祈ったことは何ですか?

(Forget me, Forgive me / Original Side-3)


栞&あゆSS。ネタバレあり。

シリーズ:Forget me, Forgive me / Original Side

では、どうぞ

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公園の噴水
                森の大きな木

噴水を照らすライトの中
                木々を照らす夕日の中

他の女の子と同じ
                親のいる子と同じ

        そして

あなたと
                キミと

        そして

        ここで…
 

祈ったことは何ですか? (Forget me, Forgive me / Original Side-3)
 

「何でだよっ!」

立ち尽くすあゆさん。

「何で栞ちゃんがっ!」

立ち尽くすわたし。

ベッドで眠るあゆさんが
わたしを見つめて立ち尽くす
青い顔で眠る
赤い目でわたしを見る

なんて不思議な夢だろう。
想像したことさえない。

わたしはあゆさんを見つめる。
あゆさんはわたしを見つめる

「栞ちゃん…キミ、まさか…」

あゆさんの目がわたしを
わたしを上から下まで

「…そんな…」

ふらふらと
ふらふらと
近寄ってくるあゆさん

「…栞ちゃん…キミ…」

わたしはあゆさんを見つめる。
あゆさんの目が
わたしの目を
覗きこむように

「…まさか、キミ…」

だって、これは夢だから。
わたしはあゆさんの顔を見る。
わたしは涙も流さずに
わたしは笑いを浮かべながら

「わたしは…もう死んでます。」

なんて酷い夢。
笑うしかないじゃない。
これがわたしの死んだ後の世界。
こんな夢を
こんな死を

「…酷いよっ!」

笑っているわたしに
あゆさんが飛びついて
わたしはベッドに転がって
あゆさんが上に
わたしが下に

「これじゃ、ボクは…」

あゆさんの顔が

「死んでるのはボクなのに…」

涙が頬を

「せっかくボクは…」

頬から落ちて

「栞ちゃんに…」

わたしの顔に

「…任せようと思ったのにっ!」

何を言っているんだろう。
夢だとしても酷すぎる。
わたしが任せようとして
返してあげたあゆさんに
どうしてわたしが
どうして

「祐一くんはどうなるんだよっ!」

それはわたしの言いたいこと

「あんなに、楽しそうにして…」

あの夢の一週間

「幸せそうにしてたから…」

最初で最後の幸せな日々

「だからボクは…」

だからわたしは

「栞ちゃんに祐一くんを…」

あとはあゆさんに

「任せようと思ったのに…」

祐一さんを任せて

「ボクは消えるから…」

わたしは死んでしまうから

「でも、これじゃ、栞ちゃん…」

でも、あそこで眠るあゆさん…

「ボクは…」

わたしは…

あゆさんはわたしを見た。
涙で濡れた瞳で
わたしの顔を見つめて
わたしの襟を掴んで

「祐一くんを、もてあそんだんだねっ!」

もてあそぶ…わたしが?

「そんな栞ちゃんに、奇跡なんてあげないからっ!」

奇跡…何の?

なんて変な夢だろう。
こんな夢ってあるのだろうか。
わたしの最後の願いが
もてあそぶことだったなんて
わたしの望んだ奇跡を
誰かが起こせるなんて

『奇跡でも起きたら…』

わたしの望んだ

『でも、起きないから奇跡って言うんですよ』

わたしが願った

『奇跡が起きたら、学食で…』

わたしが祈り続けた

奇跡があなたに起こせるの?
奇跡
奇跡が…

これは夢じゃないの?
こんな酷い夢
こんな悪い夢
でも、もしも…

「ボクには…できるよっ!」

見下ろすあゆさんの瞳
見上げるわたしの瞳が映る
あゆさんの瞳が
わたしの瞳が

「7年間、ボクは…」

生まれてからずっと

「ボクは眠り続けて…」

幾つも病院に通って

「死を引き伸ばし続けて…」

まともに学校にも行けなくて

「それでも待ち続けて…」

友達だってできなくて

「街をさまよって…」

買い食いだってしたことがない

「祐一くんを待ち続けて…」

そんなわたしが最後に願った

「そんなボクに」

そんなわたしが

「一つだけ」

一つだけ

「願いをかなえることができるようになったんだ。」

願った最後の日々が

「だって、この世界はボクの夢だから。」

わたしの最後の夢

これがあなたの夢?
これはわたしの夢?
あなたが奇跡を起こせて
わたしはこのまま死んでいく
あなたに
わたしに

これがあなたの夢なら
これがわたしの夢なら
だけど
だけどこれは
これは

見上げるあゆさんの目に
映っているわたしの目に
映る瞳
映す瞳
わたしの

どうしてわたしが

「…ふざけないでよっ!」

わたしは突き飛ばす。
床に転がる体。
一緒に転がるわたし。
床に転がるわたしの体。

わたしの体
痛みが
冷たさが
重みがが
痺れが

「栞ちゃん…」

呆然と見るあゆさんの目が
冷たい床が
体の痛みが
わたしの中の死の重み
わたしの中の死の痺れ
それは

わたしは腕をついて
腕が痺れて
体が
顔をあげて

これは…夢じゃない。

わたしの夢じゃない。

だけど…

「…ふざけないでよ!」

あゆさんの夢でもない。

「勝手なことばかり!」

あなただけにそんな資格が

「何が7年よ!」

  『誕生日は越せない…』

「何が死を引き伸ばすよ!」

  『残念ですが…』

「わたしが生まれてから…」

  『お母さんが代わってあげられたら…』

「ずっと望み続けて…」

  『栞…不甲斐ない父さんで…』

「ずっと願い続けて…」

  『栞…ごめんね…』

「ずっと祈り続けた…」

  『どうか…』

「奇跡なんてないわよ!」

わたしの見下ろす目が

「あなたに起こせるわけないわよ!」

あゆさんの見上げた目が

「ふざけないで…ふざけないでよ!」

病室に響く声

「誰がそんな力、くれるもんですか!」

聞こえるのはわたしの声だけ

「消えるなら、勝手に消えなさいよっ!」

消えるのは

「わたしの死を、邪魔しないでよっ!」

死ぬのは

「わたしは…」

「ボクは…」

あゆさんが顔を上げた。
わたしの顔を見た。
その顔が
涙が
わたしを
わたしに

「…消えたくないっ!」

涙が落ちて

  『やりたいこと…』

「ホントは…」

床に落ちて

  『まだまだ…たくさん…』

「ボク…」

あゆさんの顔が

  『たくさん…たくさん…あるのに…』

「ホントは…」

目の前が

  『私……』

「ボク…」

歪んで

  『たぶん…』

わたしの目から落ちていた。
涙があふれて落ちていた。
あふれる涙で歪む顔
あゆさんの顔がわたしを見て
わたしはあゆさんの顔を見て

わたしは
あゆさんは

「死にたくないっ!」

病室に響いていた。
声が響いて消えていった。
あゆさんの
わたしの
この冷たい現実に
声が消えていった。

<to be continued>

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…筆者です。
「仕切り屋・美汐です。」
…暴走、しなかったね。
「…だから、駄作なんじゃないでしょうか。」
…見事な分析だね。何も言えないよ。
「最初から、言いたいんですか?」
…言いたくない。
「…では、次回F,F/OS第4回『そして…』予定は…」
…明日。多分、エピローグと共に、終了。

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