Fall in Love, Falling, Fallen Angel

(夢の降り積もる街で-14)


あゆSS。

シリーズ:夢の降り積もる街で

では、どうぞ。

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Fall in Love, Falling, Fallen Angel (夢の降り積もる街で-14)
 

1月24日 日曜日
 

カチッ

手を伸ばして、目覚ましを切ると、ボクはふとんから起き上がった。
まだ鳴る前だけど…いつもよりはちょっと遅い時間。
でも、いつもの日曜なら、まだ寝てる時間…
8時。

本当は、もうちょっと前から起きてたんだけど。
でもなんとなく、起きようか、どうしようか、なんて…

…というか…
昨日の夜…本当は、よく眠れなかった。
もちろん、今日の準備のために、いろいろ忙しかったから…

…ううん、そうじゃない。
そんなの、いつものお弁当の準備で、ただ、一人分多いだけだもん…
…一人分。
祐一くんの…分…

…祐一くん
キミは…びっくりするかな?
ボクがキミに…『好きです』なんて言ったら…

…あはは。
びっくりするよね。
もちろん、びっくりするに決まってるよね。
『なに冗談言ってるんだ、あゆ』
なんて言って、ボクの頭、コツンって叩いて、きっと…

…でも、それから…
ボクが真面目だって、本気だって知ったら…
キミは…
…それから…

…やっぱり、言わない方が…
だって…
そしたら、今まで通り、祐一くんと…

でも
昨日、名雪さん…聞いちゃったはず…
だから、スプーン…
きっと、そうだよね。
名雪さんもきっと、祐一くんのこと…
だったら…

…もし、名雪さんと祐一くんが…
そしたら、ボクなんて…
祐一くんとボクの、関係なんて…
そうなったら、きっと…

…そんな形で、あきらめるのは…嫌だよ。
たとえ、そうだとしても…そうなっても…聞きたい。
祐一くんの…気持ち。
どうしてボクのこと、構ってくれるのか。
どうしてボクのこと、ボクの境遇のこと知っても、変わらないでいてくれるのか。
どうして…ボクに優しくしてくれるのか。
いつもボクのこと、からかって…でも、優しい目で…
それを…聞きたい。
それを…知りたいから。
もしも…

もしも、本当に、ひょっとして、もしも…
…もしも…祐一くんが、ボクのことを…
そしたら…

そしたら、ボク…もうちょっと…
もうちょっと、ボク…自分のこと…
 
 
 

「…えいっ!」

掛け声をかけて、ベッドから起き上がる。
そして窓のところへ行って、カーテンを引いて外を見た。
外は…快晴。
空には雲一つなかった。
朝の陽の光が、まぶしいくらい部屋の中に射し込んできた。
ボクはその光を浴びながら、大きく伸びをした。

考えるの…おしまいっ!
うじうじしないって…決心したんだよっ!
昨日、寝る時も、考えてて…
でも、決めたから。
だから…

本当はよく眠れなかったけど、なんだか気持ちがよかった。
今日、これからのこと、もちろん、不安だけど…
どきどき、するけど…
…でも

部屋を横切って、タンスを開ける。
いくら昨日のうちに準備してあっても、あんまりもたもたしてると、お弁当、作ってる時間がなくなっちゃうからね。
それに、もしも遅れたら…また、祐一くんに何言われるか。

…でも、考えてみたら、祐一くん…
ボクのお弁当、食べるだけなんだよね。
それで、文句言われたら…何か、ボクばっかり損だよね。
もちろん、お弁当の味には、文句言われない自信、あるけどさ…

そうだっ
ボクも祐一くんに、何かおごってもらおうかな。
お弁当の味だったら、絶対ボクの勝ちだもん。
こっちは苦労して食べさせてあげるんだから、それくらいはお返しがないとねっ
そう、例えば…パフェとか。

…あ、パフェは一回、おごってもらったっけ。
一日遅れの…誕生祝いに。
じゃあ、たい焼きを…

…そういえば、たい焼き、お返ししてくれるって話、まだなんだ。
それに、ボクが祐一くんに、肉まんをお返しする件も…
2週間とちょっと経つのに…タイミング、だけど。
何か、タイミング、合わなかったんだよね。
遅くなったり…たい焼き屋さん、休みだったり…

…そういえば、2週間あまりなんだね。
祐一くんとボクが出会ってから。
なのに…
なのにどうしてボク、こんなに祐一くん…キミのこと…
気になる…だけじゃなく…
……好きになっちゃったんだろ…

タンスの扉の裏の鏡、映っているボクの顔。
ちょっと寝起きで…あはは、目がちょっと腫れてるよ。
それに、頭…

ボクはタンスにしまっている、いつものリボンを…

…ううん。
それをもう一度しまって、タンスの奥からずっとしまっておいた箱を出す。
中には…前から買っておいた、リボン。
やっぱり、白い…だけど、いつものとはちょっと微妙に違う色で…よく見ると、花模様がところどころ、浮き出しているリボン。
何か、特別な時…そんな時がきたら、しようかと思って、見つけた時に買っておいたリボン。
だって…

おんなじ色、おんなじ柄…だから。
お母さんがくれた、事故で汚れちゃったけど、今もしまってあるリボンと…同じだから。
だから…

うん。
今日はこれ、していこう。

リボンを結んで、もう一度鏡を見る。
鏡の中の、白いリボンをした、ボク…
いつもとほとんど変わらない、ボク。
多分、祐一くんは気がつかない…ううん、きっと絶対に気がつかないと思う。
何か、そういうの…鈍そうだから、祐一くん。
だけど…

うん。
これで行こう。今日は。

ボクは頷いて、それからパジャマを着替えた。
いつもとおんなじような服。どうせ、そんな…可愛い服なんて、持ってないから。そんなの…買ってないから。だけど…
…それが、ボク、だし。
それに…今日は、このリボン…

ボクはもう一度、鏡を見ながらリボンを直すと、部屋のドアを開けた。

「…きゃっ」
「…わっ」

いきなり目の前に、ミイちゃんがいた。
「…びっくりしたぁ…」
「あ、ごめんね、ミイちゃん…」
ボクは思わず謝った。
「…でも、何でミイちゃん、ボクの部屋の前に?」
「…だって、お姉ちゃん、遅いんだもん!」
ミイちゃん、ぷっとふくれながらボクを見上げて
「早くしないと、遅れるよっ」
「あはは、大丈夫だよ。昨日のうちに準備、終ってるし。おばさんにももう、許可、もらってるから。あとは卵焼きとウインナーと…そんな簡単なのだけだから。作るのに一時間もかからないよっ」
「…ホント?大丈夫?」
ミイちゃんはボクの顔を見あげながら、ちょっと心配そうな顔で
「でも、遅れたりしたら…祐一お兄ちゃん、ちゃんと食べてくれないかも…」
「…はは〜ん?」
ボクはミイちゃんの顔を見て、ちょっと笑ってみせた。
「…それで祐一くんが、『不味い』とか言って…賭けに負けること、心配してるんだね?」
「ち、違うもん!」
ミイちゃん、あわてて首を振って
「ミ、ミイはただ…ただ、せっかくのお姉ちゃんとの、久しぶりに遊びに行くんだから、その…遅れたら、時間なくなっちゃうから、だから…」
「はいはい。そういうことにしていてあげるねっ」
「…うー」
ミイちゃん、うらめしそうにボクを見上げてる。
ボクは思わず笑いながら
「…さ、じゃあ、ミイちゃん、手伝ってよ。そしたら、もっと早く…もっとおいしくできるかもねっ」
「…うん!」
ミイちゃんは頷くと、廊下を駆けだした。
「さ、お姉ちゃん、早くっ」
「こらっ!廊下は走らないっ」
「だって…」
「……もう…」
ボクは思わず笑いながら、ミイちゃんの後を歩いて追いかけた。

よし、おいしいお弁当…作るぞっ!!
 
 

目が覚めたのは、多分、カーテンから漏れた光が顔に射していたせいだろう。
いつの間に寝たのか…覚えがない。
昨日、あの後…名雪が部屋に駆け込んだ後、オレはそのまま、廊下に立っていて…
その後、部屋に戻ったのは、確かに覚えている。
でも、いつの間にベッドに潜り込んだのか…覚えていない。
確か、オレは…窓にかすかに光る、雪を見て…

…白い雪…
舞って…
光って…

…降り積もる雪…

オレは首を振ると、ベッドから起き上がった。
昨日から、頭に浮かぶイメージ…
子供の頃の…名雪
白い雪…

思い出せない、記憶…
オレの記憶の…冬…

もう一度、オレは頭を振ると、服を着替えて部屋を出た。
窓から朝の光が射して、廊下は明るく、そして静かで…物音一つ聞こえない。
多分、階下には秋子さんがいるはずだが…リビングでくつろいでいるのだろうか。
オレは廊下を歩いて、階段へと…

…オレの足は、名雪の部屋の前で止まった。
いつの間にかオレは、名雪の部屋のドアを…そのドアプレートを見つめていた。
『なゆきの部屋』と書かれたドアプレート…
ドアの向こうからは、何の物音も聞こえなかった。
まだ眠っているのか、それとも…

…何してるんだろうな、オレ。
こんなところで…別に名雪に用があるわけでもないのに…
何を言うことも…ないのに。
今日は…
いや…今日、だから…

オレは振り返ると、階段を降りた。
そしてそのまま、リビングへと入っていった。
「…あ、祐一さん。」
リビングでは秋子さんがやはりくつろいでいたらしく、紅茶らしいカップを手にしたまま、オレの方に振り返った。
「おはようございます。」
「…おはようございます。」
「今朝は、早いんですね。」
「…もう、9時ですけど。」
「でも、いつもの休日は、もっと遅いですよね。そう…お昼ぐらいでしょう?」
「…確かに。」
オレは苦笑しながら、秋子さんの向かいのソファに腰を下ろした。
秋子さんは、手にしたカップから一口飲むと、天井をちらっと見て
「…名雪はやっぱり、まだ寝てましたか?」
「……多分。」
オレがちらっと顔を見ると、秋子さんはいつものように微笑みながらカップの中、ぼんやり見ていた。いつものように…
「…今日は日曜ですし、部活もないようですから…まあ、寝かせてあげてください、祐一さん。」
「…はい。」
オレは頷くと、ソファに座り直した。
「まあ、オレ…これから出かけますし。」
「…あら。」
秋子さんはオレを、ちょっと驚いたように見た。
「…今からですか?」
「もう少ししたら、ですけど。」
「じゃあ、すぐに朝食を…」
「あ、いや…いいですから。」
「え?」
「朝食は…あと、昼食も、いいです。」
寝起きのせいか、まだ食欲もないし…昼食は、あゆたちとお弁当だし。
オレはちょっと驚いた顔の秋子さんに頷いた。
「…どこか体でも…」
「あ、いや…そうじゃないです。」
思わずオレは笑って
「ちょっと…出かけますから。」
「あら、そうですか。」
「それで、お昼も食べてくるので…」
「…あらあら。」
言うと、秋子さんはオレの顔を見た。
ちょっと、オレの目をのぞき込むように…
「……?」
「………」
「…秋子さん?」
「…ひょっとして…」
秋子さんはオレの顔をじっと見ていた。
ちょっと首を傾げて…真剣な眼差しで…
「…祐一さん…」
「……はい?」
「……ひょっとして、あの…」
「……?」
「………」
秋子さんはふいにニッコリ笑った。
「…行ってらっしゃい。」
「…え?」
「…今日はよく晴れてますし…」
秋子さんはオレから窓の外に目をやった。
オレもつられて目を窓に向けた。
窓の外は雲一つなく、すっきり晴れていた。多分、昼まで…いや、多分夜までずっと晴れているだろう。そんな風に思わせる、素晴らしく晴れた空。
「…そうですね。」
オレは窓の外を見ながら頷いた。
そして秋子さんを見ると、秋子さんもオレを見て、いつものようにニッコリと笑った。
「…今日は出かけるには、本当にぴったりの日ですね。」
「…ええ、そう思います。」
オレは頷いて、また窓の外を見た。
晴れた空を…積もった雪が陽の光を浴びてまぶしく輝く庭をぼんやりと見た。
今日はきっと、ピクニックにふさわしい、一日になるな…そう思った。
ミイちゃんと…あゆと一緒にピクニック。
多分、オレは…

いい一日になると思った。
楽しい一日になると思った。
思っていた。
 
 

「…やっぱり、寒いな…」
まだ人通りの少ない道を歩きながら、オレは思わずため息をついた。
朝日はだいぶ高くなり、その陽の当たる日向は暖かかった。
でも、風はやっぱり…一月の風。
コートを着ていても、時折吹く強い風に、顔が少し強ばる感じがする。まあ、それもこれからだんだん暖かくなっていくのだろうが…
そんなことを思いながら、オレは抜けるように青い空から、前方に目をやった。
全ぽ、少し前に、駅へと国道を渡る歩道橋…そして、そのたもとの木で出来たベンチが見えた。
何度か、あゆと待ち合わせをした場所…
でも、今日の待ち合わせはそこではなく、駅前。
だから、ベンチには誰もいなかった。ただ、陽が暖かくさしているだけで…

何でもないベンチ。
何でもない…
なのに、いつもここに来ると、少し不思議な気持ちがする。
なんとなく…胸が締めつけられるような、そんな…

オレは思わず立ち止まりそうになって、あわてて歩道橋へと向かった。
別に、遅れてないはずだが、それほど余裕というわけでもない、そんな時間のはずだった。

結局、あれから秋子さんと他愛もない話をして、紅茶をご馳走になってから、オレは水瀬家を9時半頃に出た。
出がけに秋子さんが
『…楽しんできてください。』
なんて言いながら、少し微笑んで見えたのは…オレの思い過ごしだろうか。
ともあれ、それからぶらぶらと商店街を抜けたから…
時間はまだあるはずだ。あゆたちが時間を守る方なら、だが…

『…ボク、人を待たせたりしないよっ!』

…そういえば…あゆ、前に言ってたな。

『ホントだよっ!いつも約束には、早めに行って待ってるもん。相手を待たせるなんて、したことないもん!ボク、待たせるよりも自分が待った方がいいって…思ってるから。』

ちょっと顔を赤くして、真剣な顔で…

…まあ、信じないでもないが。
あゆは…ちょっと抜けてる奴だけど、人への気遣いは少し過剰なくらいだから…
待ち合わせに少し早く来すぎて、迷子の小犬が飼い主捜すみたいに、そのへんをうろうろ歩き回るあゆの姿が目に浮かぶような…
オレは思わず顔をほころばせながら、歩道橋の階段を登って角を曲がった。

ビュオゥ

「…おっと」
ふいに強い風に、オレは雪の上、足を滑らせそうになって、あわてて手すりに掴まった。
時々、冬の冷たい、強い風が吹いていた。特に高い場所では、遮る物もないせいか、強く…そして冷たく感じる。
オレはコートの前をしっかりと合わせると、思わず身を震わせた。
やっぱり、こんな冬に…ピクニックなんて、やめとけばよかった。
こんな時にピクニックをやる奴は、よっぽどの元気な…バカか、それとも暇でしょうがない奴…

「お兄ちゃん、遅いぞっ!!」

下から聞こえる、元気な声。
歩道橋の手すりから、オレは駅の方を見下ろした。
「早く、早くっ!」
…その、元気なバカ…いや、少女がオレに手を振っていた。背中に小さな羽を背負って、飛び跳ねながら手を振っていた。
少女、ミイちゃんは…実に元気だった。
そして、その横に、そこまではしないものの、そんなミイちゃんを止めるでもない、お姉ちゃん…あゆ。
手にしている大きな荷物は…多分、お弁当だろう。
…まあ、あの二人が元気なバカ…で、オレはもう一方の、よっぽど暇でしょうがない奴ってわけだ。
オレはちょっと苦笑しながら、歩道橋を降りて、二人へと歩いていった。
「…よう、お二人さん。」
「…お兄ちゃん、遅いっ」
ミイちゃんは腰に手をあてて、仁王立ち…のつもりらしい。
その赤く染まった頬を膨らませながら言った。
「…まだ時間じゃないだろ、ミイちゃん。」
オレはそんなミイちゃんに笑いかけながら、駅前の広場の時計を見あげて
「ほら、まだ10分ある。」
「でも…」
ミイちゃんは、オレの顔をまだちょっとふくれっ面で見上げた。
「女の子との待ち合わせは、少し早めに来るのが常識っ」
「……おいおい。」
オレはミイちゃんの顔を見ながら、思わず笑ってしまった。
「ミイちゃん、そんなの誰に聞いたんだ?」
「お姉ちゃんたちが、いつも言ってるよっ」
「…お姉ちゃんたちが?」
オレは思わず、あゆの顔を見た。
あゆはオレの顔を、ちょっとぼんやり見つめていた。
少し、まぶしそうに目を細めながら…
「…そんなこと、ミイちゃんに教えてるのか、あゆ?」
「………え?」
オレの声に、ちょっとあわてたようにあゆはオレの顔を見返した。
「…な、何?」
「……聞いてなかったのか、あゆ?」
「…あははは。」
あゆはごまかすように笑うと、ちょっと苦笑いを浮かべて
「…うん。ちょっと…聞いてなかったよ。」
「……いいけどな。」
「よくないっ!」
ミイちゃんは大きな声を上げると、今度はあゆを見上げて
「お姉ちゃんも、言ってたよね?男の子は、女の子を待たせちゃいけないからって。」
「…ミイちゃん。」
あゆはちょっとミイちゃんの顔を見下ろすと、少し笑いながら
「それ、ボクが言ったんじゃないよ。他のお姉ちゃんでしょ?」
「え?そうだっけ?」
「そうだよ。ボクがいつも言ってるのは、相手が誰でも、人を待たせちゃいけないってことだよ。男の子はなんて…そんなこと、言ってないでしょ?」
「…あ、そうか。それは…うん、あゆお姉ちゃんじゃなかった。」
ミイちゃんは言うと、ぺろっと舌を出してみせた。
あゆはそんなミイちゃんに頷くと、にっこり微笑んだ。
…しかし、いつ見てもこの二人、本当の姉妹って感じだな。本当に、雰囲気もよく似てるから…
「…そういえば、前にそんなこと、オレにも言ったよな、あゆ。」
「…え?」
あゆはちょっとびっくりしたようにオレを見た。
オレはあゆに頷くと
「でも…自分が出来ないこと、人に教えるなよ、あゆ。」
「……どういう意味?」
ちょっと不審そうに、首を傾げたあゆ。
オレはにやりと笑って
「今日はミイちゃんと一緒だから、ちゃんと時間通りにきたけど…いつもはそうじゃないくせに。」
「…そんなこと、ないよ。」
「でも、バイトにはよく遅れるみたいだが?」
「…うぐぅ」
あゆはちょっと口ごもると、でも、きっとオレを睨むように見て
「で、でも、普通は…人と約束した時は、絶対遅れないよっ」
「またまた。ミイちゃんの前だからって…格好つけるな、あゆ」
「違うっ」
「…そうなの、お姉ちゃん。」
「うぐぅ…ミイちゃん…」
ミイちゃんまで、あゆのことをじっと見上げていた。
あゆはそんなミイちゃんと、そしてオレの顔を身ながら、大きくため息をついた。
「…そんなこと言うなら、お弁当持って…帰るからね。」
「あ、お姉ちゃん、うそうそっ」
少し大きなバッグを手に、振り返ったあゆのその腕に、ミイちゃんが抱きついて
「あ、あたしは信じるからっ」
「…ミイちゃん…」
腕のミイちゃんを見下ろすあゆ。
オレは思わず笑いながら
「…まあ、オレも信じるぞ…今日のところはな。」
「…なんなの、その…今日のところはって。」
振り返ったあゆに、オレはまた笑いながら
「信じはするけど…今日はミイちゃんと一緒にいるからという疑いがないでもないからな。一人では、どうか…また今度、約束したときに見れば分かるだろうから、その時まで…」
「…え?」
あゆはオレの顔をまじまじと見た。
その大きな瞳が、まだ低い太陽に、少し揺れて…
「…また今度?」
「……え?あ、いや…」
オレはあゆのその瞳に、ちょっとどきっとして、思わず口ごもった。

また…今度…
二人で待ち合わせることが、ある…のか?
オレは…
思わず、あゆの瞳を、じっと見つめて…

「…あはは」
あゆはいきなり目をそらすと、ミイちゃんを見下ろした。
「も、もう揃ったことだし…そろそろ、行こうかっ」
「…うん!」
ミイちゃんは、にっこり笑った。
「じゃあ、ピクニックに出発!ほら、お兄ちゃんもっ」
「…へえへえ。」
オレの手に抱きつくように引っ張るミイちゃんに、オレは思わず苦笑しながら答えると、一緒に歩きだして…
「…あれ?」
オレは振り返って、あゆを見た。
「…おい、どこ行くんだ?」
「…あ、そうだった。」
あゆは大きな目をぱちぱちさせた。
そして、手袋の手をポンっと合わせると、笑いながら
「うん、じゃあ…行こうっ!」
「…だから、どこへだよ。」
「ついてくれば分かるよっ!さ、ミイちゃん、行こう!」
「うん!」
ミイちゃんは歩きだしたあゆの腕に掴まると、一緒に歩きだした。
「…おい、あゆ…」
オレはあわてて後を追った。
「…なあ、そこ…遠いのか?」
「ううん。すぐそこだよ。」
追いついて聞いたオレに、にっこり笑うあゆ。
左手はミイちゃんを引っ張り…というか、引っ張られているのか?
右手は…お弁当らしい、ちょっと大きな鞄をしっかり持って。
3人分のお弁当…
「…あゆ…持とうか?」
「…え?」
オレが言うと、あゆは意味が分からないという顔でオレを見上げた。
「…その、鞄さ。オレ、手ぶらだし…持つぞ。」
「………」
あゆは少し黙ってオレの顔を見て…
でも、にっこり微笑んだ。
「いいよっ!」
「…でもな…」
「大丈夫っ!すぐそこだからっ」
「…そうか?」
「…うん。だから…」
あゆは頷くと、またにっこり笑った。
「ありがと、祐一くん。」
オレはそんなあゆの顔を、思わず見返した。
「…まあ、ならいいけど。オレは…あゆのことだから、落としたりしたら、困ると思っただけだから。」
「あはは…大丈夫。」
あゆは笑うと、またミイちゃんの手を引いて前を向いた。
「すぐそこだよっ」
「うん!」
ミイちゃんがにこにこしながら、頷いた。
オレはそんな二人の後ろ、思わず苦笑しながら歩いていった。
 

「…さ、着いたよ。」
「……なるほど、すぐ近くだな。」
オレは振り返ったあゆに頷いた。
確かに…駅からすぐ近く、ほんの5分も歩いたところに、今日のピクニックの行く先はあった。
でも、こんなところがこんな近くにあるなんて、オレは知らなかった。
…まあ、この街のことは、オレはほとんど知らないわけだが。
見たこともない静かな、雪の積もった大きな木の並木道をしばらく抜けた先、そこは雪を実らせた木々に囲まれた、大きな公園だった。
「ここはね、結構、穴場なんだよ。街中なのに静かで…いつも人、少なくて。」
「なるほど…」
オレはぐるりと公園を見回した。
結構、広い公園だった。
まだ朝方だからか…それとも、こんな冬には、やっぱり公園で遊ぼうって子供も少ないのだろうか?公園には見たところ、他に人は見えなかった。
雪は道の部分はひととおり空かしてあるが、他の場所…例えば、子供の遊び場らしい変な木のような形のすべり台や鉄棒、ブランコのたぐいは雪に埋もれていた。
でも、中央に見える噴水は…冷たい風の中、しきりに水を上げていた。その周りに、ベンチがいくつか…
「…まあ、ピクニックには持ってこいかもしれないな。」
「うん。」
「…冬じゃなきゃな。」
「…うぐぅ」
あゆは詰まると、苦笑しながら
「…でも、まあ…いいところでしょ?」
「…それは、認めるよ。」
オレはあゆに笑いかけた。
「で、これからどうするんだ?」
「…う〜ん…そうだね…」
あゆは言いながら、正面の噴水のところを指差すと、
「あのベンチあたりが、お弁当にはいいと思うんだけど。」
「まあ、それは…他に雪のないところ、ないしな。オレは、雪の上で食べるのはごめんだぞ。」
「ボクも、だけど…でも、まだ…お弁当には早いよね?」
「…多分…ちょっと待てよ…」
さっき見回した時に見つけた時計らしき物を、オレはじっと見た…
「…今、10時10分だ。」
「…ホントだね。」
あゆもその時計にじっと目をこらしながら
「ボクのバイト…1時からだから。ここから百花屋までは、急げば15分くらいだから…12時ちょっと前にご飯にすればいいよね?」
「そうだな。」
オレも一応、まだお腹も空いてないし…
「でも、じゃあ、それまで何して時間、潰すんだ?」
「うーん…」
あゆは首をかしげると、ふと、あたりを見回した。
「…あれ?ミイちゃんは?」
「…うん?」
そういえば、公園を見つけた途端に駆け出したミイちゃん…そのまま、公園に入っていったはずだが、姿が…

バコッ
バコッ

「…あはははは、二人とも、鈍いっ」

背中に何かの当たった感触。
オレは振り返った。
あゆも、多分同じ理由で振り返って…
「…ミイちゃんっ」
「えへへ。」
あゆの怒ったような声にも、ミイちゃんは笑ってオレたちを見ていた。
足下には…いつの間に作ったのか、雪玉がいくつも置いてあった。
「さ、雪合戦しよっ!」
「………」
「………」
「お兄ちゃん、男だから…一人対、ミイとお姉ちゃんにする?それとも、3人で投げっ子にする?」
睨んでいるオレたちにも、動じずにっこり笑うミイちゃん。
あゆはため息を一つつくと、ミイちゃんの方に歩きだして
「ミイちゃん、それは…」
「よし、受けたっ!」
「やったぁ!」
手を叩くミイちゃん。
「…えっ?」
「ほらっ」
オレはあゆの手を取って引き戻しながら
「あゆ、お前はとりあえず、そのお弁当をあの噴水のところのベンチにでも置いてこい。どうせ人もいないし、誰も取りゃしないから。」
「ゆ、祐一くん?」
「戻るまでは、中立にしておいてやる。それ以降は…みんな、敵だっ!三つ巴で、行くぞっ!」
「うんっ!」
にっこり笑うと、ミイちゃんはしゃがんで雪玉を拾おうとする。
「待つんだっ!一応、ルール、言っておくぞ。」
「…ルール?」
あゆとミイちゃんが、オレを見つめた。
オレは二人を交互に見て、そして笑ってみせて
「…ルールは簡単、雪玉に石や何か、雪以外の物を入れない事。そして…」
「…そして?」
「…時間は飽きるまで…でも、長くてもあそこにある時計で、12時まで。12時になったら、即座にやめること。そして…」
「お弁当っ」
ミイちゃんが、にっこり笑いながら大きな声で言った。
オレはにやっと笑って
「その通り。よし…初めっ!」
「ゆ、祐一くんっ!ボク、まだ…」
「早く行け、あゆっ!さもないと…お弁当持ってても、標的にするぞっ!」
「…うぐぅ!」
あゆはあわてて噴水へと走っていった。
オレはそんなあゆの後ろ姿を見ながら、しゃがんで雪玉を作ると、振り返って
「…さ、とりあえず…一対一だっ!」
「望むところだよ、お兄ちゃんっ!」
既に雪玉を握ったミイちゃんが、笑いながらオレにその雪玉を構えて
「泣いても知らないよっ」
「それはこっちのセリフだっ!高校生を…ナメるなよ!」
「だったらこっちは…小学生をナメないでよっ!えいっ」
「なんのっ」

次第に高くなる陽の光を浴びて、雪玉たちが白く輝きながら宙を飛んだ。
 
 

「…ごちそうさまっ」
最後にそう言ったのは、ミイちゃんだった。
オレとあゆはもうあらかたお弁当を食べ終わり、お茶を飲んでいたところ。
昼の陽射しは思ったよりも強く、時折吹く風さえなければ、案外暖かく感じるくらいだった。
オレはお茶の入ったコップを持ちながら、ベンチの背にもたれて周りの雪景色を、ぼんやりと眺めていた。
あゆも同じように、前の噴水をぼんやり見ていたところ。
「…はいはい、ごちそうさま。」
オレはとりあえず言いながら、周りの景色からミイちゃんの方を向いて…
「…ぶっ」
…そして、思わず吹き出した。
「…な、なに、お兄ちゃんっ」
ミイちゃんは、ちょっと怒ったような顔でオレを見た。
でも、それがまた…オレの笑いを誘ってしまう。なんたって…ミイちゃんはご飯粒を顔に幾つもつけていたからだ。
「…ミイちゃん…」
同じく、振り向いたあゆはため息をつくと、ちょっとあきれたようにミイちゃんの顔を指差した。
「…お弁当、いっぱい付いてるよ。」
「え?ホント?」
ミイちゃんはあわてて顔を触ると、
「…えへへ。」
笑いながらご飯粒を取り始めた。
「…もう、ミイちゃんたら…」
あゆはちょっと苦笑しながら、ミイちゃんの顔のご飯粒を、一緒にとっては自分の口に入れた。
オレはちょっと笑いながら、そんな二人を眺めていた。
しかし、さっきから見ていて思うのだが、ミイちゃんとあゆって…本当の姉妹と言っても不思議じゃないくらいなのだ。
お弁当の最中も、ミイちゃんのおかずをあゆは取ってやるし、おにぎりもちゃんとミイちゃんの分として小さなおにぎりを作っているし…ミイちゃんの嫌いなニンジンを、コロッケの中にペースト状に忍ばせていたことも、ミイちゃんには内緒だけど…
…ホント、よくやるよ。実の姉でも、ここまでやらないかもしれない。
オレはそんなことを思いながら、昼の太陽の下、ミイちゃんとあゆの顔をぼーっと見て…
「ところで、お兄ちゃん!」
と、お弁当を取り終ったミイちゃんが、ちょっと顔を赤らめてオレの方を見た。
「…ん?」
あわててオレが顔を見ると、ミイちゃんはちょっとにっこり笑って
「…さ、お兄ちゃん。そろそろ、聞かせてもらうよっ」
「…なにを?」
オレがとぼけてみせると、ミイちゃんは眉をひそめて
「うー…お兄ちゃん、忘れちゃったの?」
「…だから、何をだ?」
「うー」
「…祐一くん、ミイちゃんいじめちゃ、ダメだよ。」
その時、あゆが笑いながらミイちゃんに加勢して
「賭けのこと、だよね、ミイちゃん?」
「うん!」
「…賭け?賭け事は、法律で禁止されてるぞ。」
「…だから?」
いつになく余裕の表情のあゆ。
「だから…」
「…それで?」
「……えっと…」
「…今さら『不味い』なんて言わないよねぇ…祐一くん?」
あゆがオレの顔を見て、にっこりと笑う。
「そうそう。これだけ、すっきり食べちゃってから、まさかね〜」
ミイちゃんが同じくにっこりと笑いながら、オレを見あげた。
オレは…
…頷くしか、選択肢はなかった。悔しいが…あゆの料理はうまかった。3人分、それもミイちゃんには別枠のおにぎりとおかずまで作ってきたのに…
「…卵焼きは、ちょっと焼きすぎだった。」
「うぐぅ…」
「…それに、クリームコロッケは、冷凍物だ。」
「そんなの、しょうがないよっ!ね、お姉ちゃん?」
「そうだよ…さすがにそこまでは、手が回らないよ。」
「そうかな…秋子さんだったら、きっと手作りだぞ。」
「…そうなの?」
あゆはちょっとびっくりしてオレの顔を見た。
オレは思いっきり頷いてみせた。
「あの家…今まで2週間あまり、なんであれ、インスタントや冷凍物のたぐいが出たためしがないぞ。なんたって…ラーメンまで、それもその上のなるとまでが手作りだったんだからな。」
「うわ〜…すごいね、それは。」
あゆはマジで感心して頷いていた。
…確かに、秋子さんはすごい。それは本当だが…
「…で、言うことはそれだけなの?」
せっかくあゆがごまかせそうだったのに、もう一人の伏兵が
…いや、こっちが賭けの相手だから忘れるはずがない、ミイちゃんがオレの方をじっと見つめていた。
「…そうだよ。で?」
あゆまで思い出したようにオレを見た。
オレは…
「………うまかった。」
「なに?小さくて聞こえないよ?」
意地悪そうに言うミイちゃん。
オレは…もう一度、今度は大きな声で
「…うまかった!」
「……だよね〜〜」
「…うんうん。」
ミイちゃんとあゆは大きく頷くと、顔を見合わせた。
そして二人でうなずきあうと、にっこり笑った。
「…やったね、お姉ちゃん。」
「実力、実力。」
「……けっ」
オレは思わず、苦笑いをして…
そのまま、ベンチに寄りかかると、空を見上げた。
本当のところ、別に気分は悪くなかった。多分、これで本当に不味かったら、その方がもっと気分が悪かっただろう。いや、というよりも、あゆが料理の腕がうまくて、ちょっとうれしかった気さえする。

…なんでだろう。あゆがいつも卑下しすぎるのが、気になっていたからかな…
でも、あゆは…確かにおっちょこちょいではあるけど、結構いろいろ気もつくし…ウエイトレスもなかなか様になるし、結構可愛い…

…何考えてるんだ、オレ?
いつの間にか、あゆのいいところを上げ始めている自分に気付いて、オレは苦笑した。

…いや、苦笑ばかりしているのは…
なぜかいつも、ここでオレの思いは停止する。
それ以上、あゆに対する自分の思いを、はっきりさせるのを拒んでいる…
…拒んでいる?どうしてだ?
オレは…

「…お兄ちゃん、約束だからねっ」
…気がつくと、ミイちゃんがオレの前に立って、オレにピッと指を突きつけていた。
「…ああ、分かったよ。」
オレは目をミイちゃんに落とすと、ミイちゃんの得意満面な顔に思わず笑いながら
「今度、パフェをおごるよ。何がいい?」
「うんと…チョコパフェっ!」
「OK」
「やった〜〜〜」
ミイちゃんは飛び上がって喜ぶと、オレの前から駆け出した。
「ミイちゃん、どこ行くのっ」
その背中に、あゆがあわてて声をかけると、ミイちゃんは振り返って
「…もうちょっと、遊んでくる!」
「ミイちゃんっ!」
「すぐ、戻るからっ!」
ミイちゃんはそういうと、雪の中をうれしそうに駆けていった。
「…もう…」
あゆはちょっとため息をつきながら、ちらっと時計を見あげた。
オレも見ると…時間は12時半過ぎ。
「タイムリミット…12時45分だったな?」
「うん…それまでに、片付けないとね。」
あゆは小さく頷くと、ベンチの上に広げたお弁当の容器を仕舞い始めた。
オレもとりあえず、目の前の容器を取ると
「…オレも手伝うよ。」
「え?でも…」
「二人でやった方が、まあ、少しは早いだろ。さっさと片づけて…」
「…もう一回、雪合戦、やる?」
言うと、あゆはにっこりと笑った。
「…やめとく。」
オレは思わず苦笑しながら、あゆに容器を渡した。
久々の雪合戦…さすがに子供相手は、疲れた。なんたって、相手は本当に、疲れを知らないって感じで…それも、結局はオレ対ミイちゃんとあゆって感じになるし…
結局、気がついたら12時を回りかけていて。あわててやめて、弁当を広げたので…食べ終ったら、こんな時間になっていた。
しかし…雪でコートの中も、少しじっとりする…
「…もう、二度と雪合戦なんて、やるもんか。」
「あはは。」
あゆは笑いながら、お弁当の空容器を鞄に詰め込むと、鞄の口を閉めて立ち上がった。
「…まあ、ミイちゃん、元気だからね…」
「そういえば、あゆ…前に雪合戦してバイト、遅れそうになったこと、あったよな。あれ…相手、ミイちゃん?」
「うん…って…よくそんなの覚えてるね?」
あゆはちょっと驚いた顔でオレを見た。
「もう、1…ううん、2週間くらい前なのに。」
「…そうだっけ?」
「うん。確か、あれは…前の前の日曜日、だったはず…」
「………」
オレは思わず目を落として…
…そう、あれは2週間前の日曜日…片づけが終らないまま、百花屋に遊びに行って…
オレはあゆの顔を見あげて、にやっと笑ってみせた。
「…『二度と来るなっ!』って言われた日だからな。」
「…うぐぅ」
あゆはいつものように口ごもったけれど、すぐにちょっと微笑みながら目をあたりにやった。
「…祐一くんと会って、すぐのこと…だよね。」
「…そうだな。」
オレは頷いて、あゆの見ている方を見た。
あゆの目線の先は…噴水の先、ミイちゃんの遊んでいる遊具の方だった。
ミイちゃんは一人、雪に埋もれたブランコのところで、ブランコを掘り出そうとしているようだった。
「…元気だな、ミイちゃん。」
オレは思わず苦笑した。
「…うん。」
あゆは頷くと、ミイちゃんを見つめていた。ぼんやりと…でも、優しい表情で…
オレは立ち上がると、あゆの横に立って、顔をのぞきこんだ。
「…お前と…ミイちゃんって、まるで本当の姉妹みたいだよな。オレ、いつも見てて思うんだけど。」
「…そう?」
あゆはオレの方に向くと、オレを見上げてちょっと微笑んだ。
「…だとうれしいな。ボク…」
「…ホントだぞ。ミイちゃんも、あゆが一番好きだって、園で一番好きなお姉ちゃんだって言ってたからな。」
「そう…」
あゆはくすっと笑うと、また噴水の方を見て
「…多分、ボクが一番最初に、ミイちゃんと…仲良しになったから。」
「…そうなのか?」
「うん…」
あゆは頷くと、噴水の噴き上げる水を見上げた。
噴水は、ふいに大きく水を上げると、細かな水滴となってきらきら輝いた。
あゆはそんな水滴に、目を細めながら
「…ミイちゃん、園に来た時…ずっと泣いてたんだよ。」
「………」
「今はあんな元気なミイちゃんだけど、園に初めて来た時は、もっと小さくて…まだ小学生になる前だった。ずっと泣いてて…その頃、ちょうど園の子が少なくなった頃で、ミイちゃんより大きな子、ボクと…他に2人くらい、男の子しかいなくって。だから、ボク、ミイちゃんに近寄って、話し掛けたんだよ…『キミ、お名前は?』って。『ボク、あゆって言うんだけど…仲良くしてねっ』って。
最初、やっぱり泣いてばっかりで、なんにも言わなくて…だから、もうちょっと落ち着いたら…って、離れようとしたら…服、持ってたんだよ、ミイちゃん。それで、ボクのこと、じっと見上げてた。そして、しゃくりあげながら、言ったんだ。『お姉ちゃん』って。
ボク、しゃがんで、ミイちゃんの顔を見て、『うん、なあに?』って言ったんだ。そしたら、ミイちゃん…ボクの顔、じっと見て…言ったんだ。『お姉ちゃんは…ミイのこと、好き?』って。」
「………」
オレは何も言えずに、あゆの顔を見つめた。
あゆは噴水の水を見つめながら、思い出すように目を細めて
「…だから、ボク、言ったんだ。『もちろん。ボク…ミイちゃんのこと、好きだよ』って。そしたら、ミイちゃん、ボクの顔じっと見て…いきなり抱きついて、泣いちゃったんだ。
でも、それからずっとボクのあと、いっつもついてくるようになって。『お姉ちゃん』って言って、一緒に遊ぶようになって…
後で聞いたら、ボクがミイちゃんの名前、聞いてないのに知ってたって、それで好きだって言ってもらえたからうれしかったって…言ってたけど。でも、ミイちゃん、自分で『ミイのこと、好き?』って聞いたから、だからボクも言っただけ、だったんだけどね。あはは。」
あゆは笑いながら、オレの方を向いた。
そして、ちょっと首をかしげると
「…でも、ミイちゃん…ボクと似てるから、だから放っとけなかったんだよね…ミイちゃんも、早くにお父さん亡くして…お母さんも亡くなって、だから園に来て…ミイちゃんの場合は、お母さんは病気だったんだけど。
それに、ボクが退院して、園に来た時、泣きたい時は…年長のお姉さんがボクをいっつも励ましたり、慰めてくれたりしてたから。だから…ボクもしなくっちゃって思って…」
オレは黙ってあゆの顔を見つめていた。
あゆの揺れる大きな瞳が、冬の陽射しに揺れるのを黙って見ていた。
「…あはは。何か…変な話、しちゃったね。」
あゆは笑うと、首を振ってみせた。
「ごめんね…つまらない話で。」
「…いや、そんなことは…ないよ。」
オレはやっと声を吐き出すと、あゆの瞳を覗きこんだ。
あゆの大きな瞳。
陽の光に少し赤っぽく光る、大きな瞳の奥…
「………」
あゆは口を閉じると、オレを見上げていた。
いつものダッフルコートが、雪合戦で付いた雪のかけらが融けてきらきらと細かく光っていた。l
肩までの髪がわずかに乱れて、顔に一筋かかっていた。
そして、白いリボンが…
「…あゆ、そのリボン…」
「…え?」
「…いつものリボンじゃない…んじゃないか?何か…模様が…」
いつもの真っ白なリボンではなく、あゆのリボンには何か薄い色の柄が入っていた。よく見ると、花の柄…
「…よく分かったね…」
あゆは大きな目をもっと見開いて、オレの顔を見上げた。
オレはそんなあゆのリボンに手をやった。
白いリボンに…そして、さらさらとした、黒い髪…
「…あっ…」
あゆの口からかすかに声が漏れた。
オレの手が、あゆの頭の手術の傷に触れたようだった。
オレは黙ったまま、あゆの顔を見つめながら、手を肩に落とした。
小さな肩。思った以上に薄い、その肩を、オレは…
「…あゆ…」
オレの口から、かすれた声が漏れた。
オレの手はあゆの肩をそっと掴むと、オレに引き寄せていた。
近づいてくるあゆの顔を、オレはじっと見つめていた。
ずっとオレの気持ちを押し止めていたものが、今は消えている…そんな感じだった。
そして、その奥のオレの気持ちは…
「…キスしても、いいか?」
「……えっ」
あゆはオレを見つめながら、目を瞬かせた。
間近に見えるその顔に、血がのぼってどんどん赤くなっていくのが分かった。
でも…
「………」
あゆは黙ったままで、オレを見つめていた。
オレが顔を近づけていっても、逃げようとはしなかった。
ただ、唇が触れる瞬間、あゆのその印象的な大きな目は、ゆっくりと閉じて…
 

唇が触れた瞬間
オレはあゆを抱きしめた。
あゆの小柄な体を抱きしめた。

その暖かさに
オレは
確信した。
 
 
 
 

オレはあゆが好きだ。
誰でもない、あゆを。
この小柄な、自分のことをボクなんて言う少女のことを
オレは…好きなんだ。
 
 
 
 

オレが唇を話すと、あゆは目を開けた。
その大きな瞳で、オレを見つめた。
「…祐一くん…」
あゆのかすれた声が
「…ボク…」
「…あゆ、オレは…」

「お兄ちゃ〜〜〜ん、お姉ちゃ〜〜〜〜ん」

「……!」
「……!」
ミイちゃんの声に、オレたちはあわてて離れた。
そして、声のした方を見ると…
「ほら、ここだよ〜〜〜」
ミイちゃんは少し離れた変な木の形をしたすべり台の上から、オレたちを見て手を振っていた。
「お姉ちゃんたち、そこで何してたの〜〜〜」
「…ミイちゃんっ!」
あゆはちょっと顔を赤らめると、ミイちゃんに叱るように言った。
でも、ミイちゃんは笑ったままで
「…えへへ。ねえねえ、ほら、見ててねっ!」
そのまま、今度は緑色の手すりに足を掛けた。
「ほらっ!」
「ミイちゃんっ!危ないよっ!」
あゆが叫んだが、ミイちゃんは気にもしない風で
「大丈夫っ、ミイ、平気だよっ!」
言いながら、手すりに登ってしまった。
そして、オレたちに手を振ると
「ほら、ここ、遠くまでよく見えるよっ!」
「…ミイちゃんっ!」
あゆの声が、叫びに変わった。
振り向くと、あゆの顔が真っ青だった。
「降りてってばっ!危ないからっ!」
「あゆお姉ちゃん、ホント、高いところ、ダメなんだね〜」
「そんなこと…ともかく、降りてっ!」
あゆはもう、見ていられないほどガタガタ震えていた。
オレも高所恐怖症ではあるが…あそこなら、下は雪だし、そんな大けがはしないと思うが…
「…あゆ、オレ…止めてくる。」
オレはあゆに頷くと、ミイちゃんのいるすべり台に駆けだした。
そして、ミイちゃんに声をかけて
「ミイちゃん、ともかく、降りて…」
「大丈夫、大丈夫だってば…」

ビュオゥ

「…あっ」

ミイちゃんの髪が、ふいになびいた。
風が、吹いた。
ミイちゃんの体が、ぐらっと揺れた。
その小さな体が、緑色の手すりから…

「…ミイちゃん!」

あゆの叫びが背中から響いた。

「…祐一くん!!」
 
 
 

『祐一くん、手…』

目の前に伸ばされた手が

『危ないっ』

『あっ』

手が

腕が

体が
 
 
 

『あゆっ!!』
 
 
 
 

小さな体が、青い空から

落ちて
 
 
 

「ミイちゃん!」

聞きなれた声
叫んで
 
 
 
 
 

『祐一くん!!』

落ちていく少女の叫び
オレの伸ばした手の
その
先を
 
 
 

落ちて
 
 
 
 
 

ドサッ
 

落ちる音
小さな少女
それは…
 
 
 
 

『ゴトッ』
 

物が落ちるような
鈍い音と共に

転がった
小さな体

白い雪
白い
 
 

リボン
 
 
 
 
 

「もう、ミイちゃんっ」
「…えへへ、落ちちゃった…」
「落ちちゃったじゃないよっ!もう…体、大丈夫?怪我、ない?」
「…大丈夫みたい。足もほら、ピンピンしてるよっ!」
「ピンピンしてるよ、じゃないよっ!もう…二度としたら、ダメだよっ!」
「うー…でも…」
「『でも』じゃないよっ!怪我したらどうするの?ボク…心配したんだからねっ!ほんとに…死ぬほど心配したんだからねっ!」
「…ごめんなさい、あゆお姉ちゃん…」
「……うん。分かってくれれば…」
「……うん。」
 
 
 
 
 

白い

赤い


 
 

染まっていく
雪が
赤く
紅く
 
 
 
 
 
 

「…じゃあ、もうお姉ちゃん、行かないと…」
「…そうだね…」
「…祐一くん、じゃあ…」
「…お兄ちゃん…」
 
 
 
 
 

抱き上げた
少女

手が
紅く
赤く
染まって

染まって
 
 
 
 

「…祐一くん…?」
「…どうしたの…」
 
 
 
 

歪んで
目の前が

 
 

抱き上げて

見上げると
大きな大きな
てっぺんも見えないほどの
大きな
 

木が
 
 
 
 

「…祐一くん?どうした…の?」
 
 
 

振り返ると
そこにいたのは

あの日の少女

あの冬の日の少女

あの時、オレの目の前で
落ちていった…
 
 
 
 

「…祐一くん?」
 
 
 
 

なくした記憶

オレのなくした7年前の記憶
 
 

なくしたんじゃない

オレは…
 
 
 
 

「じゃあ、ボク達、行くから…」
 
 
 
 

あゆ…オレは…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

オレはいつの間にか駆けていた。
駆けていた。
いつもの道。
いつもオレが駆けた道。
あの日も…
あの冬の日々の最後の日も。
行く先は…

オレの目の前に広がっていた。
冬でも鬱蒼として、日の光を遮る森。
枯れた草むら。
降り積もった雪をかき分けて、オレは進んだ。
そう、あの日々もそうだったように。
あの日もそうだったように…

降り積もった雪は、子供には大変だった。
だけど、オレは…けもの道を駆け上がった。
そう、子供だから行ける道。

オレはかき分けていった。
木々の間を抜けて
暗い森を抜けて

暗い森は無気味だった。
一人で夕暮れには、男のオレも恐かった。
だけど、いつも隣に…
隣でオレの手をしっかり握って…

『だ、大丈夫だって』
『…ほんとにほんと?』
『ああ、ほんとにほんとだ』
『………』

オレの顔を見て、頷いたあゆ。
本当は恐かっただろうに。
でも、頷いてくれたあゆ。
 

あの冬の日々、オレはお前と出会った。
オレはお前と遊んでいた。
ずっと遊んでいた。
…オレが帰る前の日も
約束して
 

『…まだ、大丈夫だよな。』

けもの道を踏みしめて、森を抜けていく…
ポケットの中の物、落ちないか気にしながら…

『あゆ…よろこぶかな。』

ポケットの中身は…あゆへのプレゼントだった。
あゆが欲しいと言った…あれは…
そう、人形だ。
小さな人形…どんな?
確か…

…思い出せない。
でも…
オレはそれをポケットに、森を抜けていった。
きっとあゆがよろこんでくれる、そう思って…

暗い木々の向こう、視界がふいに開ける。
そこには、目印の…
 

オレは立ち尽くした。
そこにあったのは…大きな切り株。
古い…切り株だった。
大きな、大きな…
 

見上げてもてっぺんも見えない大きな木。
ここには…あった。
オレが見上げていた

…あゆを見上げていた。

『祐一くん、遅いっ』

あゆはいつも木に登っていた。

『今日は遅刻じゃないぞっ』

その上からの景色が大好きだからって。

『でも…ボクが先に来てたもんっ!だから、遅刻っ』

高所恐怖症のオレは登れなくって

『なんだよ、それ…うぐぅのくせにっ!』

『悔しかったら、登ってみてよ。』
 
 
 

でも

今日が最後だから

あゆとしばらく会えない

これが最後だから
 
 
 

『今日は、登るぞっ』

『…無理しないほうがいいよ。やめとけば?』

『いや、今日でしばらくここにも来れないから…登っておく。』

『…大丈夫?』
 

見下ろすあゆの顔。
心配そうだった。
だから
余計オレは
 

『大丈夫さ。あゆにできて、オレにできないわけがないっ!』

『…うぐぅ』
 

オレは木を登りだしたんだ。
自信はあった。
低いところだったら、確実に登っていたから。
だから
 

『ほら、平気だろ?』

『祐一くん、早く登ってよ…』

『いいから…』

『ほら、祐一くん、手…』
 

ビュオゥ
 

『あっ』
 

ポケットから何かが落ちた。
その時、風で落ちた。

あゆへのプレゼント。
オレは焦った。
思わず、手を伸ばした。

『祐一くん!』
 

オレはバランスを崩して
 

『危ないっ!』
 

あゆがオレに手を
小さな手を

伸ばして
 

『あっ』
 
 
 
 
 
 
 

落ちていく

人形のように

手を伸ばしたまま

落ちていった
 
 

『祐一くん!!』

『あゆっ!!』
 
 
 

オレは手を伸ばしたけれど

必死で手を伸ばしたけれど

その手の先を

白いリボンが

揺れながら
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

『ゴトッ』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

『あゆっっっっっっ!!!!!!!!』
 
 
 
 

オレはひざをついた。
切り株に頭をつけた。

そうだ

オレは…
 
 
 
 
 
 
 

駆け寄って

抱き上げて
 
 
 
 

その手が

赤く

紅く
 
 
 
 

雪が

赤く

紅く

染まって

広がって
 
 

『あゆっっっっっっっ!!!!!!!!』
 
 

オレは叫んだ

体を揺すって

何度も

何度も
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

でも
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あゆは目を開けなかった。
二度と開けなかった。
オレの手を暖かい血が
冷えていって

オレは
 

オレは
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

オレは泣いていた。
泣いていた。

あの時のように
泣いていた。
 

目の奥にあの日の木が見えた。
大きな大きな木
その木の上に

赤い
紅い
 
 

広がる赤が見えた。
目の奥に広がって
 

オレは
泣いていた
 
 
 

あゆ

お前の怪我は
お前の頭の怪我は
お前が眠っていたのは

お前を傷つけたのは
オレだ

オレのせいだ
 
 
 
 
 

オレのせいなんだ

オレの
 
 
 
 
 
 
 

オレは
 

泣いていた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「お疲れさまでしたっ!」
「はい、お疲れ。」
店長さんの声に贈られて、ボクは百花屋を出た。
今日はちょっと遅くなって、もう日が傾いていた。夕日が商店街の向こう、落ちていくのが見えた。
真っ赤な夕日だった。明日も多分、晴れだね。
ボクは伸びをすると、もう軽く軽くなった鞄を持ち直して歩きだした。

でも、今日は一日、晴れててよかった。
無事、ピクニックも終ったし…

ピクニック…
…祐一くん。

キス…しちゃった。
ボク…祐一くんと…
…キス…

思い出すたび、顔が赤くなる。
それに思わず、ぼーっとしちゃうし。
おかげで、百花屋ではさんざん、香奈美さんにからかわれるし。
『何してるの、あゆちゃん。祐一くんのことでも考えてるんじゃないの?』

…反論できなかったよ。
だって…ホントなんだもん。
ずっと…ずっとボク、考えてたから。

ねえ、祐一くん。
どうして、ボクに…キスしたの?
キスした後…何を言おうとしたの?
ひょっとして…
…祐一くんもボクのこと…好きだって、言おうとした?
だとしたら…

でも…どうしたんだろ。
帰り、祐一くん、何か変だった。
なんか…呆然って感じで、ボクたちの話、聞いてなかったみたいで。
急いでたから、ともかく別れてきたけど…

百花屋に祐一くん、来てくれるかと思ったのにな。
あ、でも…来たらまたからかわれちゃうし…
…でも、もしも…だったら、ほんとのことなんだから…いいのかな?
うーん…恥ずかしいけど…でも…

…でも、何で祐一くん、来てくれなかったのかな?
用事、あったのかな?
なんか、ボク…ちょっと心配…

…こんな心配、迷惑かな?
祐一くん…

…でも…

ボクは思いながら、夕日を見た。
傾いていく真っ赤な夕日…
…黒いシルエット。
ボクを見つめている、黒いシルエットの…

「…祐一くん!」

間違いなく、祐一くん。
ボクは駆け寄った。

「………」

祐一くん、ボクを黙って見ていた。
夕日を背に…ボクを見ていた。
なんか…不思議な顔…

「…どうしたの?」

…悲しそうだった。どうしてか…悲しそうに見えた。泣きそうに見えた。

ううん、もう、目が赤かった…
だから、ボク…

「…あゆ…」

…え?

いきなり、祐一くん、ボクを抱きしめた。
力一杯、抱きしめて…

「祐一くん…苦しいよ…」

ボクが言っても、祐一くん、離さなくって…
しっかり…
ちょっと、祐一くん…苦しいよ…
体、浮いちゃってるよ…ボク、小さいから…

「…あゆ…ごめん…」

…え?
今…なんて…

「…祐一くん?」

「あゆ…オレは…」

ボクが聞き返そうとした時、祐一くんは手を離した。
いきなりで、座り込んだボクの目の前、祐一くんは…

走っていった。
走って…商店街を走って、見えなくなった。

…なんなの、祐一くん…
どうしたの?ねえ…祐一くん?

ボクが呆然と、そこに座りこんでいた。
わけが分からなかった。
何がなんだか…分からなかった。

ボクはそのまま、夕日に赤く染まった街並みを呆然と見ていた。

<to be continued>

-----
…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…始まっちゃった…ね。
「…というか、あなたが始めたんです。」
…まあ…ね。本当はこんな話…書きはじめた頃は、書く気、なかった気がするけど…
「…いえ、そうじゃないですね。最初から、こんなことになると思いながら書いてたでしょう?」
…ああ。本当は…正確にではないにせよ、イメージは…あったから。今は、イメージじゃなく、構成までしちゃって…はあ。オレ…書きたくないよ。
「…またそんなことを。では、あの『わたしがあなたに出会うまで』のようなことに…なってもいいんですか?」
…いやだ。それは…
「…まあ、あの頃はわたしも出たばかりで、まだ仕切れませんでしたが…今は、あなたを監視できますから。さあ…続けましょう。最後はハッピーエンド、でしょう?」
…ああ、そうだよ。そう…信じて。次回を…

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