭を叩きなくなる気持ちを抑えて
「…ここが学校だ。」
「……あ、そうか。」
名雪は頷くと、ふらつきながら立ち上がって
「じゃあ、部活に行かないと…」
「…寝ぼけるなっ」
今度はオレも自分を抑える気にもなれず、名雪の頭をパコッと叩いて
「今日は舞踏会の準備だから、部活がないんだろうがっ」
「…………そうかも。」
「そうかもじゃない、そうなんだっ」
「……ああ、そうだったっけ。」
名雪はまた少し寝ぼけ眼で頷く。
そんな名雪の鞄を、香里は机から取ると、
「…じゃあ、行きましょうか、名雪。」
「…え?」
「商店街で時計を直してもらうんじゃなかったの?」
「…あ、そうそう。」
名雪は頷くと、席を立って
「祐一も、ともかく一緒に行く?」
「…だから、オレは用事があるんだって。」
「でも、校門まで。」
「……そうだなぁ…」
そう言えば、これからオレはどうすればいいんだろう?
特に、昼ご飯…
「…名雪。」
「なに?」
「…今日、家に秋子さんは…」
「いないよ。仕事だから。」
「…そうだよな。」
…としたら、水瀬家に帰ってもしょうがない。あの家にはインスタント食品のたぐいが全くないので、オレでは手も足も出ない。
だったら、二人とは別にどこかで食事をするしか…
「…いや、オレ…学校に用事…あるから。」
「…ふうん。」
名雪はオレの顔をじっと見たが、すぐににっこり笑って
「じゃあ、わたしたち、帰るね。」
「おう。」
オレが頷くと、名雪はちょっと嬉しそうに
「イチゴっ、サンデーっ」
と、妙な節で歌いながら教室の出口へ歩きだした。
香里は肩をすくめると、オレをちらっと見て頷いて、そんな名雪の後を追った。
教室の出口で名雪は振り返ると、
「じゃあ、祐一。」
「ああ。」
「…じゃあね、相沢くん。」
二人はそのまま廊下を歩いていった。
パタパタという名雪の足音…落ち着いた感じの香里の足音…
足音にも性格が出ているもんだ。
そんなことを思いながら、オレは振り返ると窓の外を眺めた。
窓の外は冬ながらまぶしい陽射しが、雪を白く光らせていた。
オレは少し目を細めながら、中庭の雪を見つめていた。
 
 

「…ごちそうさまっ!」
ボクはお弁当箱のフタを閉じて、箸箱に箸をしまう。
箸はホントは、洗っておかなきゃいけないけど…
まだ友達は食べてるから、それは後で。
「…あゆちゃん、もう終わり?」
向かいの明美ちゃんが、自分の半分くらい残っているお弁当を見ながら
「同じに食べはじめたのに…」
「うん。」
「ホントにあゆちゃん、食べるの、いつも早いね。」
「あはは。ほら、育ち盛りだから。」
「………」
あっ、笑ったなっ
うぐぅ…
そ、そりゃあ、ボクは背も低いし…む、胸も…
でも、きっとまだ大きくなるんだよっ
ちょっとずつ、背もまだ伸びてるんだからね。

…あと10センチ、あったらなあ。
せめて、5センチ。
そしたら…

『お前は舞踏会って柄じゃないぞ。どっちかというと…フォークダンスがお似合いだな。それも、男役。』

…なんてこと、もう言わせないのになぁ…
それに…
そしたら、ボクも、もうちょっと…
もうちょっと、祐一くんに…

そ、そうだっ
そう言えば、祐一くん、すっごく失礼なこと言ってたよね。

『…お前の料理じゃ、他の子たちが不幸だろ?』

ホント、知らないくせに。
今日のお弁当だって、ボクが自分で作ったんだよ。
みんなとおかずの交換しても、おいしいって評判なんだよっ
なんたって、食事のおばさんの直伝なんだから。
おばさんだって、誉めてくれるくらいなんだからねっ
だから…

『バ〜カ。誰がそんなの、期待してるかよ。』

絶対に食べさせてやるっ
いつか…
その時には、きっと祐一くんも…

「…あゆちゃん?」
「…え?」
あわててボクは、向かいの明美ちゃんを見る。
ボクの顔、不思議そうに見ている…
「…あゆちゃん…なにニヤニヤしてるの?」
「え…えっ?」
「最近、あゆちゃん、よくそんな顔してるよね。昨日も授業中、そんな顔して…」
「そ、そんなことないよっ」
「それに…何か、早く帰りたくってうずうずって感じだったし。さては…」
「…な、なにっ」
明美ちゃん、ボクの目をじっと見つめると、ボクに顔を寄せて
「…さては、男、だね。」
「ええっ?」
「…白状しろ、あゆちゃん。ネタは割れてるぞ。」
「そ…そんなんじゃないよっ」
「嘘嘘。さ、他の誰にも言わないから、あたしに白状しなよ。」
「ち、違うったらっ!それより、明美ちゃん、早くお弁当食べなよ。」
「…うーん、強情だな。この落としの明美さまを持ってしても…」
「なに言ってるんだよ、もう…」
「あははは」
明美ちゃん、笑ってまたお弁当に戻る。

ホントにもう…
そんなんじゃないんだから。
ただ、猫ちゃんを見に行くだけ、なんだから。
あの猫ちゃんを…祐一くんと…
だから…

だけ、だから…

だけなんだ。
そう、思わなきゃ…

ボクは窓からを外を見た。
窓から見えるグラウンド。
もう昼ご飯を終わったみんなが、遊んでいるのが見える。
白い雪の上…
その向こうに見える家…
その向こうの…

森。
街外れの森。
白い雪をかぶった木が、街を見下ろすように…

…まただ。
なんでだろ?
何か…
いつもあの森を見ると…

恐い?
何か…
体が震えてくるような…
でも…
目をそらせない…
何か、暖かい…

なんでだろ?
あの森に、何か…
森の…中?
森の…木?
森の木…
大きな、大きな…

『わあ、街が真っ赤だよ』
見渡すと、夕日に染まる街…
『危ないから降りてこいっ』
下から、心配そうな声…
『オレは高所恐怖症なんだ』
大きな、大きな幹のそば、ボクを見上げている…

…思わず、ボクは目をつぶっていた。
ちょっと、頭が…
ずきずきするようで…

…なに、今のは…
ボクと…誰か、男の子…
…祐一くん?

ううん。
そんなはず、ない…
だいいち、ボクは高いところは恐いから、木に登るなんて…
それに、あの森には近づいたこともないから…

…じゃあ、他の森?
そして…他の…誰…

…思い出せない。
というより、今のは…ボクの思い出なの?
ただの…夢?
ボクの…

「…あゆちゃん?あゆちゃんってばっ!」
「…え?」
明美ちゃんの声。
ボクは目を開けて、明美ちゃんの方を見た。
明美ちゃんはボクを心配そうに見ていた。
「…大丈夫?」
「え?なにが?」
「なんか…ちょっと苦しそうな…そんな顔して、目をつぶってるから…事故の傷かなにか、痛むの?」
ほんとうに心配そうな明美ちゃん。
ボクを見つめて…
「…ううん、何でもないよっ」
ボクは明美ちゃんに笑ってみせた。
「ちょっと、まぶしかったから、目、閉じただけ。いい天気だからさっ」
「でも…」
まだボクを見ている明美ちゃん。
…ありがと。
でも…
何でもない。何でもないんだよ、きっと。
だから…
「…さ、明美ちゃん。ご飯、終わったんでしょ?」
「あ、うん。」
「じゃあ、外でも行こうよ。もうみんな、バレー始めてるかも。」
「あ、そうだね。」
明美ちゃん、頷くと、お弁当箱を片付けはじめた。
ボクも箸箱を持って立ち上がると
「…今日はボク、きっと明美ちゃんよりはミスしないよっ」
「無理無理。あゆちゃん、鈍いもん」
「…うぐぅ。言ったなあ…」
「あはは」
明美ちゃんも箸箱を持って立ち上がると、
「さ、急いで片付けて、バレー行こう。」
「うんっ!」
ボクも笑いながら、明美ちゃんと一緒に廊下へと歩きだした。
 
 

「…はあ。」
行く手に見えてきた商店街を見ながら、オレは思わずため息をついた。
昼食はとりあえず、家に帰ってからここまで来る途中の定食屋で済ませたから、お腹が空いたからではない。
まだお昼の2時だというのに、風が身を切るように冷たい…
それもあるが、それにはもう馴れてきた。
そうじゃなくて、ため息は…
「…香奈美さんじゃないといいがなぁ…」
昨日、あゆとあんな約束をした事が悔やまれる。
あの時は、それでもまあいいかという気持ちだったのだが…
だが、この寒いのに一時間も店の前で立って待っているわけにもいかないし…
思ううちに、オレの足は商店街へ、そして百花屋の前にかかっていた。
土曜日あたりならこの時間には百花屋の前には順番を待つ列ができているほどだが、さすがに今日は平日、うちの高校しか休みじゃないせいか、百花屋の前は静かだった。
…そう言えば、名雪と香里も百花屋に行くような事、言ってたよな。
これで香里が中にいたとしたら…ちょっと笑ってしまう事態だな。
まさかな…
オレは思いながら、百花屋の中をそっと覗きこんだ。
百花屋の中はやはり人も少なく、いるのはうちの制服を着た女生徒ばかり。
その中には…名雪と香里の姿は見えない。
そして、そんなお客のところへ、ちょうど注文の品を持って行くピンク色の制服、ウエイトレスは…
…香奈美さん。
そして、オレがウエイトレスが香奈美さんだと分かるのと、香奈美さんが注文の品を置いてオレの姿に気がつくのとは、ホントに同時だった。
香奈美さんはオレに気づくと、小さくオレに手を振った。
…はあ…仕方がない…
オレは覚悟を決めて、百花屋の入り口のドアを開けた。

カランカラン

「いらっしゃいませー」
香奈美さんの少しハスキーな声が百花屋の店内に響く。
「…こんにちわ。」
「祐一くん、お久しぶり。」
「…先週の土曜日に会いましたけど。」
「あら、3日も開いたら立派な久しぶりよ。」
「…そうですか。」
オレはどこかで聞いたようなセリフだと思いながら、いつものカウンターそばの席に腰をかける。
香奈美さんは一応、メニューを手にしてオレのところに寄ってくると
「平日なのに…サボり?」
「…そんなわけないです。他にもうちの高校の客、いるでしょう?」
「分かってるわよ。」
香奈美さんは言うと、ちょっと首を傾げて
「でも、創立記念日じゃないわよね。」
「ええ。毎年恒例の…舞踏会の準備で、半日休みです。」
「…舞踏会?」
香奈美さんは思ったよりも驚かずにオレを見た。
ひょっとしたらこの街では、高校の舞踏会は当然のことなのだろうか…
「…あ、そうか。あの舞踏会ね…」
「…知ってるんですか?」
思い出すような口調に、オレが聞き返すと、
「…まあね…」
と、香奈美さんは頷くと
「わたし…卒業生だから。」
「え?」
オレが驚いて見あげると、香奈美さんは笑いながら
「言わなかった?わたし、祐一くんと同じ高校だったって。」
「初耳です…じゃあ、香奈美さん、先輩?」
「…ちょっと…」
香奈美さんはメニューを抱えると、ちょっと苦笑を浮かて、
「…やめてよ、その言い方は。」
「でも、先輩じゃないですか。」
「だからね、祐一くん…」
「なんですか、香奈美先輩。」
「…もう…」
ちょっと嫌そうな顔になる香奈美さん。
でも、すぐにいたずらっぽい顔になると
「…でも、だからあゆちゃんの学校は休みじゃないから、今日はあゆちゃん、いないわよ。残念ながら。」
「…別に残念じゃないです。」
オレは言うと、ちょっとニヤニヤした顔の香奈美さんに
「コーヒーお願いします。」
「…はいはい。」
香奈美さんはレシートを書くと、カウンターの後ろに入っていった。
オレは息をつくと、店内を眺めた。
店内は、外から見たように客も少なく、昼間のいつもの賑やかさはなかった。
とりあえず、テーブルにはパフェやあんみつのたぐいが並び、女生徒たちは思い思いにテーブルの友達と話をしていた。
窓からは昼の高い陽が、店内に射込んで…
「…お待ちどうさま。」
カタン
テーブルと見ると、コーヒーカップが置かれていた。
そして、向かいの席には香奈美さんが腰をおろして、足を組ながらオレを見ていた。
「…この席、いい?」
「…もう座ってるじゃないですか。」
「あはは、そうね。」
悪びれる風もなく、香奈美さんは笑うと
「でも…そう、舞踏会なの…」
「ええ。」
オレはとりあえず、コーヒーを一口飲んで
「でも、オレには関係ないですけどね。」
「あら。参加しないの?」
「もちろん。オレには似合わないですから。」
「そうかしら…」
香奈美さんはちょっと肩をすくめながら
「せっかくの行事なんだから、参加すればいいのに。」
「でも…そんな服も持ってないですしね。」
「貸衣装だってあるわよ。」
「わざわざそこまでして出ることないでしょう。」
「…ごめんなさいね、そこまでして出て。」
「え?」
オレは香奈美さんの顔をまじまじと見た。
「…香奈美さん、出たんですか?」
「ええ。3年ともね。」
「はあ…」
「…なに、その不思議そうな顔は?学校の行事なんだから、わたしが出ても不思議じゃないでしょう?」
「…はあ…」
オレは香奈美さんが舞踏会に出ている姿を、ちょっと想像してみた。
カクテルドレスを着て、踊っている姿…
…似合いそうな気がする。
「…結構、注目されたりしなかったですか?」
オレが聞くと、香奈美さんはちょっとオレの顔を見ると、すぐに口に手を当てて
「あははは。そんなことはなかったけどね。」
言いながら、ちょっと首を傾げた。
「…でも、あの子あたりは注目されるかもね…ほら、あの…祐一くんのいとこ。名雪ちゃんだっけ?」
「名雪が?」
「ええ。ドレスアップして…髪を少しいじれば、きっと舞踏会の華になると思うけど。」
「…それは買いかぶり過ぎですよ、香奈美さん。」
オレは名雪の顔を思い浮かべながら、首を振ってみせた。
「香奈美さん、名雪のことあんまり知らないから…」
「あら、そんなことないわよ。名雪ちゃん、今日も友達と二人でここに来てたから。しばらく前に帰ったけど…そう言えば、一緒の友達らしい女の子も、ちょっとキツそうな感じだけどやっぱり華になりそうだったわ。」
…やっぱり、名雪と香里は百花屋に来ていたらしい。
でも、もう帰った…香里がオレとの約束通りに家で待つために、切り上げたのだろう。
オレはちょっとホッとしながら、香奈美さんに肩をすくめてみせると
「でも、名雪も、一緒の友達も、舞踏会には出ないって言ってましたよ。場違いだからって。」
「あら、残念ね…」
香奈美さんはほんとうに残念そうな顔で肩をすくめた。
別に人のことでそこまで思うことはないと思うのだが…
香奈美さんはきっと、高校生活を思うように楽しんだのだろうな。
そんなことを思いながら、オレはコーヒーをまた一口飲み込む。
香奈美さんは店内に目をやりながら、無意識らしく自分の髪を右手で撫でていた。
と、その印象的ないたずらっぽい目がオレを見つめると
「…で、やっぱり祐一くんの本命は、あゆちゃんのまま?」
「…はあ?」
オレはまた前のようにコーヒーを吹き出しそうになって、あわてて飲み込むと
「…だから、オレとあゆは…」
「…でも、名雪ちゃんが本命ってわけじゃないんでしょう?」
「…いや、だから…」
「…それとも、あゆちゃんに…」
と、なぜかそこで香奈美さんは口を一瞬閉じると、
「…気にするような事…あるわけじゃないでしょう?」
「…はあ?」
オレは何のことか分からず、香奈美さんの顔を見た。
香奈美さんはそれ以上何も言わず、ただオレの顔を見つめていた。
…あゆのこと…気にするような事…って?
香奈美さん、いったい…
…あ、ひょっとして…
「…香奈美さん…」
オレは香奈美さんの目を見ながら
「…ひょっとして…あゆの、その…境遇の件、ですか?」
「…祐一くん、知ってるの?」
香奈美さんはオレの顔を、真剣な顔で見つめた。
「誰に…」
「…あゆ本人が、言ってくれました。」
「…で、祐一くんは…どうしたの?それを聞いて?」
香奈美さんの印象的な瞳が、オレを見つめていた。
オレは一旦カップを持つと、コーヒーを一口飲んだ。
そして、香奈美さんの顔を見て
「…なにも。」
「………」
「なにも…ないですよ。別に…あゆは、あゆだし。知ったから何が変わるわけでもないし…別に変えること、ないですから。」
「……やっぱり。」
香奈美さんは一つ息をつくと、オレににっこり笑った。
「祐一くんなら、そう言うと思った。」
「…そうですか?」
「ええ。やっぱり…わたしが見込んだとおりね。」
言うと、香奈美さんは足を組み直して
「もう、あゆちゃんのこと、任せても安心ね。」
「…え?」
「で、どこまで行ったの?あゆちゃんとは。」
「…はい?あの…香奈美さん?」
「まあ、あゆちゃんは奥手だけど…もう高校生だもの、キスくらいはとっくに…」
「あ、あのっ」
オレはあわてて香奈美さんに手を振ると
「そんな…何もないですよ。」
「…またまた。」
「いえ、本当です。」
「…でも、この間、あゆちゃんを店の外まで引っ張っていったじゃない?」
「あ、あれは…」
この前の猫の一件、そのことを誤解しているらしい。
オレはともかくコーヒーを一口、飲みこんで
「あれは、あゆが探していた猫をオレが見つけたから…」
「…猫?」
ちょっと首を傾げた香奈美さん。
オレは頷いて
「ええ。それであゆに見せようと思ったんですけど、まさかこの店の中で見せるわけにもいかないから…」
「それは、そうよ。」
「でしょう?だから、とりあえず、あゆに猫を見せるために外に連れ出しただけで…」
言いながら、オレが香奈美さんを見ると、香奈美さんはニコニコしながらオレを見ていた。
まるで、オレの焦りようを楽しんでいるように…
…あ、ひょっとして…
「…香奈美さん、ひょっとして…」
「…ん?」
「…あゆに聞いて、知ってるんじゃないですか?あの時、どうしてあゆを借りていったか…」
「…あははは。」
香奈美さんはオレを追求に、悪びれた風もなく笑うと
「…実はね。」
「やっぱり…」
思わず、オレはため息。
香奈美さんは、でもにっこりとオレに笑って
「でも、わざわざ猫を捕まえてくるところが、やっぱり何でもないってことないわよね。」
「…偶然ですって。」
オレは残ったコーヒーを飲み干して
「偶然、見つけたからとりあえず捕まえただけで…」
「はいはい。」
香奈美さんは椅子に座り直すと、笑顔で髪を撫でながら
「もう、しぶといわね…」
「…だから…」
「…まあ、今日のところはもういいわ。」
言うと、香奈美さんはちょっと首をかしげると
「で、その猫ちゃんはどうしたの?確か、あゆちゃんの話だと、祐一くんの知り合いの女の子にもらわれていったって話だったけど…」
「ええ。」
オレは頷いて
「香里…あ、今日、名雪と一緒に来てたっていう、あいつが猫、もらっていったんですよ。」
「ああ、あの子…」
香奈美さんは小さく頷くと
「きれいな娘だったけど…猫って感じじゃなかったけど…」
「…まあ、でも、いい奴なんですよ。だから、大丈夫だとは思うんですけど、でもやっぱり居着いてちゃんとしてるか、あゆは心配だって…だから、今日…」
「…今日?」
一瞬、香奈美さんのいたずらそうな目がキラリと光る。
…しまった。思わず、口が…
オレはあわてて
「あ、いや…」
「ふうん…そうか…」
「いや、別に…」
「それで、祐一くん、一人でここに来てるわけね…」
ニコニコしながらオレを見る香奈美さん。
確かに、そのとおりだけど、でも、香奈美さんが思うような、そんなことでは…
オレはとりあえず、香奈美さんの方に身を乗り出すと
「いや、オレは…」
「うんうん。順調に進展していると。」
「そうじゃなくてですね、オレは単に…」

カランカラン
「こんにちわっ」

その時、入り口でベルの音と…声。
香奈美さんは座ったままで振り返って…
「ごめんね、遅くなってっ」
オレの姿を見つけて、駆け寄ってくる…あゆ。
香奈美さんは振り返ると、オレににっこりと微笑んだ。
あゆはそのまま、オレの席まで来ると
「6時間目、それでも先生と一緒に教室、飛びだしてきたんだけどねっ、でも…」
「…あゆ…」
「…うん?」
あゆは息を切らしたまま、ちょっと首をかしげると、
「あ、香奈美さん、こんにちわっ!お疲れですっ」
「…こんにちわ、あゆちゃん。」
香奈美さんはあゆを見ながら、ますますにっこり笑った。
オレは…
「…どうかしたの、祐一くん?」
…はぅ…
オレは不思議そうにオレを見ているあゆの顔を、何か言う気力もなく見ていた…
 
 

「…多分、この辺だよっ」
少し先を歩いていたあゆが、オレに振り返って言った。
「…そうか。」
オレは白い息を吐きながら、あたりを見回す。
辺り一面の住宅街は歩く人はまばらで、オレたちはたまに人とすれ違う程度。
まだ陽も高い空。
家々の屋根に積もった雪が光を反射して、あたりはまぶしく輝いていた。
「…はあ。」
ため息をついたオレに、あゆはちょっと首を傾げて
「…どうかしたの、祐一くん?」
「…なあ、あゆ。」
「何?」
「…香奈美さんて、いつもああなのか?」
「………」
あゆはオレの顔を見ると、ちょっと顔を赤らめた。
「…う、うん…」
「…そうか。」
オレも思わず思いだして、ちょっと顔が火照る感じ。
からかわれるぐらいは覚悟していたが、まさか百花屋を出がけに
『行ってらっしゃ〜い、お二人さ〜ん』
なんて大声で手を振って見送られるとは予想もつかず…
オレたちは、もう逃げるようにして商店街からこの住宅街まで来たのだった。
「…さ、さすがに恥ずかしかったよね。」
赤くなった顔で、あゆがオレを見上げて笑う。
その顔が、ちょっと懐かしいような、可愛いような…
「…おう。」
オレはあわてて頷くと、あたりの家に目を移した。
「…で、この辺なのか、香里の家。」
「…うん。」
あゆは小さく頷くと、
「番地で言ったら、この辺だと思うよ。」
「なるほど…」
確か、香里は普通の一軒家だと言っていたが…確かにあたりは普通の住宅街で、似たような家が並んでいる。
とりあえず、近くの表札を見ると、番地は…
「1-35だな。」
「確か、1-38だったよね。」
「おう。そう言ってたぞ。」
「だったら…あと3軒先の…あの家だね、きっと。」
あゆが指差す先、まわりの家とさほど変わりのない家が、雪をかぶって立っていた。
水瀬家よりは若干、洋風の家といえば言えるかもしれない。
小さな門があって、階段を4段ほど上がったところに玄関のドア。
オレとあゆはとりあえず、その家の表札を確かめる。
「…多分、だね。」
「のようだな。」
表札の住所は香里に聞いた住所で、他には大きく一言、『美坂』と書かれている。
「…うぐぅ…緊張してきちゃった。」
あゆはドアのベルの押しボタンを見ていたが、ちょっと怖じ気づいたように振り返って
「…ね、祐一くん…押してよ。」
「なんでだよ。」
「だって…祐一くん、香里さんと友達でしょ?」
「…ボタンを押すのに知り合いも何もあるかっ」
「で、でも…」
まだ躊躇しているあゆ。
オレは思わず、あゆの右手を掴むと、
「いいから、押せっ」
「わっ」
そのまま、あゆの人差し指でベルのボタンを押す。

ピンポーン

ドアの奥、微かにチャイムの音が聞こえた。
「…うぐぅ」
あゆはあわてて手をほどくと、ちょっと恨めしそうにオレを見上げて
「祐一くん、いきなり…ひどいよっ」
「何がひどいんだよ?」
オレはあゆの顔を見下ろすと
「お前がさっさと押さないからだっ!たかがベルのボタンくらい…」
「…うぐぅ」
あゆはちょっと詰まったが、すぐに口をとがらせながら
「だ、だからって、どうしてボクの手…」
「お前に度胸を付けさせるために、あえて愛の鞭だ。ありがたく思え。」
「そんなの、してもらわなくっていいよっ」
「何?人の親切にそういう言い方をするのか、うぐぅの癖に。」
「…うぐぅ。何なんだよっ、その言い方…」
「そのままだ。」
「…もう、祐一くんっ!ボク…」
「…どうでもいいけど、人の家の前で漫才はやめてくれないかしら。」
「外野は黙っててくれっ!…って…え?」
「え?」
声に、オレたちは振り向いた…
…そこに香里が立っていた。ドアを開けたまま、オレたちの方をちょっとあきれたように見ていた。
「…よう、香里。」
「こ、こんにちわ…」
「はい、こんにちわ、あゆちゃん。」
香里はにっこり微笑むと、あゆに会釈をした。
「…で、入る?」
「は、はいっ!お、お願いしますっ」
あがっているのか、いきなり大きな声になるあゆ。
「じゃあ、どうぞ。」
「は、はいっ!」
あゆは答えて、玄関へと入っていく。
少し緊張した顔で、まっすぐ前を見て…
マンガか何かだったら、きっと右手と右足を一緒に出しそうな、いかにもそんな雰囲気。
香里も少し顔が微笑みながら、あゆを待ってドアを…
「…ちょっと待った!」
オレは閉じようとしたドアに、あわてて足をさし込んで
「オレを置き去りにするなっ!」
「…あら、相沢くん、まだいたの。」
「まだいたの、じゃないわっ!まったく…」
「油断も隙もないわね。」
「それはオレのセリフだっ」
オレがあわてて玄関に入ると、香里はドアを閉めて
「…さあ、どうぞ。あがって。」
「はい。じゃあ…おじゃまします…」
あゆは靴を脱いで玄関にあがった。続いてオレがあがると、振り向いてしゃがむと、自分の靴とオレの靴の向きを直す。
「…さあ、こっちよ。」
香里はそんなあゆの姿をじっと見つめていたが、振り向いたあゆに微笑むと、廊下を先導するように歩きだした。
オレとあゆはその後ろを、廊下を歩いていった。
 

「…とりあえず、少しここで待ってね。今、あの子、連れてくるから。」
廊下を歩いてすぐの、多分、客間らしき部屋。
案内されたオレたちが、部屋のソファに腰かけるのを見て、すぐに香里はそう言うと部屋のドアを出ていった。
ぱたん
音をたてて閉じるドア。
カチコチカチコチ…
ファッションだろうか、壁の時計が時をきざむ音だけが、部屋にしばらく響いて…
「…ふぅ」
隣に座っていたあゆが、一つ息をつくと、もぞもぞと体を動かして
「…うぐぅ…緊張…」
「…まあ、初めての家だからな…」
かくいうオレも、少し緊張していた。
思えば、この街に来て以来、水瀬家以外の人の家に来るのは初めてだし、それも同級生とはいえ、女の子の家…
今まで女の子の家に行った経験はないわけではないが、ついこの間会ったばかりの、さほど親しいわけでもない女の子の家となると…緊張するのも当然だと思う。
7年間会わなかったとはいえ、いとこである名雪とはわけが違うし、オレはそんなに気安く女の子と付き合うタイプじゃない…
…でも、それを言えば、今隣に座っているあゆは…
オレはあゆに振り向いた。
あゆは一つ体を伸ばすと、部屋の中をきょろきょろと見回していた…
…まるで宝石箱を見つめる子供のような顔。
実際の年よりはかなり幼く見える容貌。ボクという言葉づかい。
だけど、オレは…だからって、あゆのことを男の友達みたいに思っているわけじゃなく…
「…うわぁ…これ、すごいよ、祐一くん!」
気がつくと、あゆは立ち上がってそばのサイドボードの中を覗きこんでいた。
「おい、あゆ…」
「ほら、祐一くん。何か…世界中のおみやげみたいなものが、いっぱいだよ。」
「…まったく…」
オレは苦笑しながら、立ち上がってあゆの後ろからサイドボードを覗き込んだ。
サイドボードの中にあるのはお酒なんかが普通なのだが、そこには酒のビンはなく、世界各国のおみやげらしき、小さなはく製や人形、あるいは伝統の玩具のようなものが並べられていた。
「あ、あれなんか、なんだろうね?」
「さあ…オレも知らないぞ。」
香里の父親は商社マンあたりなのだろうか?オレも全然知らない物が多い。
何か、オレも気になって中を覗き込んだその時。
「…あれ?」
「…ん?」
あゆの声に目をやると、あゆはサイドボードの上、並んだ写真たちの一つをじっと見つめていた。ちょっと首をかしげながら…
「…どうかしたのか?」
オレが聞くと、あゆは首をかしげたままオレに振り返って
「…この写真なんだけど…」
「…どれどれ」
見ると、それは普通のスナップ写真のようだった。
場所は…多分この家の一室であろう、ベッドのある部屋。
ベッドに座った、中学校らしい制服の女の子…隣で微笑みながら、同じく制服姿の…香里。今よりは幼く、髪も今よりいくぶん短い。
「この写真が、何か?」
オレが聞くと、あゆは写真を見ながら少し眉間にしわをよせ
「…この子、どこかで見たような…」
「…香里の隣の女の子か?」
「うん…多分…きっと、ボク、昔…」
言いながら、あゆは手を伸ばすと、写真を手に取ろうと…

カチャッ

「…お待たせ」
「……!」
あゆはあわてて手を引っ込めると、急いでソファに戻った。
オレは振り返っただけで
「…あ、悪いな。香里。」
「…別に相沢くんのためじゃないわよ。」
香里は肩をすくめながら、手にしたお盆から紅茶らしきカップを机の上に並べた。
そして、その足元…
「にゃ〜ん」
「あ、猫ちゃん!」
あゆは香里の足元に飛ぶようにして駆け寄ると、仔猫を抱き上げた。
「あはは、元気か、お前?」
「にゃ〜ん」
「うん、そう…元気で何よりっ」
言うと、あゆは仔猫をぎゅっと抱きしめる。
「…おいおい、そいつ、嫌がってるぞ…」
「あら、そんなことないわよ。」
オレの言葉に、香里がニコニコしながら
「結構、喜んでるわよ。」
「…そうか?」
「ええ。」
自身ありげに頷く香里。ほんの数日で、すっかり飼い主という感じだ。
「うん!ボクも嬉しいよっ!」
「にゃ〜」
あゆの言葉が分かるように、答える仔猫。まさか、本当に分かっているわけでもないだろうが…確かに、微笑ましい。
見ると、香里はそんなあゆと仔猫をニコニコしながら見ていた。
いかにも愛おしそうな…
ちょっと学校では見たこともないような、本当に優しい表情で…
オレはちょっと驚きながら、香里の顔を見ていた。
そういう香里は本当に、初めて見たから。
これが本来の香里なのだろうか?それとも、あの、仔猫…
「…そういえば、香里。」
「…なに、相沢くん。」
香里は振り向いた。
顔はいつもの顔に…でも、少し柔らかいままだった。
「この間、香里が名前を付けるって言ってただろ?」
「あ、そうそう。名前、なんて付けたのっ?」
興奮しているせいか、いきなりあゆがタメ口で
「可愛い名前、付けた?」
「………ええ、まあ。」
と、香里はちょっと口ごもるように答えると、あゆの腕の中の仔猫を見つめた。
そして、小猫を見ながら、
「…『しおん』よ。」
「しおん?」
「ええ。ひらがなで、『しおん』」
「…ふうん。」
なんか…ハイカラなんだか分からない名前。何か由来でもあるのだろうか?
確か…聖書とかにそんな名前がでてたような…違うかな?うーん…
「ふうん…『しおん』くんかあ…」
あゆは素直に頷きながら、猫の喉元を撫でていた。
オレは香里に由来でも聞こうかと思い、声をかけようと…
「…あ、そうだっ!」
と、ふいにあゆが声をあげると、しおんを抱いたままサイドボードに駆け寄って
「思い出したよっ!栞ちゃんだっ」
「…え?」
ギクっとしたように振り向いて、あゆを見つめる香里。
でも、あゆは気がつかない様子で、うれしそうに頷きながら
「そうだよ、栞ちゃん…美坂栞ちゃん。ボクが隣町の中央病院で、リハビリしてる時、よく病室に遊びに行った…栞ちゃんだよ。うん、そうだ。」
と、笑いながら香里の方を見て
「じゃあ、香里さん、栞ちゃんのお姉さん?栞ちゃんがよく自慢していた…」
「………」
香里はあゆの顔をじっと見つめていた。
いや、あゆの向こう、何かを見透かすように…
「…そうね、あゆちゃん。」
ちょっとの間の後、香里はわずかに笑みを浮かべながら頷いた。
「それは…栞よ。」
「やっぱり。そうか…香里さんが栞ちゃんの…」
言いながら、あゆは少女の写真を懐かしそうに見つめた。
「栞ちゃん…よくお互いの病室、行ったり来たりして…一回、ボクの部屋で一緒に夜明かししてたこと、あったりして。」
「…あら、そんなことしたの?」
ちょっと驚いた香里に、あゆは苦笑して
「…あの時は、話してたら消灯時間回っちゃって…でも、まだ話し足りなくて。巡回の看護婦さんごまかして…ボクのベッドで二人で寝たんだよ…朝、眠ってるうちに看護婦さん来ちゃって、バレちゃったけど。」
「…あたしにはそんな話、してくれなかったわよ、栞。」
「あははは…きっと、恥ずかしかったんだよ。」
あゆは笑いながら、香里の顔を見て
「だって…栞ちゃん、お姉ちゃんのこと自慢だったもん。ボクもよく聞かされたよ、お姉ちゃんはすごい、お姉ちゃんは美人、お姉ちゃんは、お姉ちゃんはって…でも、結局、ボクが退院するまでそのお姉ちゃんには会えなかったんだけど…」
「…そんなことないわよ。」
香里はわずかに微笑みながら、あゆの顔を見つめて
「一度だけ、会ってるわ。」
「え〜…覚え、ないけど。」
「それはそうでしょうね。」
香里はわずかにではなくニコニコと微笑んで
「あゆちゃん、すごくはしゃいでいた時だったから。」
「え…ボ、ボク、そんなこと…」
「あたしが栞の病室に見舞いに行っていた時、いきなり、病室のドアが開いたかと思ったら、なんだかほとんど坊主の子が部屋に飛び込んできて…『栞ちゃん、ボク、退院するからねっ』って叫びながらね。」
「あ、あれ?あはははは…」
あゆはちょっと恥ずかしそうに頭を掻くと
「あの時、ボク、退院が決まって、急いで友達たちに知らせたくて…」
「そのようね。それで、一目散に栞のところに来たかと思うと、いきなり栞の手を握って、『ボクも退院できたんだから、きっと栞ちゃんも退院できるよっ』って、手をぶんぶん振って…栞、あんまりいきなりで、目を白黒させてたわ。」
「…そ、そんなこともあったっけ…じゃあ、あの時…」
「ええ。その場で、あたし、見ていたの。」
香里は頷くと、あゆの顔を見て
「…その後、駆けつけた婦長さんにその子が叱られて、引っ張っていかれたところもね。」
「あ…えへへへへ」
香里の笑い顔に、あゆはまた頭を掻いた。
「…婦長さん、『他の患者さんもいるんですよっ!』って、思いっきり怒ってたんだよね…」
「…だけど、栞…すごく喜んでたわ。あゆちゃんが退院出来たって。よく話してたから、あなたのこと。病院で一番の友達だって。あの子、あれで結構引っ込み思案なところあったから、みんな心配してたけど、入院して三日目に、もう友達が出来たって…それが、あゆちゃんだった。」
「うん。ボクも手術で目が覚めて、リハビリ初めてすぐ、栞ちゃんと出会ったんだよ。」
「そうらしいわね。栞、そんなこと言ってたわ。」
香里は頷きながら
「だから…この間、あなたの名前聞いた時、ひょっとして、とは思ったんだけど…名字は聞いてなかったし、あの時、あなた、髪の毛がホントに短かったから…」
「今でもそんなに長くないけど…そうか、あの…栞ちゃんのお姉ちゃんだったんだ、香里さん。」
あゆは香里の顔をまじまじと見ると
「…そう言えば、似てるかも。」
「…そんなことないわ。あたしと栞、似てないって評判だったもの。」
「そうかなあ…」
あゆはそれでも香里の顔を首を傾げて見ていた。
でも、やがて手をぽんと叩くと
「そうだ、栞ちゃん…今、どうしてます?ボク、会いたいな…ボクが退院してすぐに、栞ちゃん、転院しちゃって会えなくなって、それっきり会ってないから…」
「………」
香里は口を閉じると、あゆの顔を見た。
先ほどまでの微笑みがすっかり消え、口をきゅっと結んで…
話についていけず、黙って見ていたオレは、香里が何を言おうとしているか、想像できる気がした。
だから、オレは思わず
「なあ、あゆ…」
「…栞、死んだわ。3年前に。」
「…え?」
香里の口から出たのは、オレの予想どうりの言葉だった。
あゆは香里の顔を、呆然と見つめていた。
抱いていたその手から、しおんが滑るように床に落ちて微かに音をたてた。
香里は口を閉じたが、その口元にほんの少し笑みを浮かべると
「あの頃から…成人することは出来ないって言われてたのよ、あの子。それどころか、本当はあゆちゃんに会ったあの頃は、もういつどうなってもおかしくないって…そう言われてたの。」
香里はまた言葉を切ると、あゆの後ろ、写真立ての写真を見つめた。
呆然としていたあゆは、そこでハッとしたように
「ご、ごめんなさいっ!」
大きな声で言いながら、真っ青になった顔を思いっきり下げて
「ボ、ボク…知らなくって…ごめんなさいっ!」
「…いいのよ、あゆちゃん。」
そのまま頭を下げたままのあゆに、香里は写真から視線を移すと、
「…見てちょうだい、あゆちゃん。あそこの写真。」
「…え?」
あゆはまだ青い顔で、後ろの写真に振り返った。
香里はそんなあゆを見ながら、ほんの少し、口の端にまた微笑みを浮かべると
「…栞、中学の制服着てるでしょう?」
「は、はい…」
「…あの子の願いだったのよ。あたしと同じ制服で…同じ学校に行くことが。結局、制服の袖に腕を通しただけで…あの写真から一週間後に、あの子…」
「………」
「…でもね、そこまであの子が生きていられたのは、あゆちゃん、あなたのおかげもあったんだって、あたし、思うのよ。」
「そ、そんな…」
あゆは大きく手を振りながら、音がしそうなほど首を振って、
「ボ、ボクなんて、何も…」
「…ううん。あの子、あなたが退院してから、『退院して外で会おうって、あゆちゃんと約束したから』って、治療も嫌がらなくなって…だから、もっと治療が出来る病院に移って…おかげで、あの子の望み、一つかなえられたんだって…」
「………」
あゆは振り返ると、写真を見つめていた。
わずかにその背中が震えていた。
そして、微かに鼻をすする音…
「にゃ〜ん」
「…あ、ごめんね、しおん」
香里はわずかに濡れた瞳を拭くと、足元で見上げていた"しおん"を抱き上げた。
「…ねえ、あゆちゃん。」
「…はい。」
あゆは振り返りながら顔を拭いたが、まだその目は濡れて、真っ赤になっていた。
「…だから、あたし、この子と会ったのは、栞のくれたきっかけだって思ったの。」
「…栞ちゃんの?」
「ええ。」
香里はあゆの目を見ながら、微笑んで頷くと
「もう3年…そろそろ、寂しい家にペットでもって思っていたところに、ちょうどこの子と出会ったこと…それもあのあゆちゃんがあたしにくれたんだから、きっと…そうなんだって思う。そう…思うわ。」
「………」
あゆは黙って香里の腕の中、しおんを見つめた。
香里の妹、栞の名前を男名前にした…しおんの顔を…
「…そう…あのあゆちゃんだったのね…」
香里はそんなあゆの顔を、少し不思議そうに見た。
抱きしめたしおんの首筋を撫でながら…
「…にゃ〜ん」
気持ちよさそうに鳴く、しおん。
他には、壁の時計の音だけが部屋に響いて…
「…あゆ、せっかくのお茶、冷めちまうぞ。」
オレはあゆに声をかけると、目の前のカップをとって一口飲んだ。
「…ていうか、すっかり冷めちゃったわね。」
同じく、しおんを抱きながら紅茶を一口飲んだ香里が、ちょっと苦笑しながら言うと
「あたし、もう一度入れてくるわ。」
「あ、いいって。」
立ち上がろうとした香里を、オレは止めて
「オレはもういいし…あゆにはこれでちょうどだから。」
「…え?」
と、あゆがオレの方を見て
「…それ、どういう意味、祐一くん?」
「…だって、お前、ガキだから。どうせ猫舌で熱いのなんて飲めないだろ?だから、冷めたくらいでちょうどいい…」
「…祐一くんっ!」
あゆはオレをにらむと
「ボク、そこまで猫舌じゃないよっ!」
「嘘つけ。多分、しおんよりも猫舌だろ」
「ちがうっ!」
「無理すんな。ほら、お前に丁度の熱さの紅茶、早く飲め。」
「…うぐぅ」
どかどかと歩いてくると、あゆはオレの横にわざとドスンと座って、
「…ぬるい。」
「無理すんな、あゆ。正直に言ったほうが、こういうときはいいぞ。」
「正直に言ってるよっ!」
「…見栄っぱりだな、あゆは。」
「…うぐぅ」
「…くすくす…」
香里がオレたちを見ながら、右手で口を押さえて笑っていた。
そして、その腕の中、しおんがこっちを見ながら…
「にゃ〜〜ん」
 

「…じゃあ、気をつけて帰ってね。」
「はいっ!」
「…相沢くんは、別に途中で車に轢かれてもいいけど。」
「…なんなんだよ、それは。」
「あははは」
「…笑うな、あゆ。」
オレたちは香里の家の玄関で、靴を履こうとしていた。
玄関越しに見える外は、既に暗くなってきている。
結構、長居をした…ほとんど、あゆと香里がしおんと遊んでいたのだが。
「…じゃあ、これで。」
あゆは靴を履くと、ドアのそばで振り返ると大きく頭を下げて
「…香里さん…今日はどうも…すいませんでしたっ」
「…あら、別に。また、遊びに来てね。」
「…いいんですか?」
見上げたあゆの瞳に、香里はにっこり微笑んで
「…もちろん。しおんも喜ぶし。」
「にゃ〜ん」
言葉が分かるはずもないが、丁度しおんが泣き声を上げる。
「あははは…」
笑ったあゆに、香里も微笑むと
「…でも、今度からは相沢くん抜きで来てね。」
「…どういう意味だっ」
「…そのままよ。」
「あははは。」
あゆはまた笑うと、また頭を下げて
「じゃあ、香里さん…しおん。さよならっ」
「ええ、さようなら。」
頷いた香里に、あゆは玄関を出ていった。
続いて、オレも香里に一つ頭を下げると、玄関のドアを…
「…ちょっと待って、相沢くん。」
「…ん?」
呼び止められて、オレは振り返った。
「…どうかしたか?」
「………」
香里は真剣な顔でオレを見ると
「…相沢くん、今日の…妹の件だけど…」
「…他のやつには言わないでくれ、だろ?」
「…ええ。」
頷くと、香里は一つ、息をついた。
オレも頷いてみせると
「さすがのオレも、そのくらいは…分かってるさ。」
「…ありがとう。ホントに…ほとんど、誰にも言ってないことだから。」
「…名雪にも?」
「いいえ、名雪には言ってあるけど…だって、長いつきあいだもの。でも、他にはほとんど…」
「…分かった。誰にも言わないよ。」
オレの言葉に、香里はまた小さく頷くと
「ええ、お願い。それと…」
と、今度はちょっと首を傾げて
「…あゆちゃんだけど…」
「……?」
「…ひょっとして、あの子…施設にいたり、する?」
オレは香里の顔を見ながら、小さく頷いてみせた。
香里は小さく息をつくと、また頷いて
「…やっぱり。確か、栞がそんなこと言ってたから…」
オレは香里の顔を見ながら
「…分かってると思うけど…」
「…ええ、分かってるわ。」
香里が頷くのを見て、オレはドアを開けた。
「…じゃあ、また明日。」
「ええ。じゃあ。」
オレは玄関を出て、ドアを閉じた。
そしてあたりを見回すと、あゆはしばらく行ったところで立ち止まっていた。
オレは早足で近寄ると、街灯の明りの下、あゆがオレの顔を見上げて
「…どうかしたの?」
「…いや、何でもない。明日の授業のことさ。」
「…あ、そうか。同じクラスだったね。」
あゆはうんうんと頷くと、道を歩きだす。
夕闇迫る住宅街は街灯もまばらで、ぽつんぽつんと白い光に雪がわずかに輝いていた。
「…でも、よかった。」
しばらく歩いたところで、あゆがぽつりと言うとオレの方を見た。
「ん?何が?」
「仔猫…しおんが、いい人にもらってもらえて。」
「…ああ。」
「あの栞ちゃんのお姉さん、香里さんだから…きっと幸せになるよ、しおん」
「…だといいな。」
「ううん!絶対、大丈夫っ!」
あゆは断言すると、大きく頷いてオレを見た。
まだあの時の涙で、その瞳は赤かった。
オレは笑ってみせると
「…ああ、そうだな。」
「うん!」
あゆはまた頷くと、ふいに駆け出した。
そして、すぐ先の十字路でオレに振り返ると
「…ボク、こっちから帰るよ。」
「ん?そこでいいのか?」
「うん。こっちの方が近いから。」
「…そうか。」
オレは言いながら、あたりを見回した。
既にあたりはだいぶ暗くなっていた。
「…園まで送ろうか?」
思わずオレが言うと、あゆはちょっと目を丸くした。
そして、あわてて首を振ると
「い、いいよっ!ボク、一人で帰れるよっ!」
「…でも、もう暗いからな。女の子一人、帰るのはやっぱり…」
「…え?」
あゆはまた驚いてオレを見た。
…言った本人のオレも、ちょっとビックリしていた。
オレ…オレは…
「…まあ、いくらうぐぅでも…最近は幼女誘拐とか、結構あるからな。」
あわててオレが言うと、あゆはいつものように
「…うぐぅ」
と詰まったが、すぐににっこり笑うと
「大丈夫。ボク、走っていくからさ。それに、しばらく行ったら、もっと賑やかな通りに出るから。それよりも…祐一くんこそ、ちゃんと帰れるの?」
「…あゆじゃあるまいし、帰れるわっ!」
「…あははは」
あゆは笑うと、2、3歩駆けて振り返り
「…バイバイ、祐一くん。」
「…ああ。じゃあな。」
そしてあゆは手を振ると、雪の道を駆けていった。
街灯の白い光に、ベージュのダッフルコートが、そして頭の白いリボンが光っては、消えて…
その姿が消える前に、オレは振り返った。
そして、何となく、暖かい気持ちで、オレは帰路についた。
 

ボクは駆けながら、暗くなっていく空を見上げていた。

…ホント、よかった、しおんくん。
優しい人にもらわれて…
だって、あの栞ちゃんの、あのお姉さんだもん。
絶対、絶対、大丈夫だよ。
きっと、幸せになるよっ
だって、栞ちゃん、お姉さんのこと、あんなに自慢して…ホント…

…でも、栞ちゃん…死んじゃったんだ…
知らなかった…
本当に、可愛くて…ボクなんか比べ物にならないくらい可愛くて…優しくて…
ホント、病院でひとりぼっちだったボクの、一番最初の、一番の友達、だったのに…
確かに、よく寝てなきゃならないことあったけど…だけど…
ボクが退院して、そのあとすぐに転院しちゃったから、連絡もつかなくて…
でも、きっと、きっと退院したら、外で会おうねって…
遊びに行こうねって約束、したのに…

栞、ちゃん…

また涙が出て、ボクは足を止めた。
見上げた星がにじんで、白く膜になって見えた。
ボクは涙を拭いたけど、またすぐに目の前、歪んで…

…栞ちゃん…
キミに比べたら、ボクは…幸せ、だよね。
だって、ボク…生きてるんだから。

…うん。
そうだよ。
だから…
…うじうじしてないで、ボク…
祐一くんに、きっと…ボク…
たとえ、その答え…そうだとしても…
…うん。きっと…

ボクはもう一度涙を拭いて、また駆けだした。

<to be continued>

-----
…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…さて…とりあえず、ほぼ状況は出たよね…
「…そうなんですか?」
…おう。だから、ここからがホントのドラマの始まりかな。
「…なんか、毎回そう言ってる気がしますが?」
…うぐぅ…ま、まあ、そんなわけで、次回はインターバルとして短い予定と…
「それも聞き飽きましたね。そう言いながら、今回も最長新記録…」
…ぐはっ…ま、まあ、ともかく、ここからは気を引き締めていくよ。暴走しないようにね…

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