Memories

(夢の降り積もる街で-15)


あゆSS。

シリーズ:夢の降り積もる街で

では、どうぞ。

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白い雪

白く光る

雪の積もった枝

輝いて

白い

白い
 

リボン
 

伸ばした手
 

  『あっ』
 

揺れながら
 


 

揺れて
 

ゆっくりと
 

目の
 

前を
 

  『祐一くんっ』
 
 

赤い
 

赤く
 
 

広がって
 

染まって
 

染まっていく
 
 


 

白い
 

赤く
 

染まっていく
 

リボンを
 
 
 

オレは…
 
 
 
 
 

  『あゆっっっっっっっ!!!!!!!!』
 
 
 
 
 

Memories (夢の降り積もる街で-15)
 

1月25日 月曜日
 

…伸ばした手が見えた。
オレの手。
オレは…

ベッドに横たわっていた。
伸ばした手の向こうに見えたのは、見慣れた天井。
カーテンのすき間から光が射し込んで、ぼんやり明るかった。
オレは…

オレはいつの間に帰ったのだろう。
どうやって帰ったのだろう
あの森から…
あの…
 
 
 

オレの罪から
 
 
 

オレは逃げてきた
オレは森から…
そして、帰る途中…
 
 

あゆ
 
 

…それから、家に帰ってきたのはおぼろげに覚えている。
そのまま、部屋に戻って鍵をかけて
何度か、秋子さんの声が外からした気がする…
でも

オレはただベッドの横にうずくまって
ただ震えて
ただ涙が
ただ
 
 

この手を

この手の先
届かなかった少女の顔…
 
 

オレは手を下ろした。
でも、目はつぶらなかった。
つぶりたくなかった。
今つぶったら…
見えるものは分かっていた。

落ちていく小さな少女…

伸ばした手…

そして赤く染まる雪。
 

冷たく冷えていく…血…
 

これが夢だったら、どんなにいいだろう。
ただの想像だったら
映画のように
ドラマのように
これがただのそんなもので
だったら…
 

あゆはオレと会ったことはないと言った。
あゆは自分の怪我は、あの冬の日ではないと言った。
お母さんと一緒に、事故にあったのだと…

だから
オレがあの冬の日々に出会った
オレがあの冬の日々に遊んだ
そして

オレがあの冬の日に…殺した…

…殺したと思った少女は、あゆではないはずだ。
あゆであるはずがない。
オレの勘違いなはずだ。
全てはオレの夢…
ただの想像…
 

…だったら、どうしてこんなに苦しいんだ?
あゆの顔を思い出すだけで
オレを見上げるあゆの顔を思い出すだけで…
そして、その顔に重なる…
血に染まった顔。
白いリボンが赤く、染まっていく…
あゆの顔。
他の誰でも…ない
 

オレは叫んだのに
揺らしたのに
目を開けて欲しくて
もう一度開けて
オレに笑ってほしかったのに
二度と目を開けなかったその少女の顔は…
 

あゆ
 

どうしてだろう?
オレは狂ってしまったのか?
こんなバカなことを思うなんて。
そんなはずはないって、思っているのに…
 

…思えたらいいのに。
信じられたら…
心から、そう信じられたら…
オレが木から落としてしまった少女が…
あたりを血で赤く染めて
白いリボンを赤く染めて
オレの腕の中で
冷たく冷えて固まる血
だらんと落ちた腕
オレの腕につれて力なく揺れる頭
白くなっていく顔
そして
その大きな瞳を閉じたまま
二度と目を開けなかった
あの少女が…あゆではないと
信じられたら…
 
 

だけど
オレには分かっていた
あの少女は間違いなく
 

あゆ

オレは…

確信していた。
頭ではなく
オレの中でそれは疑いようもなく

オレには分かっていた。
分かった。

あの少女はあゆで

オレのせいで木から落ちた

そして
 

オレはその記憶から逃げた
7年前の冬の日々
あゆと過ごした冬の日々
オレはなくしたんじゃない
オレは…

忘れようとして、忘れてしまったんだ。
逃げたくて、逃げたんだ。
オレの罪から
オレの犯した罪
オレが殺した少女
オレは…
 

あゆ

オレはどうすればいい?
オレはどうしたら…
お前に償えるんだ?
オレの罪

オレの…
 
 

オレは天井を見上げたまま
目もつぶれないままに

考えていた。

思っていた。

ただ
オレは
 
 
 

「…あゆちゃん…あ〜ゆ〜ちゃんっ!」
「……え?」
2時間目の後の休み時間。
ハッとして、ボクは顔を上げた。
「…今日も物思いですねぇ〜、あゆちゃん。」
「…あ、明美ちゃん」
いつの間にか、ボクの目の前に、明美ちゃん。ちょっとニヤニヤって感じでボクを見ていた。
ボクはあわてて、明美ちゃんの顔を見上げると
「何っ?」
「…へへへ。」
明美ちゃん、まだにやにや笑うと
「…白状しろっ。この休み…何かあったでしょっ!」
「…え?」
「この、とぼけちゃって〜〜」
言いながら、ボクの肩を明美ちゃんはチョンっと突っついた。
「さっきから、なんだかぼーっとして…いつものあゆちゃんらしくないし。土曜日、何かあったでしょう?」
「…どうして?」
「だって、土曜日の4時間目、なんだかそわそわしてて、先生が終りっていうのと同時に駆けていったでしょ、あゆちゃん…やっぱり、デート?」
「…明美ちゃんっ」
ボクはあわてて首を振って
「誤解しないでよ。土曜日は、バイト先のお世話になってる人にお弁当、差し入れするのに急いでただけなんだから…」
「…またまた。照れるな、照れるな。」
「ホントだよっ!土曜日は、それだけなんだから。」
「……土曜日は、ね。ふ〜〜〜〜ん」
明美ちゃん、うんうんって頷くと、ボクの顔をのぞき込んで
「…じゃあ、日曜日は…何かあったんだ?」
「…え?」
「…ほら、『土曜日は』って2回も強調してたところをみると…あったんでしょう?な・に・か。」
…うぐぅ。ひ、引っかかっちゃった…
「…な、何もないっ」
「うそうそ。あゆちゃん、もう顔赤いし…白状しろっ!デートでもしたの?」
「デ、デートなんかしないよっ」
「ほらほら、顔が真っ赤。嘘はつけないよね〜」
「ほ、ホントだったらっ!ただ、ピクニックにいっただけで…」
「……ほほう、ピクニックと。で、誰と?女の子だけでいったわけじゃないみたいだね〜」
明美ちゃん、にっこり笑って…
…うぐぅ。本気で明美ちゃんって…
「…誘導尋問…」
「ふっ…落としの明美様の技、思い知ったか。」
「……うぐぅ…」
「…さ、白状しろっ!男の子と行ったんでしょう?で、どうなったの?」
「………」
ボクはため息をついて、明美ちゃんに
「…園の子と…」
「…それだけじゃないでしょ?」
「……その、知り合いの男の子と、3人で…」
「…ほらね。」
明美ちゃん、にっこり笑った。
「やっぱり、デートじゃない。」
「だから、違うんだよっ。」
「いやいや。だって、この寒空にただピクニックになんて行くわけないもん。」
「…でも、行ったんだよっ」
ホントだもん…ホントに、ピクニックに行ったんだもん…初めは。
「…ふうん…」
明美ちゃん、ボクの顔をじっと見ると、にっこり笑って
「…ま、そういうことにしときましょうか、今のところは。」
「…なんなの、今のところはって?」
「だって…」
明美ちゃんが口を開いた瞬間。

キンコーン

「…時間だから。」
明美ちゃん、笑いながらボクを見て、ウインクをした。
「でも、これで済んだって思わないでね。これからまだまだ、時間はあるんだから…珍しいあゆちゃんののろけ話、絶対に聞かせてもらうからねっ」
「…うぐぅ…明美ちゃん…」
「…じゃあ、次の休みっ」
明美ちゃんはにこにこしたままで席に戻っていった。
ボクは…
「…うぐぅ」
そのまま、机に突っ伏した。

…うぐぅ…明美ちゃん、こういうことではしつこいからなぁ…
今日はず〜っとこんな調子で突っつかれるんだろうなぁ…
うーん、なんか…こういうのって…
…憂鬱なような…それでいて、ちょっと…うれしいような…

あ、う、うれしくないよっ
そんなこと…

でも、ちょっとだけ、うれしいかな…
何か、ボク、いっつもそういう人の噂、聞くばっかりだったし…
『あゆちゃんにはまだ早いよね〜』
なんていっつも言われてて…
なのに、今度はボクがこんなこと、聞かれてるんだもん。
こんなボク…

だって、ボクなんて…
背も小さいし…
む、胸も…
それに、子供、みたいな…童顔だし…
…頭…髪、ガタガタだし…
……園にいるし…

こんなボク…

でも…

祐一くん…
 

ボクは顔を上げて、3時間目の教科書を取り出した。
クラスのみんなも、だいたい座って先生が来るのを待ってた。
ボクも教室の入り口を見る…
まだ来ないみたい。多分、あの先生だから…もうちょっと来ないかな。
多分…

…はあ。

何か、やっぱり顔に出てるのかな。
昨日ほどはドキドキもおさまった気がするし…
それに、バイトの時ほどは祐一くんのこと…

…ううん。違う。
昨日よりずっと、思い出してる。
あの時の、祐一くんの顔。

『…キスしても…いいか?』

真剣な、顔だった。
冗談じゃなかった。
ボクをじっと見て…
そして

祐一くん…

また、唇を触ってみる。
祐一くんと…キスした唇。
抱きしめてくれて…
あったかい…
 

ね、祐一くん…
あれは…そういう意味なんだよね?
君もボクのこと…好きって意味、なんだよね?

だ、だって、ほら、ボクなんて…
ただこう…そばにいたから、ついキスしたくなる…なんて、そんな色気があるわけじゃないし…
可愛いわけじゃないし…
それに…
えっと…

…ひょっとしたら、からかっただけかもしれないけど。
ボクみたい、可愛くもない、子供みたいな子、からかっただけで…
ほんの軽い気持ちで…ボクにキスしたのかもしれないけど。
それとも…

それとも…ボクみたいな…
園にいるような子に、頭に怪我して1年遅れちゃって、その上、その時の傷がまだあるなんて、そんな…子に…
……同情…して…

………

…違う…よね…?
祐一くんは、そんな人じゃないよね?

だって…

だって、ボクが園のことを言った時も、怪我のこと言った時も、変わらないでいてくれたもんね?
それに、ボクに『自信持て』って言ってくれて…
ボクのこと、からかったりはするけど、でも優しくしれて…
変わらず、いっつも優しくしてくれた…

そうだよ
優しい目で、ボクを見てくれる…
祐一くん…

信じて…いいよね?
いいんだよね?
あの時、言いかけた言葉…ミイちゃんに邪魔されたから、言わなかっただけで…
ボクのこと…好きだよって…そう言ってくれようとしたんだよね?
きっと…そうなんでしょ?
ね、祐一くん…
ボクは、そう思って…いいんだよね?
ね…
 

でも…

あのあと、何か態度、変だったのは…
どうして?
急に黙っちゃって、ボクにもミイちゃんにも…
それに…

『…あゆ…ごめん…』

あれは…どういう意味?
何が『ごめん』なの?
ボクになんで謝るような、そんなこと…

あのキス…後悔してるの?
ボクなんかにキスしちゃったこと…
後悔して、謝るような、そんな…つもりでしたの?
そんなこと…

…違うよね?
ボク…
祐一くん、信じてるから。
あれは…きっと違うんだよね?
きっと…違うことで、あんなこと言ったんだよね?

でも…
じゃあ、あれは…

ねえ、祐一くん。
教えて…
あれは…
 

知りたいよ。
ボク…
うっとおしいかもしれないけど
厚かましいかもしれないけど
疑り深い奴だって思われるかもしれないけど
そんなこと聞くなんて…
でも…

知りたいよ。
教えてよ。
だって…
不安なんだもん、ボク…

今日、会いたい。
本当は、今すぐ会いたいよ。
会って聞きたいよ。全部…
そして、ボクを安心させてよ。いつもみたいに、笑って…
『なにバカなこと勘ぐってるんだよ、あゆ!』
なんて言いながら…
ボクの頭、なでて。
いいよ、祐一くんなら…どんなに触っても…こづいても。
だから…会って…

あ〜あ、前に…電話、聞いとけばよかった。
そしたら、電話して…約束もできるのに。

…あ、でも、名雪さんがいるんだ…
一緒に住んでるんだから、電話、出るかも…
そしたら…ボク、なんて…
ボク…
 

ううん。
でも、ボクは…
祐一、くんは…
だから…
 

でも、知らないから、電話番号…
学校の前で…待ってみようかな?
祐一くん帰るの…

…でも、みんなに見られるだろうな…
他の学校の生徒が、校門のとこに立ってたら…
噂に…なっちゃって…祐一くんに迷惑、かかったら…

ダメダメ。
やっぱり、それはダメだよっ

でも、じゃあ…
 

…あっ、そうだ。
きっと、祐一くん…また商店街に行くよね。
なんか、いつも放課後、商店街に行ってみたいだもん。
うん、きっと、そうだよ…だったら…

ガラガラガラ

ドアを開けて、先生が入ってきた。
みんながおしゃべりをやめて、前を向く。
ボクも席に座りなおして、前を見て…
 

…そうだ、そうしよう。
今日は…放課後、すぐに商店街に行ってみよう。
きっと…会えるよね。
今までだって、偶然…会えたし。
きっと…会えるよね。会えると思う…だから…

ボクは教卓の前に立った先生の方に目を移しながら、そう思っていた。

会いたいから…
…会えるよね。きっと。
うん。
 
 

歩道脇の雪が昼過ぎの光を反射して、まぶしく輝いていた。
屋根に積もっている雪が、ドサリと音をたてながら屋根から落ちて、跳ねた雪のかけらが足にあたった。
そんな街並…変わらない、街並。
7年前と同じ街並…

オレは思いだしていた。
オレはここにいた。
確かに、この道を歩いていた。
水瀬家から商店街へと…そして駅へと繋がるこの道は、オレがあの冬に毎日通った道…

冷たい風が吹き過ぎた。
体にではなく、記憶の中を吹き過ぎた。
オレは思わず首を振ると、立ち止まって振り返った。

結局、オレは学校を休んでいた。
秋子さんが何度か呼びに来た、そんな気はおぼろげにしていたが…気がつけばもう、日は高かった。
そして、オレはそんなことに気がつきたくはなかった。
だが…

気がついた。
ふらふらと階下に降りて、ダイニングのテーブルを見た時。
誰もいない静かな家の、ダイニングのテーブルに置かれていた白い紙。
『会社に行っています。
学校へは風邪で休むと連絡を入れておきましたので安心してください。
もしもお腹が減るようなら、テーブルの上の物を温めて食べてください。
    秋子』
ただそれだけ書かれた紙。
でも、秋子さんの気持ちが…苦しい。
そして、そこに用意されていた食事…

それを見た時、オレは愕然とした。
オレは…お腹が空いていた。
だから部屋を出て…ダイニングに降りてきたのだと。
こんな時にも、お腹は減る…
オレはその程度の人間だと…
オレは…

オレはそのまま、ダイニングを出た。
玄関のコートを羽織って、そのまま玄関から外に出た。
白い雪に覆われた街へ…

…7年前に繋がる街へ。
この街角は、記憶の街角。
名雪と確かに歩いた道…
 

『早く行かなきゃ…』

三つ編みの少女。
オレに振り返って、ちょっと拗ねていた。

『ほら、じっとしていた方が寒いよ…』
『そうだな…』
『早くっ、早くっ』
『そんなに急がなくても、店は逃げないだろ』
『逃げないけど、閉まるよっ』

言いながら、名雪はオレに買い物鞄を持たさせた。
いつもオレが持っていた…

『悲しい居候の身だから、仕方ないと言えば仕方ないか…』
『そんなの小学生の台詞じゃないよぉ』
『きっと、荷物持ちを断ったら家を追い出されて、この極寒の地にひとりぼっち…』
『だから、人聞き悪いよぉっ』
『熊に襲われたら、名雪のせいだな』
『居ないよ、熊なんて…』
『でも、狼ならでるだろ?』
『日本中のどこ探しても狼は出ないよ』
『それは残念だな』
『狼も熊も、出ない方がいいよ。出たら食べられるよ』
 

他愛もない会話。
いつものおつかい。
いつもと変わらない冬の日の、他愛もない思い出…

でも、それが始まりだなんて、オレは思ってなかった。
ただそれだけのことだった。
だから、簡単に…
 

『じゃあ、閉まる前にさっさと頼まれてるもの買ってこい』

オレはこの場所で、商店街に入ったところ、この道端で言ったんだ。
名雪はいつも要領が悪いから。
だから、きっと時間がかかると思ったから。

『うんっ、買ってくるよ』
『祐一はここで待っててね。先に帰ったら怒るよ』
『大丈夫だって』
『約束だよっ』

振り返りながら、名雪は商店街へ消えていって。
オレはぼんやりと街を見ていた。
ぼんやりと雪を眺めていたんだ…

その時だった。
オレの背中に誰かがぶつかったのは。

ちょうど、あの時のように。
2週間ほど前の偶然の出会いのように。
でも、その時の出会いが…本当は初めての出会いだった。

べちっ

『…うぐぅ』

見下ろすと、見知らぬ少女が座り込んでいた。
オレと同じくらいか、少し下かもしれない。
白いリボンが頭で揺れていた。
リボンが揺れていたのは…

『…う…ぐぅ…』

少女は泣いていたから。
オレを見上げて、その大きな瞳が涙で濡れて、揺れていた…

『えぐっ…うっ…』

見る見るうちにその瞳の涙は、あふれて流れ出して。

『…えぐぅ…うぐぅ!』

少女は顔を手でおおうと、泣き出してしまった。
オレは呆然と立っていた。
どうすればいいのかわからなかった。

でも、そのままにしておくのはマズイと思った。
そばを通る人がオレを見ていたから。
きっとオレが泣かせているんだと…そう思ってるみたいで。
だから、オレは…

『えっと…その…』
『…うぐぅ、えぐっ』
『ど、どうした…のさ?』
『…えぐぅっ…』

少女は右手だけをそっと外すと、オレを見上げた。
赤くなった濡れた目でオレを見上げた。
そして…

『…うぐぅ…』
『お、おい…』
『えぐっ…』

その右手で、オレの上着の裾を握った。
ぎゅっと握りしめて、オレを見上げていた。

『えっと…』

どうすればいいのか、オレには分からなくて。
でも、だんだん人が集まってきて、オレたちを見ていたから。
恥ずかしかったから、だからオレは

『…えっと…お前、誰だよ?』
『………うっ…えぐっ」
『オレは相沢祐一。お前の名前は?』
『えぐっ…うぐっ』

少女は泣きやまなくて。
でも、左手で目をこすると、オレを見上げながら、

『…ぁ…う…』

口を動かしているけれど、なかなか言葉にならなくて。
それでもまだ、口を動かして

『…ぁ…ゆ…』

まだ震える声。
かろうじて聞こえたその言葉。

『…あゆ、か?』

少女はこくんと頷いた。
涙で濡れた顔で、頷いた。

あゆ

そう、それが本当のお前との出会い。
ついこの間ではなくて
7年前の冬の日…

『名字は?』
『…あ…ゆ…』
『名字があゆなのか?』
『うぐぅ…違ぅ…』

続けて聞いても、要領を得なくて。
首を振るだけで、声にならない声。

『もう一度訊くぞ、名前は何て言うんだ?』
『…あゆ』
『それで、名字は?』
『……』
『もしかして、名字もあゆなのか? だったらかなり変な名前だな』
『…えぐっ…ぅ…違ぅ…』

オレの言葉に、お前はまた泣きそうになって。

気がついたら、オレたちの周りに人が集まっていて。
オレはさすがに焦って。
だから、思わずお前の手を取って

『と、ともかく、立てよ。』
『…うぐぅ…』
『だからさ…と、とりあえず、ここじゃないとこへ…』

オレは言いながら、お前の手を引っ張って立たせたんだ。
そして、そのままその手を引っ張って

『行くぞ、あゆあゆ』
『あゆあゆじゃないよぅ…』

言いながら、オレと一緒に走り出したお前。
なんだかもつれそうになりながら、でも抵抗もしないで走り出して

『うぐぅ…あゆあゆじゃないもん…』
『どっちでもいいから、走るぞっ』
『どっちでもよくないよぅ〜』

涙を左手で拭きながら、一生懸命駆けていた。
まだその目は赤くって。
頭の白いリボンが、蝶のように揺れていた…

それが、あゆ、お前との…本当の出会い。
その…はずだ。
7年前の冬の、それが出会いだったんだ…

ちょうど、こんな晴れた日の、夕方のことだった。
もう少し日は傾いていて、風も冷たくて。
でも、お前の手は暖かかったのは覚えてるんだ…
そして、そのまま、オレたちは…
 

どんっ
 

誰かに押された感触。
不意を突かれて…そして、ふらついて。

気がつくとオレはしりもちをついていた。
雪の上に座り込んでいた。
冷たい雪の感触が…

「…あっ」

誰かの声。

オレは振り返った。
そして、目の前に立っているその姿を見上げた。

「…祐一くん、大丈夫?」

白いリボンが頭に揺れていた。
ベージュ色のダッフルコートがオレに駆け寄った。
茶色の手袋の手がオレに差し出された。

今、一番会いたくない…

…いや、会いたかった…

…オレは…
 

オレはあゆの顔を見あげていた。
オレを見おろして、心配そうな顔をしているあゆの顔を呆然と見上げていた。

「…祐一くん?」

見下ろしているあゆの目が、心配そうに瞬いていた。
オレを見つめて、大きな目が瞬いた。

「……ああ」

オレの口から声が出た。
かすれた声が漏れるのが、オレの耳に入った。
オレはそのまま、あゆから目をそらした。

恐かった

オレの罪

オレの…
 

「…早く立たないと、濡れちゃうよ?」

あゆの声が聞こえていた。
ちょっと舌足らずの、少し高い声。
いつものあゆの声。

そしてオレの目の端に、差し出された茶色い手袋が揺れるのが見えた。
ちょっとおずおずと、でもオレの方に伸びて

オレは道路に手をつくと、ゆっくり立ち上がった。
少しめまいがした。
考えてみれば昨日から何も食べていないのだから、めまいくらいしてもおかしくなかった。

「…大丈夫だと思う。」
「…そう。ならいいけど。」

言うと、あゆはちょっと笑ってオレを見上げた。
背の小さいあゆは、オレが立ち上がるといつものようにオレの顔を見上げていた。
7年前はまだ、そこまで身長差はなかった…

「ごめんね、祐一くん。」
「え?」

見ると、あゆは頭を下げていた。
オレは思わず、何も言えなくなった。
謝るのは…

「そんな、倒れるなんて思わなかったから…気がついてなかったみたいだから、脅かそうと思って後ろから近づいて、トンって背中を軽く叩いたつもりだったんだけど。」
「………」
「ごめんね。怒って…る?」

あゆはちょっとおどおどとした様子でオレを見上げた。
いつもあゆが時折見せる、自信のない様子。
そして、それはオレのせい…

「…いや、そんなことは…ないよ。」

オレはあゆに言うと、顔に微笑を浮かべた。
かろうじて、そんな顔が浮かんだ。

あゆはホッとと息をつくと、少し笑った。
オレはそんなあゆの顔を見ながら、つばを飲みこんで

「なあ、あゆ…」
「…え?」
「お前…その…」
「……?」
「……あの冬…」
「……祐一くん?」
「………」

オレはそこまでしか口にできなかった。
あの冬の日のことを、聞かなきゃならないのに。
あゆが覚えていないらしいこと…
覚えていない…

いや、あゆの記憶が正しくて
オレの記憶がおかしい…

絶対に違う。
それはあり得ない。
オレの中で叫ぶ声がする。

でも、じゃあ、あゆの記憶は…
そして、オレの罪…

でも
覚えていないのなら…

本当に覚えていないのなら、それなら…

「…いや、何でもない。」

オレは口を閉じると、あゆの顔を見下ろした。
あゆはオレを見上げながら首をかしげて、でも微笑んでいた。
ちょっと顔を赤らめながら、微笑んでいた。

あの日のことを覚えているなら、そんな顔はしないはず。
あゆは…覚えていない。

あゆ

もしもお前が思い出したら…
その時、お前は…
 

恐かった。
それが恐くて…
 

「…昨日のピクニック、楽しかったな。」

オレはそんなことを口にしていた。
逃げていた。
オレは逃げている…また。
オレは卑怯者だ。
そう思いながら…でも…

「…うん。」
あゆはオレを見上げて、ちょっと顔を赤らめた。
「…ホントに…楽しかったね。」
「ああ。」
オレは頷いた。
それは本当だった。あのことが…あるまでは、本当に楽しいピクニックだったから。
それに、あゆとの初めての…
「…祐一くん?」
「…ん?」
急に声を上げたあゆに、オレはあゆの顔を見下ろした。
あゆはオレの顔をちょっと赤らめながら見上げて
「…昨日の…」
「………」
「………」
「………?」
「…何でもない。」
あゆは言うと、顔をもっと赤くして目を落とした。
キスのことを…思い出しているのかもしれない。
オレとあゆとの…初めてのキス。
そして、抱きしめて感じた、あゆへの…

…本当にそれがオレの気持ちだったんだろうか?
本当に、オレはあゆを好きなのか?
消してしまった記憶の、おぼろげな記憶の中で、オレはただ…
ただ、7年前のあゆへの思いを…
そして、殺してしまった少女への償いを…
オレは…

「…なあ、あゆ。」
オレは小さく首を振ってあゆの顔を見おろしながら
「今日はここへは…何か用事でも?」
「…え?」
あゆはちょっと驚いたように顔を上げると、小さく首を振って
「ううん。別に…」
「…そうか。だったら…」

『じゃあこれで』と言うべきだった。
あゆの顔を見ているのはオレには辛かった。
でも、同時に…

「…そのへん、一緒にぶらつくか?」
「…え?」

驚いたように目を瞬かせたあゆに、オレはできる限りの笑顔で答えた。
オレの罪を覚えていないあゆ…
オレの罪。償い。
そんなことでは償いなんて、100万分の1にもなりはしないのに。
でも、それでも…何かしたくて…

「…うん。」
あゆは頷いた。
「そうか。」
「うん。ボクも暇だしね。」
あゆはにっこり笑うと、あたりを見回した。
そして、ふいにオレの手を引っ張った。
「あ、祐一くん!」
「…ん?なんだ?」
「今日はたい焼き屋さん、いるよっ!」
「……ああ、そうだな。」
見ると、商店街の中ほどにたい焼き屋の屋台が出ているのが見えた。
同時に、微かに感じていた甘い匂いが、そこから来る匂いであることにも気がついた。
あゆはオレに振り返ると、大きく頷いて
「ね、祐一くん…今日こそ、約束はたせるよっ!」
「…え?」
「ほら、あの約束。たい焼きと…肉まんの。」
あゆの言葉で、やっとオレは思いだした。
あゆが肉まんを買い、オレがたい焼きを買ってお互いに相手に返す…約束。
他愛もない、約束…
「じゃあ、ボクは中華屋さんに…」
「…あゆ」
駆け出そうとしたあゆに、オレは声をかけた。
「…オレは…いいから。」
「…え?」
あゆは振り返ると、びっくりした声で
「…祐一くん?」
「…オレは…いらないよ、もう。」
「でも…」
「いいからさ。オレは肉まんは…」
「…祐一くん?」
不思議そうに見上げているあゆの顔。
オレはあゆの顔を見ながら
「オレが…あゆ、お前にたい焼きを…」
 
 

『…おいしいか、あゆ?』

見上げるあゆの顔。
涙で濡れている瞳。

『…しょっぱい。』
『それは涙の味だ。』
『でも…おいしい。』

やっと笑ったあゆの顔。

商店街から二人、逃げてきた裏通り。
なかなか泣きやまないあゆに、オレはたい焼きを買ってきた。
そういえば、あの時買ったのも、あの屋台のたい焼きだった。
女の子が泣いている時は、おいしい物をあげればいいんだって、お母さんがよく言ってたから。
だから、あゆには『待ってろ』って言って、オレは買いに行って。
返ってきてもあゆはそこで待っていた。
まるで飼い主がいなくなった犬みたいな顔で、ぼんやりと立って待っていたから。

『ちゃんと待ってたんだな』
『待ってろって言われたから…』
『よしよし』

オレが頭を撫でてると、ちょっとあゆはくすぐったそうにオレの手から逃げて。

『…じゃ、一緒に食べようぜ』

オレは手を引っ込めて、たい焼きの入った袋をあゆに手渡したんだ。
あゆはその紙袋を抱えるようにして

『…あったかい…』
『たい焼きは、焼きたてが一番だからな』
『……』

オレはあゆの抱えた袋から1匹のたい焼きをつまみ出してほうばった。
焼けた皮の香ばしさと、甘いアンが口いっぱいに広がって。

『うまいぞ。』
『………』

あゆは俺の食べるところをじっと見ていたけど、しばらくしてやっと袋の中からたい焼きを取り出して。
そして、一口ほおばると、ゆっくりと噛んでいた…

そして、やっと笑ってくれたから、だからオレは

『一つ、聞いてもいいか?』
『………うん』
『なんで、お前、泣いてたんだ?』
『お前じゃないもん…あゆだもん…』
『ああ、分かったよ。じゃあ…あゆ、なんで泣いてたんだよ?』
『………』

その時、あゆの顔は、また泣きそうになったから
だからオレはあわてて

『…いや、いわなくていい。』
『………』
『話したくないんだったら…いいよ。』
『………』

また泣かれても困ると思ったから。
たい焼きでやっと泣きやんだのに、また泣きだしたら…もう止める方法なんて、オレには思いつかなかったから。

『……分かんない』

でも、あゆは小さく言った。
そして、首を振ってもう一度

『……分かんない…』
『…そうか。』
『………』

いつの間にかお互いにたい焼きはもう食べてしまっていて。
それに、もうずいぶん暗くなって、日が暮れてきていたから
オレは紙袋を丸めてゴミ箱に放り込んで

『ごちそうさま』
『………』
『じゃあ、オレ、そろそろ帰るから』
『………』
『じゃあな、あゆあゆ』
『…うぐぅ…』

変な答えだったけど、オレは気にせずに帰ろうとして。
でも

『…おい。手、離さないと帰れないんだけど…』
『………』
『…なあ…』
『…また…』
『……?』
『…たい焼き…食べたい。』

オレの上着の裾をしっかり掴んだまま、下を向いて言ったあゆ。
夕焼けの名残の光に暗く映ったその姿が、なんだか消えそうに…
本当になんだか消えそうに見えて…

『そんなに…気に入ったのか?』
『…う…ん』

頷いたあゆ。
白いリボンが揺れて。

なんとなく、オレもそのまま別れたくなくて。

『じゃあ、また今度、一緒に食うか?』

あゆは顔を上げてオレを見た。
その大きな目が、オレを見つめて瞬いて

『…うん』
『…じゃあ、明日の…おんなじ頃、駅前のベンチで待ち合わせするか?』
『…うん』
『じゃあ、そうしよう。な、あゆ?』
『うん』

初めて、あゆは頷くと、笑ってくれたから。
だからオレも思わず笑いながら

『じゃあ、そういうことで…また明日な。』
『うん…バイバイ』
『おう。』

オレたちは手を振って、反対側へ駆けていった。
時々振り返ると、あゆも振り返ってオレにまた手を振って
そして夕日の中に…

赤い夕日の中に

赤い

雪の

赤い
 
 
 

「…どうかしたの、祐一くん!」

気がつくと、オレはあゆがオレを見上げて不思議そうな顔をしていた。
「気分でも悪いの?」
「………」
オレは頭を振って、思い出を追い出した…そんなことでは追い出せるはずもなかったが。
「…いや、何でもない…」
「…そう?でも…」
「ホントだ。だから…」
「………」
あゆはオレの顔をまだ不思議そうに見ていた。
そして、小さく頷いた。
「…ともかく…ボクも、じゃあ…今日はいいよ。」
「…え?」
「…ボクも…今日はたい焼き、いらないから。」
あゆはさっきの話の続きを言っていたようだった。
オレはあわてて
「でも…」
「祐一くん、なんか…今日は食べたくないんでしょ?じゃあ…ボクも今日は…」
「いや、あゆ、お前は…」
「ね?約束、お預けにしようよ。今度…またお互いに都合のいい日に。それがいいと思うんだ。ね、祐一くん?」
あゆは言うと、にっこり笑ってオレを見た。
頭の白いリボンが、わずかに揺れていた。
大きな瞳がオレを見て、ちょっと揺れていた。
「…分かった…よ。」
オレは頷くしかなかった。
今のオレには、そうすることしか思いつかなかった。
「…じゃあ、そういうことで…まただねっ」
あゆは言うと、オレの顔からあたりに目を移して
「じゃあ…」
「………」
オレも釣られるように商店街に目をやった。
商店街はそろそろ夕日に照らされはじめていた。
白い雪に覆われた商店街の屋根の上、青かった空がかすかに赤く染まってきていた。
そして、そんな下を歩いて行き交う人々。店に入っていったり、店を出てきたり。
買い物かごを抱えた主婦や、学校帰りの生徒たち…
「…じゃあ、百花屋に…」
振り返って言ったあゆの言葉に、オレは首を振ってみせた。
今日は…そんな気分にはなれなかった。今の気分で…香奈美さんに会ったら…
オレは首を振りながら、もう一度商店街を見回した。
「…また行くか、あゆ?」
「…え?」
オレは振り返ったあゆに、オレが見ているところを指差してみせた。
「…あ…」
あゆはそちらに目をやると、声を上げて振り返った。
「…うぐぅ…でも…」
「…時間を潰すにはもってこいだろ。」
「…でも…」
あゆはうらめしそうにオレを見上げていた。
オレが指差したのは、ゲームセンターだった。この間も行った、ゲームセンター。
多分、この間の音楽ゲームを思い出したのだろう。
「…今日は、あれはやらないよ。」
「…ホントに?」
「ああ…絶対な。」
「…だったら…」
頷いたあゆに、オレは笑ってみせながら歩いていった。
あゆはオレの後ろをパタパタと歩いてついてきた。
 

ゲームセンターは、いつものように騒音に包まれていた。
学校帰りの生徒たちが10人くらい、ゲームをしているのが見えた。
レーシング…格闘…そして…音楽系…
「…ホントに、嫌だよ。」
オレが立ち止まっていると、後ろから来たあゆがオレの前に回って、オレの顔を見上げながら
「ボク、この間はね…」
「…分かってるよ。」
オレは頷いた。
今、オレが…あゆの嫌がることをする気になんて…なれるはずがない。
そう、オレが…
「…じゃあ…何か、したい物、あるか?」
オレはもう一度ゲームセンターの中を見回した。
「…だから、ボク…あんまりゲームしないんだってば。」
あゆはちょっと苦笑いをしながら、またオレを見上げた。
「それに、この間、来たのが1年ぶりだって…」
「…そうだったな。」
「うん。」
「…じゃあ…出るか?」
「…え?」
オレの言葉に、あゆはびっくりしてオレを見上げていた。
あゆが乗り気でないのなら、いてもしょうがないから。
オレはあゆのために…だから…
「…じゃあ…」
「…あ、でも、今日はあれ…やろうかな。」
あゆは振り返ると、一台のマシンを指差した。
それは…
「…あゆ…」
オレは思わずあゆの顔を見つめた。
あゆは…覚えているのか?だから、あの…
…いや、そうじゃなかった。
あゆは不思議そうにオレを見上げていた。
「うん?」
「…いや、何でもない。」
「……?」
あゆは不思議そうに首を傾げると、そのマシン…クレーンゲームに歩いていった。
そして、そのガラスの中の景品たちをしげしげと眺めた。
オレもその後を追ってガラスを覗き込んだ。
蛍光灯に照らされた、色とりどりのぬいぐるみたちを…
「…こういう、景品のぬいぐるみって…」
「…え?」
あゆがガラスに顔をつけるようにして言った言葉に、オレはあゆの横顔を見て
「ぬいぐるみが…どうした?」
「うん…」
あゆはうなずきながら、まだぬいぐるみたちに目をやったまま
「このゲームでしか取れないようなぬいぐるみばっかりなんだってね。」
「………」
「…お店で売ってないんだってね。だからかな…」
「…だから?」
「……可愛いのもあるけど、変なのもいっぱいあるよね。ほら、あの猫なんか…」
と、あゆはガラスの中、黄色い猫らしきぬいぐるみを指差すと
「変な服着てて…顔も人間みたいだし、何か可愛くないよね…」
「…そうだな。」
あゆの言葉には、オレは同意した。
確かにその猫らしきぬいぐるみは、可愛いという範疇のものではなかった。
といって、変だってわけでもないが…金を出して買うかと言われると、ちょっと買わないかなという感じの物だった。
オレはうなずきながら、あゆの横顔に目を移した。
あゆはまじまじとぬいぐるみたちを見ていた。
「じゃあ、あゆは…どれだったらほしいと思う?」
オレはあゆの横顔を見ながら言った。
「…そうだねぇ…」
あゆは首をかしげると、少し真剣な顔でガラスの中を見つめた。
大きな瞳で、見つめていた。
見ていた
 

大きな瞳で
 
 
 

『人形、ほしい…』

食い入るように見つめた、大きな瞳。

『だったら、やってみるか?』

オレが言うと、頷いた…あゆ。
 

オレとあゆがこの街で出会って、待ち合わせて遊んだ何度目か。
何となく入ったゲームセンターで、あゆはクレーンゲームの前から動かなくなって。

『これって何かな…』

近寄ったオレに、あゆは振り返りもせずに聞いてきて。

『クレーンゲームだけど…あゆ、知らなかったのか?』
『うん。初めて見た』
『あれは、ふたつのボタンでクレーンを操作して、中の人形を掴み取るゲームだ』
『掴むとどうなるの?』
『その人形がもらえる』
『…ほんとにもらえるの?』
『取れればな』

オレが言うとあゆは、また黙ってガラスの中を覗き込んだ。
大きな瞳で真剣に、中を覗き込んで
そして、言ったんだ。
 

『どの人形だ?』

オレが言うと、あゆは黙ったまま、一つの人形を指差した。
クレーンの大きさに合うような、小さな人形たちが山になっている中
あゆが指差したのは、白い…

白い…

…白い…

…白い人形で

小さな人形で

それは…
 

思い出せない。
白い、小さな…何の人形だったっけ?
オレは…

オレはあの朝、それを…

それが、ポケットから…
 
 
 
 
 

『…ボクに取れるかな…』

あの時、あゆは言った。
ガラスに顔をつけながら、人形を見つめて言った。

『…まあ、やってみろよ。』

オレは言って、コインに100円玉を入れた。

『ちょ、ちょっと、ボク、まだ心の準備…』
『こんなのは考えるよりも、やってみればいいんだ。ほら、ガンバレ』
『うぐぅ…』

あゆは情けない顔をして、でも真剣に操作盤を操って。

でも

『…うぐぅ…やっぱり無理…』

クレーンは空を切って、何も挟まずに戻ってきて。

『…うぐぅ…』

あゆはそれでも、人形を見つめていて。
だから、オレは

『だったら、今度は俺が代わってやろうか?』
『祐一君、上手なの?』
『まぁな』

本当は、そんなに得意ってほどやったことはなかった。
でも、あゆよりはましだと思っていた。
あゆは…ホントにどんくさい奴だったから。

『一度にふたつみっつは当たり前だ』
『…凄い』
『たくさん取って、好きなのをプレゼントしてやるぞ』

なんだか言っているうちに、ホントにそんな気がして。
だから、オレは意気揚々と100円玉を投入して…

でも…

『…祐一くん、もういいよ…』
『………』

そんなはずじゃなかったのに。
気がつくと、オレの財布は空になっていて。

『1個も取れなかった…』
『…うん』
『この機械、壊れてるんじゃないか?』
『そんなこと、ないよ。』
『だったら、どうして?』
『きっと…今日は運が悪かったんだよ。きっと…』

あゆはオレの顔を見ながら、ちょっと笑って言った。

オレは悲しかったんだ。
あゆに喜んでほしくて
あゆがほしいって言った人形をあげたくて
だから

『ごめんな、約束したのにプレゼントできなかった』

オレは頭を下げた。
本当に情けなかったんだ。
オレは…こんなこともできない子供なんだって…

でも、あゆはにっこり笑ってくれて。

『ううん、いいよ。祐一君、がんばってくれたもん。それだけで…充分だから』

それからオレの手を取って

『それよりも、たい焼き食べて帰ろうよ』
『たい焼き買う金がない…』
『だったら、今日はボクのおごり。』
『でも…』
『さ、行こっ!』

オレの手を取ったまま、駆け出したあゆ。
その手の温もりが…オレはうれしくて…
そして悲しかったんだ
だから

だから、あの日、オレは…
 
 

だけど

風が…
 
 

『…あっ』
 
 
 

『祐一くん!!』

『あゆっ!!』
 
 
 

赤く

雪が…
 
 
 
 
 

「…あれ…ほしいかな。」
「…え?」

気がつくと、あゆがガラスの中を指差していた。
オレは首を振ると、あゆの顔を…その指を見た。
その人差し指の先、ぬいぐるみたちの山から顔を出している…
「…あれ、さっきの猫じゃん。」
「…あはは。そうだね。」
あゆはちょっと照れ隠しのように笑った。
「でも…あれが何か、気になるんだよね。」
「…あれが?」
「うん…」
オレはもう一度、あの猫らしきぬいぐるみを見つめた。
何度見ても…やっぱり可愛いとは言えない。
『あんなの、どこがいいんだよ?』
オレはそう言おうと、あゆの顔を…

「…じゃあ、オレが取ってやる。」
「え?」

オレはそう言って、100円玉をマシンに投入した。
「…祐一くん、ボク…」
「…いいから。見てろよ、オレが取ってやるから。」
「……祐一くん…?」
あゆにオレは微笑んでみせて、それからマシンに向き直った。

今度は取ってやりたい。あゆがほしいもの。
今度こそ、オレは…

クレーンがゆっくりと移動していった。
あゆは口を閉じて、その行く先をじっと見つめていた。
白い蛍光灯の光るガラスの中、銀色のクレーンがゆっくりと動いていくのを…
 
 

「…祐一くん…」
「………」

もう何度目か、クレーンが空を切って戻ってきた。
結構惜しいところまで、人形は掴めているのだが…あとちょっと…

「…祐一君、もういいよ」
「いや、さっきのは惜しかったから、次こそは…」

オレはクレーンだけを見ながら答えた。
本当に…さっきは惜しかった。
人形はあがりかけて…でも、他の人形に引っかかって落ちて。
だから、きっと今度は…

「さっきも同じこと言ってたよ…」
「次こそ本当に大丈夫」
「…でも、もう2000円以上使ってるよ」
「クレーンゲームで2000円くらい、普通だ」
「………」

クレーンが定位置に戻ったのを見ながら、オレは財布から100円玉をマシンに…

「…もう、いいから…やめてよ。」
「……おい、あゆ…」
「…やめて。お願い…だから。」

あゆの手が、投入口を塞いだ。
オレはその手をどけようと、あゆの顔を見て

「…別に…ホントに、いいから。だから、ね…」
「…あゆ…」

あゆはオレを見上げていた。
大きな瞳でオレの顔を見つめていた。
その顔を小さく横に振りながら

「その気持ちだけ…もらっとくから。ホント、そんな欲しかったわけじゃないから。なのに…そんなにお金、使わないで。ね?」
「………」
「…あんなの、別にいらないんだよ。ほら、たださ、ボク…ボクね、祐一くんとその…一緒に遊べたらって、そう思っただけでさ…」
「………でも…」
「…ね。祐一くん?」

あゆはにっこりと微笑んだ。
オレは…

オレはあゆに取ってやりたかった。
今度こそ、取ってやりたかったんだ。
あゆが、望む物を…

いや
そんなのはただの自己満足だ。
そんなことで、あの冬の…オレの…

オレの罪の償いなんてできないんだ…
分かってる…分かってるさ…そんなことは。
でも、でも…オレは…

「…祐一くん…今日は…変だよ。」

あゆは微笑みながら、首を傾げた。
その瞳は、ちょっと不思議そうにオレを見ていた。
オレを見つめながら、あゆは

「もしか…して…」

その顔が、少し曇って。
オレを見つめる大きな瞳が、揺れて…

「…昨日のこと…その…後悔、してる…の?」
「…え?」

オレはびっくりしてあゆの顔をまじまじと見た。
あゆは心配そうな顔で、いや、寂しそうな顔でオレを見ていた。
大きな瞳が、少し濡れて、揺れていた。

「だって、昨日…祐一くん、ボクに…『ごめん』って…」

言ったあゆの顔。
オレを真剣に見つめる瞳。
見上げているその顔。
オレは…

「…それは、違う。それは…後悔なんて、してない。」

後悔はしていない。
あゆにキスをしたこと。
あゆを抱きしめたこと。
あの時思ったこと、感じたこと、それは…
それは嘘じゃない。
嘘じゃないけれど…

オレはあゆが好きだ。
それは間違いないと、オレは思ったこと…

でも

オレは…
 

「…あ…あはははは。」

あゆは急に顔を赤らめると、顔を伏せた。
「…は、恥ずかしいね、こ、こんなとこで…」
言うと、あゆは小さく首を振ると、オレを見上げた。
「ゆ、祐一くん…出よう。」
「…でも…」
「もう…出ようよ。ね?なんか…暑いよ、ここ…」
別にゲームセンターはそんなに暑くなかった。
でも、あゆは顔を赤らめたままで
「ほら、祐一くん…ボク、先、出るから。」
「おい、あゆ…」
そのまま、小走りにゲーム筐体の間を抜けていった。
オレはあゆの後を追って、ゲームセンターを飛び出した。
 

ゲームセンターの外は、もうすっかり夕暮れだった。
商店街はすっかり夕日の赤に染まっていた。
あゆはゲームセンターから少し行ったところ、商店街の通りの真ん中に立ち止まっていた。
「…あゆ」
オレは声をかけながら、あゆに歩み寄った。
あゆも商店街と同じ夕日の赤に染まっていた。
そのダッフルコートが、オレの方に向き直った。
「…うん。」
「…どうしたんだ、急に?」
「…あはは。」
夕日に染まったあゆの顔が、ちょっと微笑んで
「ちょっと…ね。」
「ん?」
「…あそこであんな感じの…二人連れ、ボク達だけ、だったから…何か、みんなが見てる気がして…」
「……まさか…」
「…うん。そうだけどね…あははは」
あゆは夕日だけではない赤くなった顔で、またちょっと笑った。
そういえば、あのゲームセンターには男も女もいたけれど、その…恋人って感じのカップルは、確かに…

…恋人。
オレと…あゆ。
あゆの…気持ち。
オレの…気持ち…

オレの罪

オレは…

「…あゆ…」

オレは思わず、あゆを呼んでいた。
何を言うつもりかは分からないまま。
何を言えばいいのか…
何を言うべきなのか、分からないまま…

でも、あゆは聞こえなかったのか、夕日に向き直って

「…きれいな夕日だよね…」

あゆの言葉に、オレも夕日を見つめた。
真っ赤な夕日が商店街の向こうに落ちていこうとしていた。
大きな夕日が家々の屋根、赤く染めながら、空を赤く染めながら落ちていこうとしていた。
あたりを赤く染めて…
 
 

『…きれいだね…』

あゆ
あの時も、お前は言ったよな。

やっぱり何度目かの待ち合わせ、商店街で遊んだ後で。
そろそろ帰らなきゃいけないって、そう思った時。
やっぱり道の真ん中で、夕日を見つめながら。

『明日も、晴れだよね…』
『…そうだな。』

この街では見慣れた夕日。
でも、お前と一緒に見ると、なんだかホントにきれいだなって、そう思えて。
そして、目を移すと、お前の横顔が夕日に照らされていて。
夕日に赤く染まったリボンが、風にかすかに揺れていて。
オレは思わず、お前のそんな横顔を見つめていたんだ…

『…じゃあ、また明日も…あの場所で。』

オレが言うと、お前はオレに振り向いて。
そして、にっこり笑ってくれて。

『…うん。あの場所で。また…おんなじ時間に。』
『ああ。』

言いながら、オレがお前の手を握ったら、お前はびっくりしたように手を引っ込めようとして。
でも、それでもオレが握っていたら、お前もぎゅっと握り返してくれて。
そして、オレたちは…

『きれいだよね…』
『…きれいだな』

そのまま、夕日が落ちるまでそこで立ってたんだよな。
明日もきっと、そんな夕日を一緒に見れるんだって、思いながら…
オレは…
 
 
 

オレはあゆの手をそっと握った。

「…え?」
「………」

あゆはびっくりしたようにオレを見たけど、オレは黙ってあゆの手を握っていた。
あゆの小さな手。
ゲームセンターに入ったときに手袋をぬいだその手は、冷たい風の中でも温かかった。
オレはその温かい手を握っていた。

「………」

あゆはオレの顔を見上げていた。
夕日に染まったその瞳で、オレを見つめていた。
黙ってオレを見上げて、そして

そしてオレの手を握り返してくれた。
温かい手で

あの冬と同じ

温かい手

オレは…

「…また明日…会わないか?」
「…え?」

オレの言葉に、あゆは驚いたようにまたオレを見つめた。
オレ自身も驚いた言葉に。
オレは…

「…嫌なら、いいんだ。」
「………」

あゆは黙ってオレを見上げていた。
その瞳が…

「………ううん。」

あゆは顔を伏せると、小さく首を振った。

「…明日も…会いたい。」
「………ああ。」
「じゃあ…明日は…」
「…ああ…放課後に…」
「…あのベンチで、いい?」
「え?」

ベンチ…

オレはあゆの顔を見つめた。

ベンチ…
歩道橋の近くの、あのベンチ…あそこは…

「駅前の、あの…ベンチ。」

あゆはオレの顔を見上げて言った。

「……ああ。」

オレは一つ息をついた。
駅前のベンチ…オレとあゆが、この冬に出会った場所。
初めての出会いだと、思っていた場所…

オレはうなずきながら、あゆの手を握っている手に力を込めた。
あゆはオレを見上げると、ちょっと微笑んだ。
オレは赤く染まったあゆの顔を見ながら、微笑んで…

「…あっ」

ふいに、後ろのほうで小さな声がした。
オレは何となく振り返った。

赤く染まった商店街の、まだ人通りのある通り。
紅の制服に、襟まで夕日に赤く染まっていた。
腰までの長い髪が、わずかに風に揺れていた。
名雪が立ち止まって、オレたちを見ていた。
大きく目を見開いて、オレとあゆを見ていた。
まるで、幽霊でも見ているように…
いや、まるで過去からの亡霊を見ているような…

「………!」

傍らであゆも振り返る気配がした。
あゆも振り返ったまま、黙っていた。
黙って名雪の姿を見ているようだった。

「………」

名雪はくるりと振り返った。
そして、そのまま駆け出した。
赤い夕暮れの商店街を、黙って駆けていった。

オレとあゆも黙ったまま、名雪の姿が消えるまで立ち尽くしていた。
赤く染まった商店街で、赤い姿が消えるのをただ黙って見つめていた。
 

名雪の姿は、通りを曲がってすぐに見えなくなった。
 
 
 

もうとっくに陽は落ちてしまっていた。
オレはリビングのソファに座って、ぼんやりと天井を見つめていた。

オレとあゆはあの後、あゆの門限もあるのでしばらくして別れて帰った。
送ると言ったのだが…またミイちゃんにでも会ったらと、あゆは固辞するので、オレたちは駅前で別れた。
あゆはオレに手を振りながら、ずっと手を振りながら帰っていった。
オレは…

オレはあゆを見送って、水瀬家に帰った。
名雪はとっくに帰って、部屋に上がっていた。
でも…

ご飯になっても名雪は部屋を出てこなかった。
秋子さんが呼んでも、何も答えなかった。
いることは間違いないが…部屋に篭って、秋子さんが来てもドアを開けさせなかった。
それでも秋子さんは首をかしげただけで
『では、後で部屋の前においておきますね。』
そう言って、そのまま部屋を離れて、それっきり。
いつもながら、秋子さんには…驚くというか…頭が下がるというか…
そして、オレは…

ふっきれたわけじゃない。
そんなこと、できるわけがない。
でも、ほんの少しだけ…気持ちが落ち着いた気がして。
あゆと会ったせいだろうか?
あゆの顔を見て…オレは…

…そんなことでいいのか?
オレは…
オレの…罪…

でも、どうして…あゆは覚えていないんだ?

いや…
覚えていないのなら、その方がいい。

それに、やっぱり全てはオレの妄想かもしれない…
あゆの記憶の方が正しくて、全てはオレの夢…

嘘だ!
そんなはずはない!
オレの中で声がする。
責任逃れだ。そんなセリフ。
オレは…ずるい奴だ。
オレは…

「…祐一さん。お茶…飲みますか?」
「……え?」

キッチンの方に振り向くと、そこに秋子さんが立っていた。
手にはポットの載ったお盆を持って、オレを見て微笑んでいた。
「飲みたくなったもので…せっかくですから、ご一緒にどうですか?」
「…いや…」
「…神経が落ち着くお茶ですから、寝る前に…どうぞ。」
秋子さんは言いながら、オレの前のソファに腰を下ろした。
…選択の余地はないようだった。
「…では、いただきます。」
「はい。」
秋子さんは頷くと、カップを二つ、ひっくり返した。
そしてポットを持ちあげると、ゆっくりと中のお茶を注ぎこんだ。
甘いような…知らない、でも懐かしいような香りがリビングに広がった。
「…どうぞ。」
秋子さんはポットを置くと、オレの前にカップを置いた。
「…いただきます。」
「…はい。」
オレは手を伸ばすと、カップを持ちあげて一口、お茶を飲んだ。
香りと同じほのかに甘い…懐かしいような、知らない味が口いっぱいに広がった。
「…おいしいですね。」
オレが言うと、秋子さんは黙ったまま微笑んだ。
そして、自分もお茶を一口飲むと、小さく息をついた。
オレはもう一口お茶を飲むと、カップを置いた。
「…秋子さん。」
「…はい?」
オレは秋子さんに頭を下げた。
「…すいません、今日は…学校、休んでしまって。」
「………」
「オレ…その、オレは…」
「………」
秋子さんは黙っておれを見つめていた。
そして、またにっこり笑った。
「…いいんですよ、そんなこと。そうすることが必要なら…わたしは、そのためにいるんですから。」
「…でも…」
「祐一さんにとって、そうすることが必要なら…それでいいんですよ。無理に行くことは…ないんじゃないでしょうか?そう…思います。」
秋子さんは言うと、またカップをもって一口お茶を飲んだ。
穏やかに微笑みながら、オレを見て頷いた。
そして…それ以上、何も言わずに天井をぼんやりと見ている様子で。

…きっと、これ以上、秋子さんは聞かない気だろう。
秋子さんは…そういう人だ。
オレにもそれはよく分かっていた。今朝のあの置き手紙…そして、さっきの名雪…
それが秋子さんの考えで、秋子さんの優しさで…
でも…

オレはカップを置くと、ソファに座りなおした。

「秋子さん…」
「…はい?」

秋子さんはオレの顔を見た。
オレは秋子さんの目を、じっと見つめながら

「…オレ…思い出しました。あの…冬のこと。」
「………」

秋子さんは黙ってオレを見つめていた。

秋子さんは知っている。
それは…もう分かっていた。
一昨日、あゆを見たときの驚きよう。
『あゆちゃん…無事で、あんな元気で…』
あの言葉。
『…あの木のこと、覚えて…いますか?』
そう言いながら、オレの顔をじっと見ていた瞳…

「…オレ…思い出したんです。7年前の冬…あゆのこと。あの…木のことも。」
「……そうですか。」

秋子さんは、ほうっと息をついた。

かちゃん

秋子さんがカップを置いた音がリビングに響いた。
「何もかも、ですか?」
「…全部、ではないと思います…でも…」
「………」
「…あゆの、こと…あの冬、オレが…あゆと会って…そして…あゆが…あの木から落ちたこと。それは…完全に思い出しました。」
「…そうですか。」
秋子さんはオレの顔を見つめながら、小さく頷いた。
見たこともないような真剣な顔で、オレに頷いた。
「…秋子さんは…あゆのこと、全部知っているんですか?」
オレが聞くと、秋子さんは小さく首を振った。
「いえ…わたしは、祐一さんがあの事故で…警察が事情を聞くために祐一さんを連れていったとき、ついていったんです。あゆちゃんの名前は、その時に聞きました。それまでは…全然。」
「…そうですか…」
「ええ。その時に、あゆちゃんは意識不明の重体だって聞いて…だからこの間見たとき、本当に驚いたんですよ。ああ、無事だったんだなって…」
「…しばらく眠っていたそうですけど、手術で目が覚めたって…だから、一年遅れだけど学校にもいって…」
「そうですか。じゃあ…本当によかったですね。祐一さん。」
秋子さんはにっこりと微笑んで言った。
オレは…
「………」
オレは首を振った。
秋子さんに、首を振っていた。

やっぱり、夢じゃなかった。
オレの思い出は…あゆとのオレの思い出、そして…
そして、オレの…罪は。
分かっていたけれど…オレには分かっていたことだけど。
でも、それが…はっきりと…

「…よく…ないですよ。」
「……?」
「…あの事故は…オレが…オレのせいであゆは落ちたんです!」
「……祐一さん…」
「オレは…」

『…無理しないほうがいいよ。やめとけば?』
『…大丈夫?』

心配そうなあゆ
それなのに…

『ほら、祐一くん、手…』

心配してくれたのに
なのに
オレは…
 
 
 

『危ないっ!』
 

『祐一くん!!』

『あゆっ!!』
 
 

オレの手の先

白いリボンが
 
 
 
 

揺れながら
 
 
 

『ゴトッ』
 
 
 

『あゆっっっっっっ!!!!!!!!』
 
 
 

オレは…
 
 
 
 
 

「…オレのせいじゃないですかっ!オレの…」
「…祐一さん…」
「なのに、オレは…」

握りしめた手が…痛い。
でも、そんな痛みは…
そんなもんじゃ、オレは…

「…あゆのこと、忘れて…オレのせいなのに…オレのせいだから、だから忘れて…あゆのこと忘れて…逃げたんです。逃げた…オレは卑怯者です。そうでしょう、秋子さん!」
「…それは…」
「なのに、帰ってきて…オレはあゆの前にいる。あゆの前にのうのうとオレはいて、そして、あゆのこと、オレは…」

オレは…
オレの気持ちは…
オレの罪は…
オレの…

「…オレは…オレには、分からないんです…どうしたら、あゆに償えるのか…」
「…償い…?」
「…オレは…あいつの怪我は、オレのせいだ。あいつが一年遅れなのも、あいつが自分の傷痕にコンプレックス持って…あいつを不幸にしたのは、オレなんです。この、オレなのに…なのに…オレは…どうしたら償えるのか…オレには分からない…分からないんです…オレは!」

オレはテーブルに手をついた。
テーブルを握りしめた。
オレは…
オレの罪…

「…祐一さん…」

秋子さんはとまどうようにオレを見ていた。
オレを見ながら、口を開いた。

「…そんな…償いなんて、そんな風に思うのは…」
「でも、そうじゃないですか…あいつの怪我は、あいつの傷がオレのせい…オレのせいなんだ。オレの…だから、オレは…」

声が、詰まった。
それ以上、言えなかった。
オレはテーブルを掴んだまま、立ち尽くしていた。
秋子さんの顔を見ながら、立ち尽くしていた。

秋子さんが悪いんじゃないのに。
悪いのは…
卑怯なのは…オレ…

秋子さんは困ったようにオレを見つめた。
オレを見つめて…口が…
 

カタン
 

廊下のほうで、物音がした。
いや、した気がした。

オレは手をテーブルから外すと、振り返った。
そして、秋子さんにはなにも言わずにリビングの出口から廊下を覗いた。

誰もいなかった。
そこには誰もいなかった。
ただ、かすかに冷たい風が、廊下を吹き渡って…

「…どうか、しましたか?」

秋子さんが不思議そうに聞いてきた。
オレは振り返って、首を振った。

「いえ…何か、物音がした気がして。でも…気のせいでした。」
「…そうですか。」

秋子さんは手を頬にやると

「…祐一さん…」
「…秋子さん、オレ…もう、寝ます。」

オレは秋子さんが言いおわらない前にそう言ってリビングを出た。

「…祐一さん?」

秋子さんがオレに呼びかけたが、オレはそのまま廊下を歩いた。

今は…秋子さんと話を…
いや、勝手にオレの気持ちを、事情をぶつけておいて…そんなセリフ。
オレは…やっぱりオレは卑怯な奴だ…

「…祐一さん。」

階段に足を掛けたところで、もう一度秋子さんがオレを呼んだ。
オレは…

「…はい。」

オレは立ち止まって、リビングの方を見た。
秋子さんはリビングからオレの方を、覗き込むように見つめていた。

「…おやすみなさい、祐一さん。」
「……え?」

思わず、オレは秋子さんの顔を見た。
秋子さんはリビングの灯の中で、にっこり微笑んで

「…休んで、ゆっくり考えてください。それが…いいと思いますよ。」
「………」
「…でも、よく考えてくださいね。祐一さんは…何をしたいのか。何を…本当にするべきなのかを。」
「…秋子さん…」
「…おやすみなさい。」

秋子さんは言うと、もう一度にっこり微笑んだ。
そして、リビングに消えていった。

「…おやすみなさい。」

オレは秋子さんに…リビングの方に頭を下げて、階段を登っていった。
薄暗い階段…二階の廊下。
名雪の部屋の前は、何も音がしなかった。
多分…眠っているのだろう。もう8時だし…
それに、きっと…

オレは名雪も傷つけている。
あゆだけじゃなく、名雪も。
名雪は…オレを好きなことは、オレも分かっていたくせに。
知らないフリをして…
名雪の前で、オレはあゆと…
だから…

だけど

オレは首を振って、名雪の部屋の前を過ぎた。
そしてドアを開けると、自分の部屋に入った。
そのまま、オレはベッドに倒れ込んで…

考えていた。
あの冬の日のこと…

…あゆのこと。
あゆのことを考えていた。
いつの間にかあゆのことだけを考えていた。
考えていた。
 
 
 

「…ふう」
ボクはベッドに寝転がって、天井をぼんやり見ていた。
夕食後のひととき。
多分、もう少ししたら、ミイちゃんがお風呂に呼びに来る。
その前に…学校の宿題をしておいたほうがいいんだけど…
だけど…

…えへへ
なんか…ちょっと顔、ほころんじゃうな。
だって…

『…昨日のこと…その…後悔、してる…の?』

昨日から、ホントに…聞きたかったこと。
昨日の夕方の、あの言葉…
『ごめん』なんて言ったこと…
祐一くん…やっぱりボクのこと、なんて…

それに、今日もなんか、祐一くん…変だったし。
変にボクに気を使うっていうか…いつもみたいに、ボクのことからかったりしないし。
だから、ボク…

でも

『だって、昨日…祐一くん、ボクに…『ごめん』って…』

ボクの言葉に、祐一くん、言ってくれて。

『…それは、違う。それは…後悔なんて、してない。』

はっきり、言ってくれたから。
そして

『…また明日…会わないか?』

祐一くん、言ってくれたから…
ボクの手、握りながら…言ってくれた。
だから…

いいんだよね。ボク…信じても。
祐一くんが…ボクのこと、好きなんだって…信じても。
好きだから…だから、キスしたんだよね?
そうなんだよね…

祐一くん…
祐一くんも…照れてたの?
そうだね。きっと。
だって、祐一くんって…ホントはちょっと照れ屋みたいだから。
だから…だったんだね。
だから、あんな風に…

…ボクも、そうだから。
なんか、意識しちゃうと言うか…

だって…初めてだもん。
ファースト、キスだったんだから…ボクの…

「…はあ」

思わず、またため息が出る。
なんか、考えただけで顔、赤くなっちゃうよ。
うー…

ボクは転がって、タンスの方を向いた。
反対側は、向くとリボン、つぶれちゃうから。
今日は昨日してた、あのリボンじゃないけど…

…いいんだよね?
ホントにいいんだよね、ボク…こんなふうに思ってて。
祐一くん、ボクのこと…

…名雪さんじゃなくて、ボクのこと。
そうなんだって…
 

…名雪さん…
ボクのこと、見てた。
ボクのこと、真剣な顔で見てた…
やっぱり、名雪さん…祐一くんのこと…

そうだよね…
やっぱり、そうなんだよね。
分かって…たけど。だけど…
だけど、ボクだって…だから…
 

だけど、ホントに…夢みたい。
明日も祐一くんに、会えるなんて。
それも…二人で…待ち合わせして。
ただ会うために…他の用事じゃなくて…他の誰と一緒でもない…二人で。
初めての待ち合わせ…

えへへへへ
やっぱりこれって…デートかな?
放課後じゃ、そんな、どっかに行けるわけじゃないけど…
…デート、なんだよね?
二人で待ち合わせして…
商店街をブラつく…それだけでも…デートだって、そう思ったら…
 

…はあ。
夢、みたい…
ホントに、夢みたい
祐一くんと…ボクが…


 

恋人…
 

コンコン

「あゆちゃん、いる?」

入り口でノック。
お姉さんの声が。

「あ、はい。」

ボクはあわてて立ち上がると、入り口のドアのところまで行って

「…何か…」
「…あゆちゃんに、面会の人、来てるの。」

お姉さんはちょっと微笑んで言った。

「…面会…?」

ボクは腕時計を見てみる。
もう、8時すぎ…誰だろ…
学校の友達だったら、電話でいいんだし…明日も会えるし…

…ひょっとして…

「…お、男の人、ですか?」

そ、そんなはず、ないよね。
だって、夕方にも会ってたんだから。
でも、ひょっとして明日は用事があって、それでそれを知らせに…

「…いいえ。女の子。あゆちゃんと同じくらいの。」

お姉さん、小さく首を振って

「面会の部屋、開けておいたから。あと、もしもあゆちゃんの部屋に入るんだったら…」
「あ、はい。連絡、します。」
「お願いね。じゃあ…待たせちゃってるから、早く行ってあげて。」
「はいっ」

ボクはあわてて飛び出すと、玄関に向かった。

でも…誰だろ。
女の子…明美ちゃんかな?
でも、だったら電話してくるはずだし…
香奈美さん…だったらボクと同じくらいなんて、見えないし…
いったい…

思いながら、ボクは廊下を玄関の方まで駆けていった。
そして、頭を下げながら

「お待たせ、しましたっ。えっと…ボクに…」

あっ
 

思わず、ボクは立ちすくんでいた。

名雪さんがそこに立っていた。
玄関の灯の下に、名雪さんがボクを見つめて立っていた。
真剣な顔で…

「こ、こんばんわ…」

「…こんばんわ。」

名雪さんはちょっとかすれた声で答えた。
ボクを見つめたままで答えた。
ホントに、真剣な顔…

「…あの…上がり、ます?」

ボクはちょっと微笑んでみせながら、名雪さんに聞いた。
面会用の部屋、開けてもらってるし。
それに…なんか、名雪さん…

「………」

名雪さんは小さく首を振った。
そして、ボクの顔を見つめながら

「…外…ちょっといい?」
「…え?」

ボクが聞き返したときには、もう名雪さんは外に出て行こうとしていた。
ボクはあわてて靴を出して履いた。
名雪さんは振り返りもしないで暗い外に出ていった。
ボクは靴を履き終わると、ドアを開けて外に出た。
 
 

外は晴れ上がって星が見えていた。
半月近い月が、あたりをぼんやり照らしていた。
入り口の門の近くまで、名雪さんは歩いていっていた。
ボクはちょっと走って名雪さんのところまで行った。

「…あの…名雪、さん?」

見上げると、名雪さんの顔は入り口の街灯に浮かんで見えた。
白く…ほの白く浮かんで見えて

「………」

黙ったままの名雪さん。
ボクをじっと見つめていた。
風がちょっと吹いて…

「あの、ここじゃあ…あの…」

部屋着じゃ寒かったから。
ボクは名雪さんにもう一度、声をかけた。

「…あゆちゃん、だったんだ…」
「…え?」

名雪さんの言葉。
なにを言ってるのか…分からなくて。
ボクは名雪さんの顔を見つめた。
ボクの顔をじっと見詰めている、名雪さんの顔を見上げながら

「あの…」
「…あゆちゃん…」

名雪さんは急に顔を伏せた。
長い髪が、微かに…震えて…

名雪さん…震えて…

「…名雪さん?」

ボクが一歩、前へ出たその時。

「…あゆちゃん、ひどいよっ!」

名雪さんの腕がボクを掴んでいた。
ボクの肩を、ぎゅって掴んで

「あゆちゃん…祐一の気持ちにつけ込まないでっ!ひどい…ひどいじゃない!」

「……え?」

ボクの体、揺れていた。
肩を掴んでる手…痛いくらいで。
ボクは名雪さんの顔を見ていた。

何を言っているのか、ボクには分からなかった。
名雪さんが何を言っているのか…
名雪さんの顔を見ているだけで…

「ひどいよ…やめて!そんなの…ひどいじゃないっ!」

ボクを揺らしている名雪さんの腕。
震える腕。
震える髪。
震える…体。
震えて…落ちる涙。
名雪さんの目から落ちる涙が…

「名雪さん…」

「あなたは知らないかもしれないけど…あなただって、大変だったのかもしれないけど…だけどねっ、あの日…あなたが木から落ちたあの日…祐一、あなたが死んだと思って…だから、ショックで、もう、ひどい状態だったんだよっ!『オレのせいなんだ』って、自分を責めて…今にも後を追って、死んじゃいそうなくらい…だから…
でも、だから、わたし…」

名雪さんはボクを揺らす手を止めた。
顔を上げてボクをキッとにらむように

「わたし、祐一が好きだったから。だから、あの日…あの夜に…
それに、あれからもずっと好きだった。だから、ずっと待ってた…待ってたんだよっ!約束、信じて…待ってたのに…なのにっ!」

「名雪…さん?」

「他の娘なら…だったら、しょうがないと思ったけど。悲しかったけど、しょうがないって…そう思おうって、一生懸命思おうって、そう…なのに…
なのに、それが…それがあなただったなんてっ!
今日の夕方、見た時、まさかって思った…あの冬、見かけた二人みたいで…だから…でも…そんなことないって、思って…でも…
でも、やっぱりそうだった。そうだったんだ…そうだったんだねっ!」

「ボ、ボク…」

「そんなの…そんなの、ひどいよっ!ひどすぎるよっ!祐一に…わたしに…ひどすぎるよ、そんな…あゆちゃん!祐一の罪悪感につけ込むのは止めてよっ!そんなの…ひどいよっ!!卑怯だよ、あゆちゃん…あゆちゃん!!」

名雪さんの目から、涙が溢れていた。
ボクの肩を掴んで、がくがく揺らしていた。
痛いくらい、掴んで…

何を言ってるのか、分からなかった。
ボクが…何をしたの?
祐一くん…名雪さん…ひどいって?
ボク…

「ボクは…そんな…」

「もう、祐一の前に現れないでっ!顔を…姿を見せないでっ!近付かないでよっ!!近付いたりしないでっ!!」

名雪さんは叫んで、ボクを突き飛ばした。

どさっ

ボクはそのまま、雪の上に尻餅をついた。
あわてて見上げると…

「許さない…これ以上…許さないからっ!」

名雪さんが走っていくのが見えた。
長い髪が街灯に黒く、白く輝きながら、走っていく姿…

ボクは座りこんでいた。
ボクは…

何を言ってるの?
名雪さん…
なに勘違いしてるの?
それは、ボクは祐一くん…でも…
でも、ボクは木から落ちたことなんて…

木から…
 
 

大きな木

見上げても、てっぺんも見えない、大きな大きな木…
 
 

『な。凄いだろ?』

誰かの声。
ボクの知っている…
…ボクが好きだった人の声。

『うん…凄いよ…』

見上げながら、ボクは言って、そして…
振り向いて

名前を

呼んで
 

『祐一くん』
 
 
 
 

え?

ボク…
 
 

祐一くん…?

だって、ボクは祐一くんと会ったことなんて…

ボクは
 
 

ボク…
 
 
 
 

『ボク、木登り得意なんだよ』

『危ないから降りてこいっ!』

ずっと下で呼んでいる声。
ボクを見上げて…

『平気だよ』

『俺は平気じゃない』

『どうして?』

『オレは、高所恐怖症なんだ…人が高いところに登ってるのを見るだけでも恐いんだ』

思わず笑いながら、ボクは見下ろして

『でも、風が気持ちいいよ』

冷たい風…
でも、優しい風が…

『街が、あんなに小さく見えるよ』

遥か下に見える街。
夕日に赤く染まって…

『本当に、綺麗な街…』

『…いいけどな。陽が暮れる前に…降りろよ。』

しょうがないなって声で…
でも、やさしい声…
ボクを見上げている顔…
 
 
 

祐一くん…
 
 
 
 
 

…何、これは?
ボクが…どうして?
こんなの…

だって、ボクは…お母さんと…
事故にあって。
だから…
木から、なんて…
 

落ちる…
 
 
 
 
 
 

落ちる
 
 
 
 
 
 

『ほら、平気だろ?』

『祐一くん、早く登ってよ…』

『いいから…』

『ほら、祐一くん、手…』

伸ばした手

その時
 

風が
 
 

『あっ』
 

『祐一くん!』
 

『危ないっ!』
 

伸ばした手

ボクの
 
 
 

ボクは
 
 
 
 
 
 
 
 

『祐一くん!!』
 
 
 
 
 
 

白い雪
 

赤い空
 

大きな
大きな大きな木
 
 
 


 
 
 
 
 
 
 

…嘘でしょ?まさか…だって…

ボクは…
 

ボク…
 
 

ボクは雪の中、座り込んでいた。
冷たい雪の中で、座り込んでいた。

白い記憶の中で
座り込んでいた
ボクは
 

<to be continued>

-----
…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
………
「………」
………
「…長さの話でも…しますか?」
……ああ。
「………」
……最長だよ。
「…そうですね。」
………
「………」
………
「…やっぱり、あなたが書くべきものじゃ…ないんじゃないでしょうか。」
……そんな、いわゆるドラマ系の人の書く物に比べたら、こんなの…ちゃちなもんだよ。でも…オレには…
「…でも、書き始めたら…書き終わらなきゃ、ですか?」
……ああ。それに…最後はハッピーエンド、だから…
「…そうですね。」
………
「………」
………
「…では、次回を…書きましょうか。」
…ああ…そうだ…ね。書くよ…

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