Friends or Lovers

(夢の降り積もる街で-13)


あゆSS。

シリーズ:夢の降り積もる街で

では、どうぞ。

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Friends or Lovers (夢の降り積もる街で-13)
 

1月23日 土曜日
 

なんとなく騒々しい気がして、オレは目が覚めた。
…というか、確かに騒々しかった。
「かばんー、かばんー」
ドタドタドタ…
廊下を走る音と、どことなく焦っているらしい名雪の声がしていた。
「中身空っぽだよー」
ドタドタドタ…
「わたし、まだパジャマだよー」
ドタドタドタ…
名雪にしては珍しい焦った感じなので、オレは起き上がって手早く着替え、ドアを開けて廊下をのぞいてみた。
見ると、名雪が階段の方からやっぱり足音を立てながら駆けてきて、オレに気付いたように立ち止まると
「…あ、おはよう、祐一。」
「…おはよう。何やってるんだ、名雪?」
「うん。急いでるんだよ。」
…そうは見えないところが名雪らしいというか。
「…何で急いでるんだ、お前にしては珍しく、こんな朝から起き出して。」
「…珍しいは余計だよ。」
「ホントのことだろ。」
「…うー」
名雪は不満そうに口をとがらせたが、すぐにポンと手を叩くと
「だから、急いでるんだよ。」
「…だから、何で急いでるのか聞いてるんだが。」
「朝練だからだよ。」
「…朝練?」
「うん。」
名雪はうなずくと、オレの顔を見上げて
「昨日の夜に言ってたように、今日は朝練があるから、早く行かないといけないんだよ。」
「…昨日の夜?」
「うん。」
うなずく名雪の顔を、オレはオレはまじまじと見た。
…そういえば、昨日の8時ごろ、眠そうに階段を上がりながら、名雪がそんなようなことを言っていた気がする。またいつもの寝ぼけかと思って聞いてなかったのだが…
「…名雪。」
オレは起きた時に見た、部屋の掛け時計の時間を思い出した。
「…もう終ってるんじゃないのか、朝練。」
「そんなことないよ。やってる時間だよ。」
「…今はな。でも、今から学校に行ったら、もう普通の登校時間だろ。」
「…うー」
名雪は困ったように眉をひそめた。
そして、あわてて腕時計を見ると
「こんな話してる場合じゃないんだよ。急がないと。」
「…現実を直視しろ、名雪。」
「ともかく、時間がないんだよー」
名雪はオレの言葉を無視するように自分の部屋に飛び込んだ。
オレは息を一つつくと、階段を降りた。
それからダイニングに行くと、キッチンの秋子さんに声をかけた。
「…おはようございます。」
「…あ、おはようございます、祐一さん。」
キッチンから秋子さんが顔を出すと、にっこり微笑んで
「今、朝食の準備をしますね。」
「お願いします。」
オレはテーブルのいつもの席に腰を掛けた。
秋子さんはすぐにオレの前にほどよく表面の焼けたトーストの載った皿を置いた。
…どうしてこんなに早くそんなことができるのか、オレには想像もつかないが。
オレが顔を上げると、秋子さんはにっこり微笑みながらちょっと頬に手をやって
「…祐一さん、そういえば…」
「…行ってきま〜す!」
バタン
名雪の声と共に、玄関のドアが閉まる音がした。
…まだ行ってなかったらしい。
時計を見あげると…時間は、7時40分すぎ。
オレが苦笑しながら秋子さんの顔を見ると、さすがに秋子さんも苦笑を浮かべていた。
「…お宅のお嬢さん、朝が弱いを通り越してますよね。」
「…本当に。」
秋子さんは、ほうっとため息をついた。
「今朝も、間に合うように起こしたのですけど…」
「…まあ、名雪だから。」
オレの言葉に、秋子さんはもう一度ため息をつくと、
「…そういえば、さっき、言いかけたことなのですが…」
「…はい?」
オレがパンにバターを塗りながら秋子さんを見上げると、秋子さんはちょっとすまなそうな顔で
「今日のお昼ですが…わたし、仕事なんです。」
「あ、そうなんですか…」
「ええ。だからお昼ご飯は、どこかで食べてもらうことになると思いますが…」
「分かりました。適当にどこかで食べますよ。」
「お願いしますね。」
秋子さんは言いながら、まだちょっとすまなそうに
「本当は今日はお弁当でも作っておこうかと思ったんですが、名雪を起こしていたおかげで時間がなくなって…」
「あ、そんなこと気にしないでください。」
オレはあわてて手を振った。
「ほんとに、どっかで食べますから。たまにはその方が楽しいくらいで。」
「…そうですか?」
「ええ。」
秋子さんはやっと顔をいつもの笑顔に戻すと、キッチンに戻っていった。
オレはまたパンにバターを塗ると、若干冷めてきたその端をかじり始めた。
まあ、秋子さんのお弁当を食べてみたい気もしたが…居候の身、そこまで秋子さんにしてもらうのは、さすがに気が引けるし…

『食べたことないんでしょ、お姉ちゃんのお弁当。すごくうまいんだからっ!』

…弁当といえば…もう明日の昼だな、ミイちゃんとあゆと、この寒いのにピクニック。
明日はお昼がいらないことを、秋子さんに言っておく必要があるか…
まあ、今晩でも言っておけばいいか。
でも、あゆの弁当…ホントのとこ、どんな味になるのかねえ…

『ホントだもん!そうだ、今度一緒にお兄ちゃんも来て、食べてみればっ!』

まあ、明日になれば、あゆとミイちゃんの言葉が本当かどうか、分かるってもんだ。
…そういえば、今日もあゆはバイトのはず。
どうせ、お昼は商店街に食べに行くんだし、一つ、顔を見に行くか…

オレは思いながら、トーストをかじっていた。
 

キンコーン
予鈴が鳴った時、ちょうどオレは教室に足を踏み入れたところだった。
オレはホッと息をつくと、まっすぐ教室を横切ると、自分の席に座った。
隣の席を見ると、まだ名雪はいない。
一応、部活に行ったようだが…少しは間に合ったのだろうか?
それにしても、名雪と一緒に来ないと、このくらいの余裕が出来るもんだ…
「あら、珍しい事もあるのもね。」
後ろから、聞きなれた声。
オレは振り返ると
「…名雪がいなけりゃ、いつもこのくらいには来れるぞ。」
「…それもそうね。」
香里はうんうんと頷くと、
「…じゃあ、とりあえず、おはよう、相沢くん。」
「…おはよう、香里…って、何だよ、そのとりあえずってのは。」
「どうせ、名雪が来たらまた言わなきゃならないもの。」
「…オレは名雪のついでか?」
「そうに決まってるじゃないの。」
香里は顔色も変えずにしれっと言うと、自分の席に鞄を置いて名雪の席を見た。
「で、名雪、朝練習に間に合ったのかしら?」
「…そんなことがあり得るかどうか、考えただけで分かるだろ。」
「…まあね。」
香里はため息をつくと、自分の席に腰を下ろして
「…あの子の朝が弱いのも、全然変わらないわね…」
「昔からそうだったのか?」
オレが聞くと、香里は肩をすくめて
「…あたしが知る限り、ずっと昔からね。でも…それは相沢くんの方が知ってるはずでしょう?」
「………」
香里の言葉に、オレは…黙るしかなかった。
オレが覚えている名雪は、7年…8年前の子供で、確かによく寝ていたが…
それはオレも同じことだった気がする。
冬休みや春休みにしか会ったことがなかったから、朝がどうだったかなんて、覚えが…

7年前の、冬の日も…
冬の日の、こと…あの冬…

「…そういえば、あいつ、どうしてる?」
何となく話題を変えたくて、オレは香里に言った。
「…あいつって?」
不審そうな顔をした香里に、オレは名雪の席、そして後ろの北川の席がまだ空なのをちらっと確認してから
「…しおんのこと。ちゃんと居着いてるのか?」
「…ああ。」
香里は一瞬、オレの顔を顔をちらっと見ると、目を窓の外にやって
「…元気よ。毎日毎日外に出ては、どろどろになって帰ってくるわ。」
「それ…いじめられてたりするんじゃないのか?」
「というか、あの子…見た目よりもずっと根性があるみたい。あんな小さいのに、もう近所の猫と縄張りを張り合ってるみたいなのよね…結構、もうちょっと大きくなったら近所のボスになったりするかもしれないわ。」
ちょっとうれしそうに言う香里。
その顔は、あの日、香里の家で見たような、優しい顔をしていた。
オレは香里のそんな表情に、思わず微笑しながら
「…まあ、ペットって飼い主に似るというからな…」
「…どういう意味よ、相沢くん。」
「そういう意味だ。」
「………」
香里はオレの顔をまじまじと見ると、ふと苦笑を浮かべながら
「…ともかく、どっちが飼い主か分からないって感じで、わが物顔で家に出入りしてるわよ。」
「…そうか。」
「ただ、近所をうろついてるだけならいいんだけど、街外れまで行って…丘や、森に入ったりしないか、それが心配ね。」
「…丘?」
「ええ。」
香里は頷くと、窓から外の遠くを指差しながら
「あっちの方に、丘があるのよ。正式には『ものみの丘』っていうらしいんだけど。まあ、今は冬だから、行っても何もないから行かないとは思うんだけど…」
「何か問題でも?」
「…キツネがいるって話なのよ。」
「キツネ?」
オレは思わず香里の顔をまじまじと見た。
香里はオレの方を見て、ちょっと肩をすくめた。
「…まあ、噂っていうか、伝承というか…そんな曖昧な話なんだけどね。」
「…ふうん…」
「そっちよりも心配なのは、森の方ね。ほら、あっち。」
「………」
オレは香里の指差した方を見た。
遠く、街並みの向こうに、白い雪を頂いた緑の木々が見えていた。
朝日を浴びながら、わずかに光る雪の白と、緑の…
「…森にはネズミとかもいるし…だから、しおんが行ったりすると、帰って来れないかも…」
香里の声が、だんだん遠ざかるような…

…緑の葉。
冬も緑の葉の上に、白く積もった雪。
誰も踏んだ跡のない雪の上を、オレは…

『もうすぐで見えてくるはずだ。』
『ホント?』

葉で陽の翳った木々の間を、オレは誰かの手を引いて…

『オレしか知らないような、とっておきの場所だ』

オレは誰かに、その場所を…見せたくて…見せてやりたくて…

『…きれい…』

オレの手を握って、声をあげた…
オレンジ色の光の中…
少女…
白い…
…白い…
 

「…相沢くん?」
「……ああ。」
オレはいつの間にか、両手で顔を被っていた。
手を外すと、香里が心配そうにオレを見ているのが見えた。
「…どうかしたの?顔色、悪いけど。」
言って席から立ち上がろうとした香里に、オレはかろうじて手を振ると
「…いや、ただ…ちょっと頭痛がしただけだから。」
「…そう?」
「ああ。」
「…でも…」
心配そうな香里が、まだ続けようとした時。
「…おはよう、香里、相沢。」
朝からのんきな声に、オレたちは振り返った。
「…ああ、おはよう、北川くん。」
「よう、北川。」
「今朝は早いな、二人とも。」
北川は鞄を降ろすと、オレたちを見ながら…
と、名雪の座席に目をやると、
「水瀬さんは、一緒じゃないのか?」
「ああ、あいつは…」
オレが言いかけた時。

キンコーン

「……ふう、セーフだね。」
本鈴の音と共に、名雪が教室に書けこんで来ると、オレたちを見てニコニコしながら教室を横切ってきた。
オレは何か言おうと口を開いたが、その名雪のすぐ後ろ、入り口に担任の姿が見えたので、あわてて口を閉じるとイスに座り直した。
北川も、そしてあわてて席に走ってきた名雪も無事、席に座って、今日の朝のHRが始まった。
 
 

「…これで、授業を終わる。」
先生の言葉と同時に、ボクは立ち上がった。
今日の最後の授業、チャイムが鳴ってから10分も延長して…
一つも終わるのが遅い先生だけど、今日は特に遅かった。
おかげで、予定が…
「…じゃあねっ、また来週っ!」
ボクは鞄を取って、明美ちゃんに手を振った。
「あ、うん。あゆちゃん、また来週。」
「うん!」
ボクは手を振りながら教室を飛び出した。
今日は土曜日でバイトだから、いつもなら一度園に戻って、それから百花屋に行くんだけど、今日は…明日の予行演習も兼ねて、お弁当を作ったから。
それも、ボクの分だけじゃなくて…
ボクは校門を抜けると、雪の道を駆けていた。
駅の前を抜けて、しばらく行くと商店街。その真ん中あたりに、百花屋の看板が…

カランカラン

「…こんにちわっ」
「…いらっしゃい、あゆちゃん。」
ボクが飛び込むと、カウンターのところに立っていた香奈美さんが、にっこり笑って
「今日はずいぶん早いわね。」
「はいっ!」
ボクは大きな声で…
…あ、いけない。
あわてて店の中を見回すと、お客さんは…やっぱりお昼のせいか、割に少なかった。
みんな、ボクの方を見ていることもなく…
…うぐぅ…よかった…
「…どうかした、あゆちゃん?」
「…あははは。」
ホッとしながら、香奈美さんのところへ。
「ちょっと…お客さんに悪いかと思って。」
「あら、あゆちゃんが元気なのはこの店の売りだもの。構わないわよ。」
「…そうなの?」
「ええ。」
にっこり笑う香奈美さん。
…うぐぅ。またからかわれてる…
「…でも、あゆちゃん?」
と、香奈美さん、ちょっと首を傾げて
「ホントに、こんな早く…学校、早く終わったの?」
「いえっ、今日は…まあ、普通かな。」
「じゃあ、昼ご飯どうしたの?食べる時間、なかったんじゃない?」
「…えへへ。」
そうそう。そのために、ボクは走ってきたんだよ…
「…今日は、お弁当があるんです。」
「お弁当?」
香奈美さん、また首をかしげると、小さく頷いて
「なるほど、ここで食べるつもりなのね。じゃあ、そこの手前のテーブルに…」
「あ、そうじゃないです。」
ボクはあわてて香奈美さんを引き止めて
「みんなの分も作ってきたんです。」
「…みんな?」
「はい。店長さんと、香奈美さんの分も。」
「…え?」
ビックリしている香奈美さん。
ボクは鞄を開けると、中から3っつの弁当箱を出して
「はい、これ。ボクと、香奈美さんと、店長さんの分。お昼まだなんでしょ?」
「え、ええ…」
「じゃ、はい、どうぞっ」
「……え?」
香奈美さん、ボクが渡したお弁当箱を見ながら、目をぱちくりさせていた。
「じゃあ、ボク、こっちを店長さんに…」
「…あゆちゃん?」
カウンターを回って奥に行こうとした時、香奈美さんがボクを呼び止めて
「…ホントに、いいの?」
「え?」
「だって、わざわざ…」
「…あ、全然っ」
ボクは急いで首を振ってみせた。
「ついで、ですから。今日は自分の分、どうせ自分も作ってたから、そういえば、いつも忙しくて昼はサンドイッチをつまむくらい、なんて店長さんと香奈美さんが言ってたのをちらっと思い出したから…だから、それだけですから。」
「でも…」
香奈美さん、まだ手の中のお弁当箱を見て…
「…あ、分かった。」
急に顔を上げて、ボクににっこり笑うと
「…そこにもう一つ、入れてあるんでしょう、お弁当?」
「…え?」
「またまた、とぼけちゃって。祐一くんの分。」
「…ええっ」
「…ほらほら」
香奈美さん、ボクの方を肘でちょんっと突っついて
「図星でしょう?そうか…祐一くんと待ち合わせて、一緒にお弁当かぁ…」
「ちょ、ちょっと、香奈美さんっ」
ボクは急いで首を振りながら
「そ、そんなのじゃないですっ」
「うそうそ。白状しなさいよ、あゆちゃん。」
「…うぐぅ」
香奈美さん…誤解してるよ。
今日は別に、会う約束だってしてないんだから。
まして、一緒にお弁当なんて…
それは、まあ、明日…祐一くんにボクのお弁当を…

あ、いや、えっと…ピクニック、ピクニックだから。
ミイちゃんと一緒なんだしっ
だ、だから、別に…べ、別に…

…でも、ボク…

ううっ、そんなこと、今は考えてる場合じゃないよっ
顔、赤くなっちゃったじゃないか…

「…ほら、あゆちゃん、顔が赤いよ。」
「…うぐぅ。香奈美さん…違うんですってばっ」
「またまた…」
「…楽しそうだね、お二人さん。」
店長さんの声。
見ると、店長さんが店の奥から顔を出して、ボクたちを見ていた。
と、ともかく、お弁当を…
「店長さん、これ…お昼にしてください。」
「…あゆちゃん、これ…」
ボクが渡したお弁当を、店長さん、ビックリして見てる。
「…それ、恋人の分のおまけなんですって。」
香奈美さんがにっこりしながら。
そしたら、店長さんもにっこり笑って
「…なるほど。なかなか隅に置けないね、あゆちゃんも。」
「だ、だから、違うんですってば…」
「まあ、あたしたちは単なるおまけってとこかしら。」
「…うぐぅ」

二人とも、ニコニコしながらボクを見ている…
だ、だから、誤解なのに…
…うぐぅ。
どうしよう…
…っていうか、何か、どうしてやろうか…何か、からかわれちゃってるし…

…そうだっ

「…そういえば、香奈美さん。」
「…うん?」
ニコニコしながらボクを見た香奈美さんに、ボクはにっこり笑ってみせて
「…この間の水曜日の、首尾はどうだったんです?」
「……えっ?」
いきなりで、ちょっとビックリしたらしい香奈美さん。
ボクは本気でニコニコしながら、香奈美さんに
「ボクがバイト代ったんだから、ボクにも権利があるんじゃないかなっ?ねえ、デート、どうだったんですか?」
「…デート?」
ボクの言葉に、店長さん、今度は香奈美さんをニコニコしながら見て
「…そんな理由だったんだ、香奈美ちゃん?」
「あ、えっと…」
香奈美さん、いつになくちょっと焦った感じでボクと、店長さんを交互にちらちら見て
「…まあね。」
「あ、うまくいったんですねっ」
「……あゆちゃん」
香奈美さん、ボクの顔を見て、ちょっと苦笑い。
でも、どことなくうれしそうな…うまくいったんだね、きっと。
「…もう…」
香奈美さんが苦笑しながらボクを見て、口を開いたとき。
「…すいませ〜ん」
「あ、はいっ」
お客さんが呼んでいた。
香奈美さん、あわてて読んだお客さんにところに向かった。
「…じゃあ、僕もキッチン、戻るよ。」
店長さんもお弁当箱に手を伸ばすと、
「あゆちゃん、弁当、ありがとう。」
「あ、いえっ」
そのまま、店長さんは奥に戻っていった。
香奈美さんは、お客さんの追加注文を受けているみたい。
ボクはほっと息をついて…

…もう、二人とも、ご、誤解だよ…
今日はホント、別に約束もしてないんだから。
約束は…本番は明日だから。
今日のは…予行演習と、いつもの…感謝の気持ちなんだから。
なのに、もう…

絶対、言わないでおこう。
言ったら、きっと、また茶化されちゃうから。
約束、してるなんて…
本番は…祐一くんにお弁当、食べてもらうのは…
日曜日…明日…
そう、明日、だから。
だから、今日は…

…でも
今日もバイトだって事、祐一くんも知ってるから…
別に約束、してないけど…
あれから、水曜から、会ってないし…

…約束、すればよかったな。
ホント…

でも…
今日も、来る、かも…

…来てほしい…な…

ボクは自分の分のお弁当を抱えたまま、ぼんやり窓から外を見ていた。
 
 

カランカラン
「いらっしゃいませっ」
百花屋に響く元気いっぱいの声。
声の主、あゆはいつものようにメニューを持ってオレに振り返った。
「…よう、あゆ。」
「…あっ」
手をあげたオレに、あゆはちょっとその大きな目でオレの顔を見た。
でも、すぐに微笑むと
「…祐一くん、いらっしゃい。」
「…おう。」
「いつもの席、空いてるよっ」
「…ああ。」
あゆも前のように突っかかってこないけれど、オレの方もなんだかちょっと気恥ずかしい気がして、そのままいつもの席に腰を下ろす。
あゆは一応、メニューを持ってオレのところに来て
「いつものコーヒーでいい?」
「…いつものって…まずいやつか?」
「…え?」
あゆはちょっとキョトンとすると、すぐに口をとがらせて
「もう、祐一くん…」
苦笑を浮かべながら、あゆはレシートをもってカウンターに向かった。
オレはそんなあゆから、店内に目を移した。
昼から夕方へと向かう百花屋の店内は、もうお客のピークは過ぎていたが、それでも女子高生がいっぱいで、空いているテーブルは…他に2つくらい。
ほとんどのテーブルの上には、空になった甘味の容器が店内の灯に光っていた。
…しかし、どうして女の子って、甘いものが好きなのかね…名雪といい…
思いながら目を戻すと、ちょうどあゆが店の奥にコーヒーをオーダーして振り返ったところだった。
…そういえば、あゆも…さすがに女の子の端くれ…たい焼きやら、チョコパフェ…
ふと、前にこの百花屋でチョコパフェを奢った時、スプーンをくわえながらしゃべってた顔を思い出して、オレは思わず笑ってしまう。
あゆはそんなオレに、ちょっと首をかしげると
「…どうかしたの、祐一くん?」
「…いや、ちょっとな。」
「……?」
あゆは不思議そうな顔のまま、まだ笑っているオレを見ていたが、
「…うぐぅ。何か、感じ悪いよ…」
「…いや、ほんとに何でもないって。」
ちょっと口をとがらせたあゆに、一応、オレはフォローして
「ただ、女の子って…ほんとに甘いものが好きだなと思ってさ。」
「…それなら、なんでボクの顔見て笑うんだよ…」
「いや…確かに悪かった。」
オレはなんとか笑いを止めると、あゆの顔を見つめた。
「確かに、失礼だったよ、あゆ。」
「…えっと…ボクもそこまで…」
「お前に女の子の話するなんて。男の子なのにな。」
「…うぐぅ」
あゆは一瞬、言葉に詰まったが、すぐにオレに食ってかかるように
「祐一くんっ!…」
「あゆちゃん、コーヒー上がったよ。」
その時、いいタイミングで店長が店の奥からカップを持って顔を出した。
そして、あゆの方を見るとにっこり笑って
「いつものまずいやつね。」
「…店長さん…」
「あ、あゆちゃんの恋人くん、今日はあゆちゃんから、お弁当をどうも。」
「え?」
…お弁当?
オレは店長の顔を、そしてあゆの顔を見た。
「て、店長さんっ!」
ちょっと顔を赤らめて、店長に食って掛かるあゆ。
店長は肩をすくめると、オレにウインクをしてみせて
「じゃあ、ごゆっくり。」
「店長さんっ!」
それでも客に気を使って、小さい声で言ったあゆを無視して、店長は店の奥に引っ込んだ。
「…もう…」
あゆはまだちょっと赤い顔のまま、コーヒーカップを持って来ると、テーブルの上にガチャンと置いた。
あゆらしくない…というか、オレに対してはいつもそんな感じだが、にしても…
お弁当?
オレはあゆの顔を見あげると
「…お弁当、作ってあげたのか?」
「………」
あゆはちょっと躊躇するように目線を泳がせたが、すぐに苦笑を浮かべると
「…うん。まあ…」
「…店長に?」
「と、香奈美さんに。」
「へえ…」
「…自分の分、作ったおまけだから。それと…いつもお世話になってる、お礼。」
「…そうか。」
オレはなんとなく恥ずかしそうにしているあゆの顔から目を落とすと、コーヒーを一口飲んだ。
あゆは手にしたメニューを胸に、なぜか苦笑を浮かべながら
「…どうせ…」
「…うん?」
オレが見上げると、あゆはオレを見ながら
「…二人とも、お腹を壊さなきゃいいなとか、言いたいんでしょ、祐一くん?」
「………」
オレはあゆの顔を見ながら、手にしたコーヒーカップをテーブルに置いた。
いつもなら確かに、そんなことを言うところだが…なんとなく、今はそんなことを言うつもりにはなれなかった。
あゆのそんな自虐的な言葉が、なぜか…あゆに言って欲しくない、そんな気持ちがして…
「…言わねえよ、そんなこと。」
「……え?」
オレがいうと、あゆは一瞬、驚いた顔でオレを見た。
オレはそんなあゆに、続けて
「オレが言いたかったのは…」

カランカラン

その時、入り口のドアベルの音。
あゆはびくっとして振り返ると、大きな声で
「…いらっしゃいませっ」
「…こんにちわ。」
入ってきた二人の少女のうち、片方がウエーヴのかかった長い髪を指で後ろへやりながらあゆにうなずいた。
そして、隣の長い髪の少女が、あゆを、そしてオレを見て…
「…祐一…」
「………」
オレは苦笑するしかなかった。
確かに、こいつらはこの店の常連らしいから、今までこんなシチュエーションがなかった方が不思議だとも言えるが…
「………」
香里はオレと、そしてあゆを見ながら、一つため息をついた。
そして名雪の腕を取ると、あゆにうなずいて
「…あっちの席、いいかしら?」
「あ、はいっ」
あゆはあわてて香里の指差す、窓際の空いた席に駆け寄った。
名雪は香里に手を引かれて、その席に歩いていった。
でも、オレの方をちらちらと…
…なんか、気まずかった。
別に、何かまずいことがあるわけじゃないけど…なんとなく…
「…あたしは、オレンジジュース。名雪は…いつものイチゴサンデーよね?」
「…あ、うん…」
なんとなく、上の空な名雪の声。
「はいっ、かしこまりましたっ」
あゆが大きな声で答えて、オレの横をパタパタとすり抜ける。
そのまま、レシートを置いて店の奥に注文を伝えるあゆ…
…なんとなく、背中に視線を感じる気がした。
多分、名雪の…視線。
そして香里のため息が、聞こえる気がした。

…オレがしていること…か。
オレは…どうすればいいんだろう?
というよりも、オレはどうしたいんだろう?
オレは…
あゆ…
そして…名雪の…

…なんなんだろう。
オレはこんなに優柔不断な奴だったっけ?
もうちょっと…

オレは首を振って、コーヒーを飲み干した。
見ると、あゆは香里と名雪の注文の品をお盆に載せて、運んでいくところ。
テーブルの間をくるくると通りすぎる、小柄なウエイトレス姿。
「お待たせしましたっ」
あゆは香里の横に立つと、サンデーとジュースをテーブルに置いた。
そんなあゆを見ている…名雪。
目が…いつもの眠そうな目ではなく、じっとあゆの顔を見つめて…
一方、香里は興味なさそうに、窓の外を見ていた。
…いや、多分、興味がないフリをしているのだろう。なんとなく、そんな気がした。
「ごゆっくりどうぞっ」
あゆは頭を下げると、またカウンターへと戻ってくる。
オレは急いで目線を店内に、その壁の時計に移した。
…もうすぐ、4時。あゆの交代の時間、だろうけど…
…帰るか。
オレは決心して、席を立とうと…

カランカラン

「あゆお姉ちゃん、一緒に帰ろっ!」
ドアベルの音と共に、あゆ以上に元気な声が、百花屋に響き渡った。
そして、声の後に駆け込んでくる小さな少女。
背中の鞄の白い羽…
少女は百花屋に駆け込むと、店内をぐるりと見回した。
そしてオレの姿を認めると、にっこり笑って駆け寄ってきた。
「あ、祐一お兄ちゃん!」
「…おう、ミイちゃん。いつも元気だな。」
「うん!それがあたしの取り柄だもんっ!」
やっぱり元気にうなずくミイちゃん。
まあ、確かにそれはそうだけど…それは誰かさんにも言えること…
「…ミイちゃん。」
と、その誰かさんがいつの間にかミイちゃんの後ろに立っていた。仁王立ちになって、腰に手をあてて…
ミイちゃんはその声に、ちょっと首をすくめながら、ゆっくりと振り返って…
「…あ、お姉ちゃん。」
「お姉ちゃん、じゃないよっ!ミイちゃん、またそんな大きな声で…」
「え、えっと…」
焦っているミイちゃん。
一方、あゆはそんなミイちゃんを、めいっぱい顔をしかめて睨んで…
…でも、なんだか子供が子供を叱っているって感じで、オレには微笑ましいとしか思えない。
「で、でも」
ミイちゃんはあゆの顔を見あげながら、ちょっとおそるおそるという感じで
「あゆお姉ちゃんの姿、見えなかったから…だから…」
「そんなわけないだろっ!ボク、入り口のそばにいたんだからっ!」
「…でも、お客さんで見えなかったんだもん…お姉ちゃん、小さいから…」
「ミイちゃん!もう、そんな…」
「…ていうか、あゆ。お前の声の方がでかいぞ。」
「…え?」
オレが言うとやっと、あゆは口を閉じて周りを見回した…
…店内はくすくすというお客の笑い声でいっぱいだった。
みんなあゆの方をこっそり見ながら…香里も思いっきりくすくす笑いをしているし、名雪でさえ、微笑んでいるのが見えて…
「…うぐぅ」
あゆは顔を真っ赤にすると、うつむきながらあわててカウンターのところに行った。
そして、ミイちゃんをきっと睨むと
「…もうすぐ終るから、静かに待っててねっ」
「はあい…」
ミイちゃんはこくりとうなずいた。
それからオレの方を見上げて
「…お向かい、座っていい?」
「…ああ、いいよ。」
「うん!」
ミイちゃんはうなずくと、オレの向かいの席にちょこんと腰を下ろした。
そして、届かない足を椅子の下、ぶらぶらさせながら、肩ひじをついてオレを見た。
…よく香奈美さんがする格好。香奈美さんがよく座る席…
思わず、頭の中で比較してしまい、オレは思わず笑ってしまう。
「…なに、お兄ちゃん。感じ悪ーい。」
口を尖らせるミイちゃん。
オレはあわてて笑いを殺すと
「…あはは。悪い、ミイちゃん。何でもない。」
「何でもなくないぃ…」
「いや、別にミイちゃんを笑ったわけじゃないぞ。」
「…ほんとに?」
「ああ、ほんとだぞ。」
…まあ、ギャップを笑ったと言えば言えないでもないから…
「…なら、いいけどさっ」
ミイちゃんはまだ納得いかない顔で首をちょっと傾げていた。
「でも、そんなことしてると、女の子に持てないよ、お兄ちゃん。」
「…へえへえ。」
一人前の口調に、思わずオレは苦笑する。
「でも…ミイちゃん、よく店にあゆを迎えに来るのか?」
「…ううん。」
オレの問いに、ミイちゃんは首を振ってみせて
「今日はね、ちょうどついさっきまで、商店街で遊んでたから。だから、お姉ちゃんと一緒に帰ろうって来ただけ。お店に入ったのは…4回目位かな。」
「…それで、前の3回も、こんな感じで騒いでたんだよ。」
あゆがカウンターのところから、小さな声で口を挟む。
「…そんなことないもんっ!」
ミイちゃんはプッとふくれると、あゆをキッと睨んでみせた。
それからふいにオレの前のカップをのぞき込んだ。
「…なに飲んでたの、お兄ちゃんは。」
「ん?コーヒーだけど。」
「なんだぁ…そっか。」
ミイちゃんは、ちょっと残念そうに顔をしかめた。
「…何か、甘いものかと思ったのか?」
「…ベ、別にっ」
「…ははーん。」
オレはミイちゃんの顔を見ながら、わざとニヤリと笑ってみせて
「…そうだったら、分けてもらうつもりだったんだろ。」
「ち、違うもん!」
「じゃあ、まさかオレにおごってもらうつもりだったとか?」
「…ち、違うよっ」
明らかに動揺しているミイちゃん。前から思っていたが、反応があゆに似ていてからかい甲斐があるというか…
あるいは、あゆがミイちゃんと同程度だっていうことなのか?
オレはミイちゃんの顔から、ちらっとカウンターのあゆを見た。
あゆはオレが見ているのに気がつくと、小さく首を振って
「…ダメだよ、祐一くん…くせになるからさ。」
オレに聞こえるように、でも小さな声で言ったあゆ。
なかなかどうして、お姉ちゃんって感じじゃないか。
そう思いながら、オレはちらっと壁の時計を見る。
…時計はほぼ4時を指していた。
まあ、あゆの言葉もあるし、それに今からじゃ、注文が来るか来ないかであゆのバイトが終ってしまうだろう。それに、今から甘いものを食べると、ご飯を食べないかもしれないし…
「…前にクッキーおごったから、今日は…なし。」
ミイちゃんの方に向き直り、オレがきっぱり言った。、
「ええ〜」
ミイちゃんはいかにもがっかりという顔でオレを見た。
オレはちょっと笑いながら
「また…今度。気が向いたらおごってあげるかもしれないってことで。」
「うー…お兄ちゃんのけちんぼ…」
ミイちゃんは口をとがらせると、足をぶらぶらさせて…
と、パッと顔を輝かすと、オレの顔を見あげた。
「…ねえ、お兄ちゃん。」
「…なんだ?」
「じゃあさ…賭け、しない?」
「賭け?」
オレが聞き直すと、ミイちゃんは大きくうなずいて
「賭けに負けたら、お兄ちゃんがミイにパフェ、おごるの。」
「…ちょ、ちょっとミイちゃん…」
あわてて止めに入るあゆ。
「子供がそんな…賭けなんて、ダメだよっ!」
「…大人でもダメだと思うけどな。」
テーブルに寄ってきたあゆに、オレは思わず笑って
「ま、いいだろ。受けても」
「祐一くんっ!」
「うんっ!約束ねっ!」
「ミイちゃんっ!」
オレとミイちゃんを睨んでいるあゆ。
「でも…内容によるぞ。あんまり不公平な場合は、却下な。」
「…うん。」
オレの条件に、ミイちゃんは大きくうなずいた。
一方、あゆはオレたちを睨んだままで、ため息をついた。
「…もう、二人とも…」
「…いいじゃないか、あゆ。まあ、内容次第だって…」
「でも…」
渋るあゆを、オレはなだめながらミイちゃんの方を見て
「で、ミイちゃん。賭けの内容は?」
「うん!」
ミイちゃんはうれしそうにオレに笑いかけると、
「明日のピクニックのお昼、あゆお姉ちゃんのお弁当を祐一お兄ちゃんが食べて、おいしいって思ったらミイの勝ち。それで、どう?」
ミイちゃんのうれしそうな大きな声が、百花屋の店内に響いた。
「み、ミイちゃんっ」
カラン
あゆのミイちゃんをとがめる声と同時に、オレの後ろで何か、多分スプーンが落ちる音がした。
オレは思わず、音のした方に振り返った…二人の少女が座っているテーブルの方へ。
そのテーブルの下に、銀色のスプーンが転がっていた。
名雪の顔は窓の外を見ていて、オレの方からは見えなかった。
香里は目の前の自分の注文の品、オレンジジュースをぼんやりと見つめていた。
名雪の注文は、イチゴサンデー…
と、香里がすっと椅子からしゃがみこんで手を伸ばすと、テーブルの下のスプーンを拾い上げた。
そして固い笑みを浮かべながらあゆの方を見て
「…代わり、お願いできる?」
「あ、はいっ!」
あゆはあわててカウンターから新しいスプーンを持って、香里の方に向かった。
「…ね、お兄ちゃん?」
「……ああ」
ひょっとしたらずっと話を続けていたのかもしれないミイちゃんの声。
オレは振り返った。
「…なんだって?」
「だからぁ…」
ミイちゃんはオレにちょっと口を尖らせながら
「お兄ちゃん、お姉ちゃんの料理の腕、疑ってたから…ね?いい?」
「…ああ。」
オレはうなずいた。
「やったぁ!」
ミイちゃんはにっこりとオレに笑って…

カランカラン

「…こんにちわ〜」
ドアベルの音と共に、女性が一人で入ってきた。
…前に見た、バイトの女性だった。
彼女は振り返ったあゆにうなずくと、カウンターの後ろに入っていった。
オレはもう一度時計を見あげると、レシートを持って立ち上がった。
「…お兄ちゃん、帰るの?」
向かいの席から、ミイちゃんがオレを見上げて言った。ちょっと残念そうな…寂しそうな…
…背中の視線は、まだ感じていた。
オレは…

「…一緒に、外で待とう。」
「え?」
オレは不思議そうに見上げたミイちゃんに笑ってみせた。
「あゆ、もうすぐ交代だから、外で待って…一緒に途中まで帰ろう。」
「……うんっ」
ミイちゃんは大きくうなずくと、席から飛び降りて入り口へ駆けていった。
オレはその後を追うように、レジへと歩いていった。
そしてレジに立っていたあゆにレシートとお金を渡すと、
「…外で待ってるから。」
「…うん。」
小さくあゆにうなずいて、入り口のドアを開けた。

ドアを開けて外に出ようとした瞬間、かすかにため息のようなものが聞こえた気がした。
 
 

外は少し日も傾いて、風が冷たかった。
でも、ミイちゃんははしゃぎながらあたりをパタパタ走り回り、オレが思わずため息をついたところで
「お待たせっ」
と、あゆが店から出てきた。
「…遅いっ」
「そうそうっ」
「…うぐぅ」
オレとミイちゃんの波状攻撃に、あゆは一瞬詰まったが、すぐににっこり笑うと
「…じゃ、帰ろっ」
「うん!」
ミイちゃんはうなずくと、背中の鞄の羽をパタパタ揺らしながら、先を駆け出していく。
「…おい、ミイちゃん…」
「遅い…遅いよ、二人ともっ」
ミイちゃんは振り返ると、また駆けていく。
オレは思わず笑いながらあゆの方を見て
「これじゃ、一緒に帰る意味、ないな。」
「…そんなこと、ないよ。ミイちゃん、元気だから…でも、すぐに戻ってくるよ。」
確かに見ていると、あゆの言葉どおりにミイちゃんはまた立ち止まるとオレたちの方に振り返った。そして、オレたちから離れすぎると見るや、すぐに戻ってきてあゆの腕を取って
「…うー、お姉ちゃんたち、遅いよっ。」
「…そんなに早く帰りたいなら、ミイちゃん、一人で帰れば?」
あゆはそんなミイちゃんの顔を見ながら、にっこり笑って
「ボク、それでもいいんだよ?」
「うー…おねえちゃん…」
ちょっと口を尖らせてあゆの顔を見上げるミイちゃん。
でも、すぐに機嫌を直すと
「ね、お姉ちゃん…明日、きっと晴れだよね?」
「…ん?」
オレとあゆは同時に、空を見上げた。
空はわずかにオレンジ色に染まりかけていた。
雲は地平線の方、わずかにしか見えない。
そして、わずかにオレンジ色の陽…

オレンジ色に染まる…
少女の頭の白い…
白い…

「…お兄ちゃん!お姉ちゃん!」
「…え?」
…気がつくと、ミイちゃんがオレを見上げて、ちょっと口を尖らせていた。
「もう、空見上げて、ぼんやりしちゃって…どうしたの、二人ともっ」
「…え?」
…二人とも?
オレがあわててあゆを見ると、あゆもびっくりしたようにオレを見上げていた。
その見上げている大きな瞳が、オレンジにかすかに染まっていた。
かすかに染まって、そして揺れて…
「…あはは」
先に目をそらしたのは、あゆの方だった。
あゆは目を落とすと、ミイちゃんの顔を見て
「…ごめん。ちょっと…ぼーっとしちゃった。」
「もう、お姉ちゃん…」
「なんかね、妙に懐かしいような…何か、思い出すみたいな、そんな感じ、したから。」
「…なんなの、それ?」
ミイちゃんは首をかしげた。
オレは…あゆの横顔を思わず見つめた。
オレも同じような感覚を…
…あゆ?
「…なあ…」
オレがあゆに声をかけた、その時。

「…祐一さん?」
「…え?」
声に振り返ると、そこに秋子さんが立っていた。
買い物かごを片手に、いつもの笑顔でオレたちを見ていた。
「…ごめんなさい、邪魔をしてしまいましたね。」
「あ、いえ、別にそんなことはないです。」
首を振りながら言うと、コートの裾が引っ張られる感触。
振り向くと、あゆがオレのコートを引っ張っていた。
「…ね、祐一くん…どなた?」
「ん?」
見ればあゆの横で、ミイちゃんもオレを見上げている。
そういえば、あゆもミイちゃんも、秋子さんとは初対面だった。
「ああ、そうか…この人は、水瀬秋子さん。オレの今居候している水瀬家の家主だ。名雪のお母さんだよ。」
「あ、そうなんだ。」
あゆはポンッと手を合わせると、にっこりしながらオレを見上げて
「どうりで、どこかで見たことある気がしたんだよ。名雪さんと、似てるよね。」
「…そうか?」
「うん!」
何となく、そういう目で見たことがないせいか…雰囲気は似ているが、顔が似ているようには思わないのだが…
「…へえ、名雪お姉ちゃんのお母さんかぁ…」
ミイちゃんも、ニコニコしながら秋子さんを見ている。
「それから、この子はミイちゃん…えっと…美衣子ちゃん、名字は…」
「飯並!飯並美衣子だよっ!お兄ちゃん、もう忘れちゃったのっ!」
「ごめんごめん。」
オレはぷっと頬を膨らませた美衣子ちゃんにあわてて謝りながら
「ミイちゃんってずっと呼んでるから、そっちばっかり覚えてて…」
「うー…」
「以上、紹介、終り。さて…」
「…祐一くんっ!」
「…なんだ、あゆ、お前、まだそこにいたのか。」
「いるよっ!」
「いや…小さいから見えなかった。」
「…うぐぅ」
「うー」
…二人並んで、オレをちょっと恨めしそうに見上げていた。
とはいえ、なんだか恐いというより、本当の姉妹のようで微笑ましくすらある。
オレは思わずニヤニヤしながら、秋子さんの方に向き直ると
「…で、こいつが月宮あゆ。」
「よろしくお願いしますっ」
「ちなみに、高校生だって言い張ってますけど、本当は小学生。」
「ホントに高校生っ」
秋子さんに下げていた頭を上げて、オレを見上げるあゆ。
オレは笑いながら、そんなあゆの顔から秋子さんの方に目を戻し…
「…月宮…あゆ?」
そこには、初めて見る秋子さんの驚いたような顔があった。
秋子さんはつぶやくように言いながら、あゆの顔をまじまじと見ていた。
微かに首を傾げて、あゆの顔をじっと…
普通の人ならちょっと驚いている程度の様子だろうが、秋子さんという人から考えると、ひどく驚いている部類だろう。
「…どうかしたんですか、秋子さん?」
「………」
秋子さんはまだじっとあゆの顔を見つめていた。
あゆは秋子さんの視線に、ちょっと居心地悪そうに目を伏せた。
「…えっと…」
「…月宮、あゆちゃん?」
「…はい?」
秋子さんの声に、あゆは顔を上げた。
秋子さんはもう一度、そんなあゆの顔をまじまじと見つめると
「…いえ、なんでもありません。」
「……?」
不思議そうなあゆに、秋子さんはニッコリ微笑んで
「…初めまして、あゆちゃん…ミイちゃん。」
「初めましてっ!」
大きな声で答えるミイちゃんに、秋子さんはまた微笑んだ。
その顔は、いつもの秋子さんに戻っていた。
ミイちゃんは続けて
「名雪お姉ちゃんには、お世話になりましたっ」
「…あらあら。なんの事で?」
「お姉ちゃんに、ハンカチ貸してもらったの。ミイ、転んで顔に泥が付いちゃったから。」
「そうなの…それは大変だったわね。」
「うん。」
「じゃあ、今度、家に遊びに来てくださいね。」
「はいっ」
…会話が数メートルも横にズレている気がするが、それでも成立している気がするのは、やっぱり名雪の母親…そして、ミイちゃんだからだろう。
オレは思わず笑いながら
「秋子さん、これからお買い物ですか?」
「ええ。ちょっと。」
秋子さんは頷いて、ふと手を頬にやってオレの顔を見ると
「…祐一さん…いえ、ご迷惑ですよね?」
「え?」
「…実は、お手隙だったらお米を買って帰るのを、持ってもらおうかと…でも…」
「あ、えっと…」
オレはあゆの顔を見た。
「いえ、まだもう少しお米はありますから…ごめんなさい、わたしはこれで…」
微笑しながら、立ち去ろうとする秋子さん。
「あ、いえっ」
あゆは声をあげると、オレを見上げて
「祐一くん、お手伝い、して。」
「…まあ、それは…」
「ボク達、二人で帰るから。ね、ミイちゃん?」
「…うん。」
ちょっと寂しそうに頷くミイちゃん。
あゆはにっこりしながらオレを見上げると、秋子さんに向き直って
「えっと…じゃあボク達、これで帰りますから。」
「…あら、そんな…」
「いえっ、どうせ帰り、方向が逆だからそろそろお別れして帰るつもりだったんです。ね、祐一くん?」
「…ああ。」
「…そう?ごめんなさいね、あゆちゃん…」
手を頬にやったまま、秋子さんはすまなそうに言うと
「あゆさんも、ミイちゃんも、今度家に遊びに来てくださいね。」
「はいっ」
あゆは大きく頷くと、オレを見上げて
「じゃあ、祐一くん、バイバイっ」
「おう。じゃあな、あゆ…ミイちゃん。」
「お兄ちゃん、明日…遅れちゃダメだよっ」
ミイちゃんがピシッとオレを指差すと、
「あと、賭けもねっ」
「…おう、分かってるって。」
「うんっ!じゃあねっ」
「ああ、また…明日な。」
「また明日っ」
二人は手を振りながら、駅の方へと歩いていった。
そして、しばらく行ってもう一度振り返ると、今度は手を繋いでオレンジ色に染まっていく道を駆けだした。
オレは思わず笑いながら、秋子さんの方を見た。
秋子さんもそんな二人の姿を、ずっと目で追っているようだった。
「…じゃあ、行きましょうか、秋子さん。」
「…ええ。すいません。」
オレが言うと、秋子さんはもう一度、消えていく二人を見ると
「では…」
「はい。」
秋子さんはちょっと頷くと、商店街を歩きだした。
「こっちのお米屋さんです。」
「はあ。」
「あと、今日の夕食の買い物もあるのですけど。」
「今日のおかずは何ですか?」
「…スーパーで、適当なものがあったら。」
やっぱりいつものアバウトな答えの後、ふと秋子さんはオレの顔を見た。
「…よかったですね、祐一さん。」
「…?」
「あゆちゃん…無事で、あんな元気で…」
「……え?」
オレは立ち止まって、秋子さんの顔を見返した。
「秋子さん、あゆを知ってるんですか?」
「…え?」
秋子さんも立ち止まると、目を見開いた。
オレの顔をじっと見つめた。
オレンジに染まっていく街の色に、オレンジ色にその目が…
「…祐一…さん?」
「……はい?」
秋子さんはそこで口を閉じると、オレの目をもう一度じっと覗きこんだ。
「…あの木のこと、覚えて…いますか?」
「…木?」
「ええ。街外れの森の、木のことです。この街のどこからも見えた…大きな、森で一番大きな木のことです。」
「………」
オレは思わず、あたりを見回した。
オレンジに染まる商店街…その向こうにも見えるのは、雪景色だけ…
「…木なんて、見えませんけど。」
オレは秋子さんに向き直った。
秋子さんはそんなオレから、目線をオレの後ろにやった。
オレはその目線を追って、後ろを振り返った。
後ろは遠く、駅の方…その後ろに、白い雪をかぶった、緑の木々がわずかに見えた。
でも、目立つような木は見えなかった。
オレはそれでも森を見ながら
「…やっぱり、木なんて…」
「…あの木は…切られてしまいましたから。」
秋子さんはそこで一つ、息をついた。
「…7年前に…街の人が、切ってしまいましたから。」
「7年前?」
7年前…オレの記憶が途切れる冬…
オレはもう一度、じっと緑の木々を…

…冬も緑の葉。
見上げても、てっぺんも見えない、大きな大きな木…

『な、すごいだろ』
『うん…すごいよ…』

並んで見上げる、大きな大きな木…
大きな木の上、緑の葉を赤く、赤く染めていく夕日がわずかに見え隠れ…

赤い夕日が…
赤い…

『…危ないっ』
『あっ』

赤い…
白い…

 
 


 
 

…気がつくと、オレはその場にしゃがみ込んでいた。
肩に秋子さんの手が、暖かかった。
振り返ると、秋子さんが少し首をかしげながらオレを見下ろしていた。
「…大丈夫ですか?」
「……はい。」
オレは首を振って立ち上がった。
少しまだ、めまいがする気がした。
この街に来てから、なぜかこんなめまいのような…
いや、それも最近特に、はっきりとしてくる…
イメージ。少女…白い…オレンジ…赤い…

何なんだろう、これは。
オレは…どこかおかしいのか?
思わず、叫びたいような…
…泣きたいような。
でも…
懐かしいような…

「…祐一さん。」
呆然としていたオレが振り向くと、秋子さんが微笑んでいた。
「…無理、しないでいいんですよ。」
「…え?」
「…その時が来れば…きっと。だから、それまでは…」
「………」
秋子さんが言っていることは、オレにはよく分からなかった。
でも、なぜかその言葉は、オレの気持ちを鎮めてくれる、そんな気がした。
「…はい。」
オレが頷くと、秋子さんはニッコリ微笑んだ。
「…では、買い物、行きましょうか。」
「はい。」
そしてオレは歩きだした秋子さんの後ろを、オレンジに染まった商店街を歩きだした。
 
 

「お姉ちゃん…残念だったね。」
「…え?」
ボクはオレンジ色に染まったミイちゃんの顔を見た。
ちょうど駅前を過ぎたところで、ミイちゃんは手を繋いだまま、ボクを見上げていた。
「ほら、祐一お兄ちゃん。送ってもらいそこねたでしょ?」
「…ミイちゃんっ」
ボクが手をあげる格好をしたら、ミイちゃん、笑いながら手を離して逃げてった。
「…えへへ。」
「もう、ミイちゃん…」
「でも、大丈夫。明日、また会えるからっ」
ミイちゃん、言うとオレンジ色の空を見上げて
「明日は晴れみたいだし。お姉ちゃんもきっと、張り切ってお弁当作ってくれるだろうしっ」
「…別に、いつもと同じだよっ」
「またまた。照れない、照れないっ」
ミイちゃんはクスクス笑いながら、また空を見上げた。
「…でも、きれいな空…」
「…そうだね。」
ボクも止まって、空を見た。
オレンジ色の夕焼け空…

…別に今日は…残念じゃないよ。
ただ…

…名雪さん…聞こえたよね…
ボクと祐一くんと…明日、一緒に…

で、でも、別にデートってわけじゃないし。
だから、別に
別に…

ううん。
ダメだよね、そんなこと言って、ごまかしてちゃ。
だって、明日は…
明日はきっと、言おうって…決めたんだから。
たとえ、祐一くんが…

…名雪さん、香奈美さんの言うとおり、本当に、祐一くんのこと…

だとしたら、ボクなんて、勝ち目ないよね…
あんなきれいで…大人っぽくて…
それに、いつも一緒にいられるんだから…
ボクなんて…
こんな…ボク…

…ううん。

ボクは首を振って、一度目をつぶる。
それから、目を開けて、また空を見上げた。

いいんだよ。
もしも祐一くんに…断られても。
ボク…決めたから。
ボクは…頑張るって。栞ちゃんの分も…

うん。
頑張ろうっ

「…さ、帰るよっ」
ボクは夕焼け空からミイちゃんに目をやると、歩きだした。
「帰って、やることあるんだから、お姉ちゃんは。」
「…お弁当の準備?」
ミイちゃん、うれしそうに言った。
ボクは頷いた。
「そうだよ。ミイちゃんも、ちょっとは手伝ってねっ」
「うん!ミイ、明日が楽しみっ」
ミイちゃんは言うと、帰り道を駆けだした。
ボクも後を追って、夕焼けの道を駆けだした。

明日は…きっと…
 
 

風呂から上がった時には、もう9時になっていた。
オレはまだリビングにいた秋子さんにお休みなさいと言って、階段を上がっていった。
わずかに軋む階段を、オレはゆっくりと登って…
階段を上がったところで、オレは思わず立ち止まった。
「………」
ほの暗い2階の廊下、階段を上がったすぐ前に、名雪が黙って立っていた。
いつもの猫柄の半纏の袖をしっかり握るようにして、階段を上がってきたオレの顔をじっと見上げていた。
「…どうした?」
「………」
オレが声をかけても、名雪は黙ってただオレの顔をじっと見つめていた。
名雪の様子が変なのは、今日、家に帰ってからずっとだった。
夕食のときも一言もしゃべらず、あんまり食べずにすぐに席を立って…秋子さんが心配しても、ただ黙って首を振るだけで、それからさっさとお風呂に入ったかと思うと、そのまま部屋に入ってしまって。
だから、きっと今日は疲れているのだろうと、秋子さんも言っていたのだが…
「…何もないなら、オレは自分の部屋に行きたいんだがな。」
「………」
「…じゃあ…」
「…祐一。」
横を通り過ぎようとしたオレに、初めて名雪は口を開いた。
オレの寝間着の裾を、右手で握った。
「…祐一?」
「…何だよ。」
「……明日…あゆちゃんとピクニックに行くの?」
名雪はオレを見上げていた。
薄暗い廊下の灯が、瞳がわずかに映っていた。
「…ああ。」
オレはとりあえず頷いた。
「でも…ミイちゃんと3人で行くだけだし…前にそう、ミイちゃんと約束したからさ。」
「…前って?」
「…水曜日。でも、名雪に映画誘われる前だったから、それで…」
「………」
名雪は黙ってオレを見た。
…自分でも、言えば言うほど言い訳にしかならないことは分かっていた。
だったら、どうしてあの時に、そう名雪に言わなかったんだ?別に名雪に言ったって、どうってことはないことなのに…

…どうってことない…のか?
オレは…
ただ、楽しく友達とピクニックに行く、そんなつもり…
…そんなつもりじゃないから、言わなかった…
言えなかった…
……名雪に。あゆの、こと…

…そうなのか?
だとしたら、やっぱりオレは…

「…そう、なんだ。」
名雪はつぶやくように言うと、目を下に落とした。
薄暗い明かりに、名雪の肩が少し震えるように…
「…それが祐一の結論なんだ。」
「…え?」
名雪は顔を上げた。
瞳が…濡れていた。
パジャマの裾を握っている名雪の腕に、ぎゅっと力が入るのを感じた。
「それが…結論なんだ。」
名雪はもう一度言った。
その目から、涙が一滴、見上げる名雪の頬を…
「…わたし…待ってたのに。約束どおり…待ってたのに。待ってたのに…なのに、祐一…あの子じゃなくて…わたしでもなくて…あゆちゃん、なんだ…」
頬を伝う涙は、一滴、また一滴…
「…名雪…」
オレの目の前、名雪は大きな瞳から大粒の涙を流して…

…涙。
ぽたぽた、音をたてて落ちる…

『祐一、そんなに、あの子のこと…』

白い雪…
雪をかぶった少女の顔に、涙が頬を伝って…

『でも、わたし…』
『…わたし…だから、もし…』
『もしも祐一が、あの子のこと…わたし…』

降り続く雪が、白く光って…
白い雪が
白い…

手の中の白い…
白い小さな
小さな…
 
 

白い雪
光って…
 
 

「…名雪?」
思わず見つめ直したオレから目をそらすと、名雪は無言でオレの横をすり抜けていった。
そのまま走るように、自分の部屋に入った。
オレは…

今のは…
多分、名雪。
だけど…いつのことだ?
泣いていた…どうして?
そして、そこにいたはずの、オレは一体…

オレのなくした記憶のかけら。
なくしてしまった7年前の冬の記憶…

オレは立ち尽くしていた。
なくしてしまった記憶の中で、オレは立ち尽くしていた。

<to be continued>

-----
…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…見てのとおり…全ては、収束していくよ。
「…悲劇に、ですか?」
…多分、そう。だけど…最後はハッピーエンド。それだけ…祈ろう。
「あなたが祈ってどうするのですか?」
…確かに。じゃあ…頑張ろう。それだけだよな、もう…オレのするべき事は。
「…監視、します。」
…頼んだよ。また暴走しないように…

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