16才・ひまわり (心象風景画 Picture5)


天野美汐SSです。真琴のネタバレになるかもしれません。

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16才・ひまわり (心象風景画 Picture5)

わたしは闇の中にいた
闇が暖かく優しいものだと感じていた。
信じていた。

高校生活は単調だった。
わたしは夏休みに入るまでに、一人の友人も作らなかった。
中学時代と変わったことは
「なぐさめ」という偽善がなくなった代わりに
変わらぬ「うわさ」と「無関心」が
わたしを人から遠ざけていた。

夏が盛りを越えていた。
そしてわたしはさまよっていた。
あの夏の日が再び巡り、わたしは日常を拒絶した。
わたしは美宇との思い出を追って
あの歩道橋でぼんやり過ごし
そして街をさまよった。
あの最後の日が再び巡り
あれから1年たったことを
わたしは信じたくなかった。

去年のあの夜と同じ日付は、それでも巡ってきた。
朝から雨が降っていた。
わたしは歩道橋の上にいた。
わたしは傘も差さぬまま、美宇と出会った場所にしゃがんで
空が闇に変わるのが、わたしの目には映っていた。

街が寝静まっていた。
わたしはガードレールに座り込み、黙ってコンクリートの白壁を見上げていた。
数多く見える窓からは、何の光も漏れていなかった。
「夜間外来」と書かれた灯だけが、さびしく白い光を放っていた。

街は今日という日を静かに過ごし、時計は明日を今日にした。
わたしは冷たい現実を
冷たい濡れた服の重さを
背負って家にたどり着いた。

家は真っ暗に静まり返り、時計の音だけが響いていた。
拒絶しているわたしのことを待つ者などいるはずがなかった。
わたしは濡れた服のまま、自分の部屋に入ろうとした。

わたしの部屋のドアの前、小さな何かが置かれていた。
拾い上げてみると、それは何も書かれていない封筒だった。
わたしは部屋に入ってから、その封筒を逆さに振った。

床の上に、白い四角い紙切れのようなものと、便箋が一枚舞い落ちた。
わたしは紙切れを拾い上げ、それをゆっくり裏返した。

美宇

美宇がそこに笑っていた。
わたしの腕に抱きついて、楽しそうに笑っていた。
そして美宇に腕を引っ張られて、楽しそうに笑うわたしがいた。
それはあの幸せな日々に、ふざけて母が撮ってくれた
他愛もない
だけどかけがえのないスナップだった。

わたしは写真を抱きしめた。

全て捨てられたはずだった。
なにもかもなくなったはずだった。
美宇の思い出に繋がるものは、全て失われたはずだった。

便箋は3行書かれているだけだった。
しばらく見なかった父の筆跡が
『誕生日おめでとう』
そのすぐ下に
『これだけが残っていた』
そしてその少し下に
『すまない』
と黒く踊っていた。

わたしは写真を抱きしめたまま、ベットに体を横たえた。

写真の美宇の笑い顔が、今のわたしを、わたしの拒絶を責めていた。
わたし、天野美汐
まだ、心は開けない。
だけど再びわたしの中に「両親」が戻った16の夏だった。

<to be continued>
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陳腐ですいません。
美汐の心を”癒す”には、陳腐でもこれしか浮かびませんでした。
悲しいけれど、これが才能の無さなのだと思います。
それでも、最後に書きたい大団円とは別に、
もう一話、書けたらこのシリーズを書くかもしれません。
もしも読んでくださる方が、おられれば…ですが。

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